著者の「つい…」を引きだす場づくりも、編集者の大事な仕事 #3
こんにちは、アンノーンブックス編集部です。
UNKNOWNBOOKSのレーベルからの新刊となる、レゲエ・ユニット「MEGARYU」のボーカリスト、RYUREXさんの本。この一冊を通じて、本づくりができるまでのプロセスを追っていくシリーズの今回は3回目をお届けします。
前回までで「どんな本にしたいか」というざっくりとした本の方向性と「どんな人の背中を押したいか」という読者ターゲットを設定した。
次のステップとして、僕らはいよいよ、著者のRYUさんに本の材料となる話を聞くための取材をスタートさせることになった。
* * *
「インタビュー形式で本をつくる場合、どのくらいの時間を取材にかけるべきか?」という質問を新人の編集者から受けることがある。
本の内容や環境にもよるものの、僕らの場合はだいたい、1回につき3~4時間の取材を5回くらいでおこなう。比較的、取材には長めに時間を割いているほうだと思う。とくに、今回のように本を出すことが初めてという著者の場合、周辺情報が何もないところからのスタートになる。
ディテールをリアルに詰めていくためには、単純に著者と一緒に過ごす時間の長さが重要だと思っている。取材中はもちろん、休憩時間にタバコを吸っている時に漏らすひと言や、食事をしている間に打ち明ける何気ないエピソードも僕らにとってはとても大事な本づくりのマテリアルだ。
たとえばRYUさんとは先日、取材の終わりに、僕らスタッフ総勢6名と渋谷の焼き鳥屋さんでワイワイ話し合いながら楽しく食事をした。その後に寄ったワインバーで、すっかり打ち解けた僕らに向かってRYUさんはこう言った。
「やっぱりDカップでしょ」と。
「ん? Dカップ???」
それまで熱く仕事の話をしていたはずなのに、RYUさんの唐突な発言に一瞬、全員が絶句した。
もともとまわりの人を楽しませることが大好きで、本人のキャラクターも抜群にチャーミングなRYUさんのことだから、僕らはてっきりアルコールがまわったRYUさんが女性の胸のサイズの話をしはじめたのだとばかり思い込んでいた。
ところが、真相はまったく違った。RYUさんは「PDCAサイクル」のことを僕らに伝えたかったのだ。
よくビジネス用語として登場する「PDCAサイクル」は、通常「P(Plan:計画)→D(Do:実行)→C(Check:評価)→A(Action:改善)」の順番でまわしていくことで業務が継続的に改善していく、といわれている。
しかしRYUさんの場合は、「D→C→A→P」でまわしたほうがずっと効率よくうまくいく、というのだ。
「最初に『Doする』ことこそ大事。まず動く。そして、その結果によって改善し、よりよい計画を立て直していったほうがずっと早いでしょ?」と。
なるほど、それで「DCAP」。つまり、RYUさんが言いたかった「Dカップ」は、「D-CUP」ではなく「DCAP」のことだったのだとわかった。
……そんなカジュアルな会話ができるのも、一緒に過ごす時間が長いからだと思っている。一問一答スタイルではなく、思いついたことを気軽に口にできる環境を整えたり、他人には言いたくないことであっても「この人にだったら、つい話しちゃう」と思わせる場をつくること。それは編集者の大事な仕事のひとつなのではないか。
そうやって僕らは渋谷で、そして時にはRYUさんのホームタウンの岐阜で、同じ時間を重ねていった。
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