傷跡(2022年執筆)


数年前、リスカにハマった時期があった。
ハマる。という言い方は良くないかもしれない。
ただ、気付いたらカッターナイフを腕や足に当てていた。

もちろんとても痛かった。だがその痛みに安心感を覚えたのだ。痛みを感じる、生きているのだと。そして、生きている自分を否定することもできるのだ。

どうしてこんなことをしたのか。と聞かれると自分でもよくわからない。
その衝動に駆られると自分を傷付けてしまい、我に返って赤く腫れた腕をみては後悔と罪悪感に苛まれた。

精神的に病んでいたのは間違いない。
ただ、声を大にして伝えたいのは死にたかったわけではないのだ。
むしろ逆で、生きていることを実感したかった。


ときどき、自分の体と心が離れ離れになる感覚に陥っていた。不安なことがある時、後悔が脳内を覆い尽くしてしまう時、辛い時、ふと自分自身が身体から抜け出してどこかへ飛んでいってしまうような気がした。このまま体の感覚が戻ってこなくなって消えてしまうのではないかという恐怖に対して、痛みを与えることで元に戻ろうとしていたのかもしれない。

その時の傷跡はもうほとんど癒えて、ほとんどなくなった。

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