WHERE ARE YOU NOW
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①2022年のベスト・ソングTOP5
5. keiyaA - Camille's Daughter
4. Lana Del Rey - Did you know that there's a tunnel under Ocean Blvd
3. Pierre Kwenders - Papa Wemba
2. ROSALÍA - BULERÍAS
1. ROSALÍA - DELRIO DE GRANDEZA
②2022年のベスト・アルバムTOP5
1. SAULT - Today & Tomorrow
1. SAULT - 11
1. SAULT - Untitled (God)
1. SAULT - Aiir
1. SAULT - Earth
③今年の50曲を集めたプレイリストです。興味のある方はぜひ。ちょっと変わったプレイリストになっています(笑)
バッド・バニーの大半の曲が北米だけでなく他の国のチャートも独占したのが象徴的ですが、個人的に昨年から今年にかけてスペイン語圏の曲を聴く機会が増えてきました。その影響もあってか、ボサノヴァ・アイルランド音楽・スコットランド音楽・サンバ・サルサ・ソカ・ボレロ等々、様々なジャンルの音楽に触れるようになり、「ゴム・シンゲリ・コンパス・ビギンとか、知らないジャンルが沢山あって目が回るなー、大変だー」なんて思ったり。とにかく急激に進む円安のせいもあってか(?)、多くの国の音楽を聴いて、それを通じて海外の状況を知りたいと考え、今年の前半は非英語圏の音楽をかなり聴きました。もちろん、北米から出た音楽の中で素晴らしいものもありますが、幼い頃から昭和歌謡・J-POP・英語圏のポップ・R&B・ラップ・ロックを聴いていた自分からすると、新鮮な気持ちで非英語圏から出てきた音楽を聴けるので純粋に楽しいです。そう考えると、「RENAISSANCE」でゴムを取り入れていたし、それ以前からこのジャンルに目を付けていたビヨンセは流石だなと半分上から目線で言ってみたり。
今まで北米を中心として動いていた音楽シーンも変わりつつあると2010年代後半から感じていましたが、今年から徐々にその新しい景色が見えつつあるのかなと思います。それは音楽シーンに限らず、映画やドラマを見ても感じますし、何よりも今年の政治状況を見て、尚更その思いを強くさせるなど。
今年の2月頃からウクライナ侵攻が始まり、現在もなお避難生活を余儀なくされている人々が大勢いて、未だに終息する気配が見えません。他の国々に関するニュースを見てても、思わず眉をひそめるようなことばかり。今後の見通しを持つことがもはや不可能に近い状況です。
日本国内でもかなり狼狽してしまう出来事がありました。それに加えて、未だに収束していない問題も山積み。新聞の第一面の「敵基地攻撃能力保有 防衛費1.5倍」・「戦後日本の安保 転換」という見出しを見たこともあってか、当たり前に日常生活を送っていても悲観的にならざるを得ない場面に遭うこともしばしばです。
個人的にも精神的に疲弊してしまうことがあってか、今年の後半はかなりドメスティックの音楽や、今まで距離を置いてきたアルバムを聴くことが多かったです。かなり気恥ずかしいくらい。学生時代は日本国内から出てきた音楽に対して少し忌避感を感じていたのにも関わらず、人間ってこんなにも変わるものなんだと思うくらいに。「昔の自分はこういう音楽が好きだったな」と振り返ったり、「今でもかなり刺さる曲だな」と改めて認識する機会が多かったなと。そんな中で今年を代表する1枚のアルバムに出逢いました。
佐野元春 & THE COYOTE BANDの「今、何処」です。
一聴してとにかく驚いたのが、サウンドのブレンド具合。「ポスト・ジャンル」の曲がグローバル・チャートの大半を占めている時代の中、まるで美味しいコーヒーを飲んだかのような、滑らかな舌触りと、味わいとともに鼻を通り抜けた時の香りの豊かさを堪能できるサウンドを彼らは作り上げました。多くの曲が「ポスト・ジャンル」化したことによって失われてしまったものを拾い上げるかのような唯一無二のサウンド、これには大変参りました。このサウンドの正体は何なのか、未だに自分は掴めていません。美味しいコーヒーとも表現しましたが、そのコーヒーの正体もよく分かりません。自分の頭の中には確かにその未知のコーヒーがあるのに。上手く表現できない自分に苛立ってしまいそうです。
