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ベティに恋をして

以前、僕の部屋に飾ってあったポスター

「Betty Blue」

今日は、そのポスターのなんでもない想い出ばなし。


たぶん、19歳の頃だと思う。
僕は都内の美術学校に通う一人暮らしの学生。

入学した当初は、学校からも遠い千葉県に住んでいた。

学生生活にも慣れていき、友達も増えて来て遊んでばかり、夜は飲んでばかりで、酔っぱらう事も、いたずらをすることも大好きだった僕は、今思えば遊び心から都内のアパートへ引っ越して来た。学校から歩いて25分くらいの場所。

引っ越し当日から、僕の部屋はある意味、たまり場になっていった。男も女も毎晩、いろんな友達が遊びにくる。基本的には楽しいのだが、徐々に自分も変わっていくもので、そんな賑やかすぎる生活が、そのうちほどほど嫌にもなってきた。

友達もその辺を気づいてくれて、宴もほどほどになってきた頃かな。


そんなこんなで、一人の時間も徐々に増えて、絵を描く… いや、本当は曲を書く時の方が多かった。いずれにせよ、不真面目な美術学生でした。

一人の夜も増えて来て、レンタルビデオ店が近くにはなかったので、僕は学校帰りに通り道の中古ビデオ店によく寄っていた。安いものは300円くらいで買えるので、たまに買って、暗い部屋でひとりで観ていた。

ある日、いつものようにその店に寄ると、レジの所の一番広い壁に、このポスターが飾られていた。


一目惚れだった。


「ベティ・ブルー」知ってはいたが、観たことはなかった。

しかし、このポスターに僕は一目惚れをした。

貼ったばかりだと言うことはわかっていたが、僕は、店のおじさんに声をかけた。

「このポスターをください。」


しかし、そりゃあ当然、無理な話だ。

僕は、その後、どうしても諦めきれず、毎日のように通っては、何度もお願いをした。

いつしか「しょ~がねぇなぁ…」と、おじさんは、「じゃあ、次の土曜日に来な…」と、僕に告げた。

僕は、土曜日に行ったらどうなるのだろう?とも思ったが、とにかく次の土曜日まで待つことにして、その間に、ビデオを借りて、ベティ・ブルーを観た。

感想はここでは別に、書かないが、僕はもっと好きになった。


そして、次の土曜日に僕はその店へ行った。店に入り、レジの方向へ進む、その後ろの壁を見ると、もうベティは飾られていなかった。

おじさんに声をかけて、「僕です!わかります!?」と、僕は言った。

「わかるよ!!」「はいよ!!」と、二言目には、僕に向かって紙を丸めた筒を差し出した。

「え!!いいんですか!!!???」僕は、驚きと共に、大きな声を出していた。

「くやしいけど、しょうがないよ。約束しちゃったんだから。。。」

「ありがとうございます!!!!」と、何度もお礼を言って、僕はポスターを抱えて家へ走った。


—— その後、一年後くらいにその店は無くなってしまった。


そのおじさんに、ここで書いてもしかたないが、本当にありがとうございました。今でも、このポスターは、大事に持って… ま… せん。


その後、約10年間くらい、引っ越し先でも、ほとんどこのポスターは飾っていた。でも今は、僕は持っていない。

それから10年近く経ったころ、僕はある一人の女性に出逢った。

僕がアルバイト店員をしていると、突然訪ねて来て、この店の説明を聞いて、「また明日来る」と去って行った人だった。

翌日、本当にまた訪れて、なんだかんだ話をしたりして、その後、仲良くなった。

そして、その彼女がベティ・ブルーが大好きだということを知って、僕もしばらく飾らなくなっていたポスターを、一大決心して、彼女の誕生日にプレゼントした。

普段なら、ずっと大切にしていたものをあげるのは、悩むものだと思うけど、この時は、悩まなかったな。

でも、もう、画鋲の穴とかで破れたり、汚れたりしてしまっているが、彼女になら伝わるだろうと思った。


—— 彼女は、とっても喜んでくれた。


彼女は、とっても信頼している人間の一人だ。あの時は、なぜか僕も嬉しかった。

僕は、彼女もベティも大好きだ。今日は、あれから何年後かの、その日だ。


——・——

——・——


—— そして、それからまた何年かが過ぎていった。

表には見えないことがたくさんある ——


その頃アルバイトをしながら、たまにデザインや映像の仕事を請けて生きていた。

バイトも自分の仕事も、中途半端で、どちらが本業でもなく僅かな収入で、たぶん何気なく生きていた頃だった。

あとから振り返ることができれば、確実に彼女が私の仕事を後押ししていた。友情価格で、時には無償、時には赤字なのだが、いろいろなことを私に頼んでくれた。

その頃から、だんだん仕事が楽しくなった自分がいる。

はっきり思う。—— 彼女が私に見えない仕事の数々を与えていなかったなら。今の私はないだろう。

たぶん、バイトに明け暮れて、いつのまにかデザインも映像も、とっくにやめていたと思う。デザインを仕事にすることと、誰かのために創ることの喜びを教えてくれたのは彼女だ。

会社を起業することを決めた頃、何人かに経理とか少し手伝ってくれと話をした。もちろん、皆そんな経験は無いので、笑って断られた。「そうだよな」と、私も笑っていた。

そんな中、彼女だけは、「ほんっとにダメになったら、私やってあげる。だから、せめて領収書とか書類だけは、まとめておくんだよ!」と、言った。

とても嬉しかった。と同時に、私は自分自身の甘えに恥じた。

たぶん、仕事や時間的には、声をかけた中で一番忙しく生きているであろう人だけが、YESと言ってくれたからだ。


会社名も決まり、はじめての仕事が彼女の依頼だった。これも表には見えない仕事。

その後、ある仕事の予算の話で、それまでの私のやり方を指摘してくれたのも彼女だった。自分でも気にかけていた問題だった。

「ダメだよ!これからはもう、ちゃんとお互い、負担にならないやり方をしよう。あなたも変わってよ。私もそうするから。そうしてどんどんビッグになってよ。」

やるからには、自分が結果出費しても、いいものにしたくなる。彼女と私は、そこが似ていたからこその言葉だった。これは、とても心に響いた。


相変わらずまだまだうだつの上がらない私だが、彼女からの依頼には、断る脳が無い。


—— 何年過ぎたのか、もうわからなくなってきたけど。

彼女は、相変わらず、僕のベティだ。


そして、今日は、また何度目かのその日だ。

Happy Birthday!!!!!


20070827 01:52 + 20090827 22:21







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