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凪いものねだり【4】
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また会ったね。
背が少し伸びて、髪は短くなって、顔つきはぐんと大人になったね。
初めて会った時はもっと小さかった。
泣いていたね。
6年生に手を引かれていたのに、今では1年生の手を引いている。
大きくなったね。
大人になったね。
もう泣かないんだね。
寂しくないさ。
嬉しいのさ。
でもちょっとだけ、寂しいかもしれない。
久しぶりに実家から小学校までの道を歩くと、田んぼが潰されて住宅になっていた。
6年間毎日見ていた景色が失われていて寂しくなった。
あの6年間はいつも誰かに見守られていて、季節が巡るたびに新しい出会いがあって、本当に素敵な時間だったと思う。
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今日は昨日の続きで、明日も今日の続きで、地球は丸くて回っていて、始まりもなければ終わりもないことを教えてくれたのは独り占めした不眠症。
いつまでもこの場所はいつかの自分の延長線上。切っても切り離せない日常に区切りをつけたくなったら眠りにつこう。夢を見ることが夢になった続きを描く日が来るまで、誰にも共有したくない。街が眠りについても、人々が眠りについても、眠らない街はどこかにあって、眠らない人がここにいて、それでも今日は明日に続いて地球はずっと回り続けて、独り占めしてたはずの不眠症が私だけのものじゃなくて落胆しても、夜が明けて朝が来てまた夜が来て朝が来る事実だけは私のことを置いて行かない。
眠れない夜に街を歩くと、いつの間にか夜が明けて新しい一日が始まる。
眠ったから明日が来るんじゃない。
明日はどうやったって必ず来るんだから、無理に寝なくてもいい。
そう思うと少し心が軽くなったような、でも逆に追い詰められたような。
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甘くて美味しかった。
それだけでよかった。
知らなくていいことを知ることが大人になることなら、子供のままいつまでも甘くて美味しいだけでよかった。
背伸びした時間は、しゃがんだって取り戻せない。
体操着袋でサッカーをしよう。
大声で歌を歌って、田んぼの水で顔を洗おう。
入道雲がソフトクリームみたいで、飛行機雲を追いかけて、擦りむいた膝に唾つけて走ろう。
毎日が違う日だったことを覚えていよう。
残されたできることはもうそれだけなのだから。
まだまだ人生は長く続くと思っているけど、やっぱり過去が良かったと思ってしまうことはやめられません。
これからの人生も悪くはないだろうと心のどこかで予感しているのに、これまでの人生に戻りたくなってしまいます。
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「続く、」
「続いていく、」
「流れる、」
「流されていく、」
「浅く、」
「浅く、」
「速く、」
「遠く、」
「どこまで、」
「どこまでも、」
「永遠、」
「有限、」
「無限、」
「有限、」
「有限、」
「脱力、」
「無力、」
「連続、」
「無数の連続、」
「発散、」
「消えていく、」
「生まれていく、」
「流れていく、」
「流されていく、」
「続いていく、」
「変わっていく、」
「ていく,」
「テイク,」
「ていく みー」
「ていく みー どこに」
「どこまでも」
川にはっぱを浮かべてどこまで流れていくかなーと遊んだ日の記憶です。
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どうだったかな。今日。どうなるかな。明日。未来のことはいつもちょっとだけ知りたくて、同じくらい知りたくない。不確定ないつかのことは愛おしくて大切なのに、確定した明日にはあんまり来てほしくない。明日を踏み越えて不確定な未来に行きたい。空は飛べなくていいから、地面スレスレを浮かびながら進みたい。
中学の時に一番仲が良かった子がよく言っていた。
学校から歩いて帰るの大変だから、3㎝だけ浮いて歩かずに帰りたい。
着実な一歩を踏むことは時に苦痛で、次の一歩を踏み出したらどうなるのかわからないから怖いけれど、でも未来へは間違いなく進みたい。
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春が来たら夏になって、夏が過ぎたら秋が来て、秋は冬を呼び寄せて、冬が終われば春が始まるように、私の前にはあなたがいて、私の後にもあなたがいて、あなたの後ろにはまた別のあなたがいて、ぐるぐる回ってふわふわ漂うデオキシリボ核酸。抜けたって落ちたってそれでも続くデオキシリボ核酸。ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる終わりを知らない。
はじめてこの写真を見たとき、天使の羽かと思いました。
フワフワしていそうだと思いました。
天使はこんなにも身近にいるんだな。と思いました。
天使がこんなに身近にいるなら、輪廻の輪もすぐそばにあるのかもしれないし、物事は全て繋がっているのだと思うことが出来ました。
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「いちたすいちがにになって、
にたすにがよんになって、
よんたすよんがはちになって、」
「収束を知らない無限は簡単にはじまって
いち、ぜろ、に、よん」
「に、ぜろ、よん、はち」
「よん、ぜろ、きゅう、ろく」
「はち、いち、きゅう、に
それを発散と呼ぶ世界があって」
「いち、ろく、さん、はち、よん」
「さん、に、なな、ろく、はち」
「ろく、ご、ご、さん、ろく」
「続くね」
「続くよ」
「ずーーーーーーーーーーっと」
「ずーーーーーーーーーーっと」
「見えないね」
「見えないね」
「あるかな」
「あるかも」
「あるよね」
「あるある」
「あるある」
「あーあ」
「疲れた?」
「お腹すいた」
「お腹。すいたね」
「はじまるよ」
「はじまる?」
「始まるよ。今日もまた」
数学が好きです。
理解はあまりできていないけど。
無限に増えていく数字にときめきます。
水みたい。
終わりがなくて、気付いたら溢れかえっている。
数えているだけで悩んでうじうじしていることがばかばかしく感じられる。
数学が好きです。