それはともかく、サウンドだけでなく歌詞も素晴らしかったです。でも正直に言うと、歌詞の内容が現在の自分に当てはまりすぎていたり、これからの自分に必要なことも書かれていて、かなり気恥ずかしかったです。まあ、自分のことは置いといても、変わりゆく時代の中でどういう言葉を残していくのかを考え続ける佐野元春さんの歌詞は、やはり第一線で輝き続けている証なんだなと再確認しました。今回のアルバムを聴いても思いますが、佐野元春さんは、かなり多義的でいろんな解釈ができる歌詞を書かれるからこそ、多くの人の胸を打つことができるアーティストであり、自分が幼い頃に佐野元春さんの音楽を好きになったきっかけはその歌詞にあるということに改めて気付かされました。「今、何処」は、佐野元春さんのキャリアにおける最高傑作の1つであり、個人的に今年最もよく聴いたアルバムとなりました。
佐野元春 & THE COYOTE BANDの他にも、日本から出てきた今年を象徴するアルバムがあります。七尾旅人の「Long Voyage」・ROTH BART BARONの「HOWL」・サニーデイ・サービスの「DOKI DOKI」です。
七尾旅人の「Long Voyage」は、まだ時間をかけてゆっくりと咀嚼したいと思っています。1時間30分というボリュームを1回聴いただけでは正直、理解できないアルバムとなっています。世の中に蔓延っている、解決不能かつあらゆることが複雑に絡み合っている問題に対して、すぐに答えを出そうとしてしまいがちだからこそ、普段の生活とともに時間をかけて少しずつ理解していくことの大切さをいつの間にか忘れかけていたなと、このアルバムを聴いて気付かされました。歌詞を見てみると、これまでにあった出来事でありながらも多くの人の記憶から消えてしまいそうなこと、沢山のニュースを目にしていても気付かなかったこと、見逃していたことを拾い上げるかのような内容で、思わずハッとなってしまいました。自分にとって、多くの人の目からこぼれ落ちるようなことを掬う七尾旅人の言葉は、現在に至るまで彼から目が離せない理由の1つだと改めて思ったり。
サニーデイ・サービスの「DOKI DOKI」は、私たちの日常生活に目線を合わせてくれたかのように言葉やサウンドを紡ぎ、その生活のニュアンスも汲み取ってくれた忘れられない1枚です。
ROTH BART BARONの「HOWL」は、人間の輝かしさだけでなく、愚かさや弱さなどをただひたすら切り取り、かつ表現者として三船雅也が確実に一歩先に進んでいることが証明された1枚でした。
ここまで、今年を象徴するアルバムを何作か挙げましたが、本当のことを言うと、今挙げた4作は今年のベストアルバムTOP50には入りません。矛盾してるんじゃないかと言う人はいると思いますが、なぜかTOP50のリストには入れたくなかったんです。あまりにもこの4作は個人的に思い入れがあるせいでしょうか。TOP50のリストに入っているアルバムはどれも素晴らしい作品であるのは間違いありません。ただ、音楽メディアの年間ベストをいくつか見ていても、こぼれ落ちている作品が結構あるんじゃないかという気持ちになってしまうのはなぜでしょうか?
どれだけ権威のあるメディアが年間を総括しようとしても、どうしてもこぼれ落ちてしまうものが確実にあるのです。それは、これまで人類が歩んできた歴史がどうしても拾えなかった事実を汲み取れなかったことと相似形に見えてしまいます。そして、その「どうしても拾えなかった事実」の中には、私たちがまだ気づいていない大切なものがあるということを自分の胸に留めたいと思います。
とにかく今は不安定な世の中です。どうしても焦りが生じたり、センチメンタリズムになってしまったり、恐怖に苛まれることがあると思います。それもあってか、冒険性があるサウンドというより、世代を問わず多くの人が聴けるような、心が落ち着くサウンドを欲しているんじゃないかと、音楽のチャートを見て感じます。そう考えると、今年を象徴する曲を挙げるとしたら、ハリー・スタイルズの「As It Was」になるでしょう。
「自分は現在、世界から見てどういう立ち位置にいるのか」といった自らのアイデンティティを問い直すことが多い1年でした。自分にとって心が落ち着く場所はどこなのかを探し求めていたような気もします。でも自分は、心が落ち着く場所にただ安住することなく、これまでとは違う景色を見ていたい。これからの世界に対して、悲観的に見るだけではなく、希望を持って生きていきたいのです。そう思うのは、「それはただの希望だと人はいう でも希望がなければ 人は死んでゆく」と佐野元春が歌うからでしょうか。とにかく来年も楽しく生きていきたいという思いで、最後に自分が思う今年の1曲を紹介してお別れです。来年もよろしくお願いします!
※補足 ああだこうだ言いましたが、SAULTの5枚のアルバム同時リリース&5枚全ての作品の完成度の高さにはかなり驚きました。ぜひ聴いてください。