増殖する怪獣から都市文明を守る『クアント』を語る
怪獣とは何か?
ある日、どこからともなく現れた彼らは、圧倒的なまでの暴力の化身として、地上に君臨します。その出自は不明、目的も不明。現代物理学の範疇に収まらない、人知を超えた猛威を振るい、さながら人の手では防ぎようのない災害そのものとして人類が築き上げてきた都市文明を薙ぎ払っていきます。意思の疎通など図りようもなく、人類に残された道はなすすべなく滅びの運命を受け入れるか、あるいは──、
怪獣映画は日本で生まれ、独自の成長を遂げてきたジャンルです。
最も知名度を誇るのは、東宝が制作した『ゴジラ』。ゴジラは怪獣の代名詞として扱われ、多くの続編や派生作品が手掛けられ、近年ではレジェンダリー・エンターテインメントとワーナー・ブラザース・ピクチャーズによる共同制作『GODZILLA ゴジラ』に始まるモンスター・ヴァースシリーズや、庵野秀明監督による『シン・ゴジラ』などが記憶に新しいですね。
そんな、日本が世界に対して誇る文化のひとつである怪獣に目を向けたのが、ドロッセルマイヤーズ渡辺範明さん。
フリーのプロデューサーとして企画をアークライトゲームズに持ち込み、ボードゲーム編集者の野澤邦仁さんと一緒に続けているのが、怪獣災害戦略ボードゲーム『Kaiju on the Earth』シリーズです。
怪獣の襲撃に抗うという人類の受難を描いた『Kaiju on the Earth』シリーズは、そのテーマだけが共通しており、作品ごとにデザイナーも、プレイ人数も、ゲーム形式も異なります。
今回、紹介する『クアント』は、『シェフィ』や『Blade Rondo』で知られるポーンさんによるデザイン。しかも、まさかの1人用ゲームです(2~3人で遊べる協力ルールあり)。
『Kaiju on the Earth』の各作品はシリーズ全体で世界観を共有しており、2019年に東京にボルカルスが出現、2020年に沖縄にレヴィアスが出現、そして2021年には地球全土にユグドラサスが出現と、毎年のように怪獣が現れるヤバい世界線です。
ユグドラサスとの激闘は3年にわたり、2024年にようやく幕を下ろし、世界各国で復興活動が始まります。そんな中、ユグドラサスの朽木の中から、昆虫型怪獣の卵が発見されます。
「これが孵化したら、大変なことになるぞ!」
と世の中は沸き立ちますが、けっこう早々に昆虫怪獣は冷気に弱いことが判明し、多くの国は凍結処理を実施し、事なきを得ます。
と、思ったら中国大陸ほぼ全域のユグドラサス朽木から、数百体もの昆虫怪獣が生まれ、彼らは増殖を繰り返しながらアジア各国に攻め込み、8月には欧州圏にまでやってきて、国際軍に所属するプレイヤーは、掃討作戦の指揮を執ることになるのでした。
まったく困ったものですね。
ちなみにクアント掃討に向け、檄を飛ばすのがアンディ・ジスカルド大佐という方なのですが、モチーフになっているのはアンディーメンテのジスカルドこと泉和良さん。
ポーンさんの愛が伝わります。
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ミッションは冬の到来までヨーロッパ7都市を守り抜くこと
ゲーム開始時、ロンドン、ベルリン、マドリード、ローマ、パリといった大都市には、既にして怪獣穴と呼ばれる穴が空いています。
怪獣穴は地底を通じてクアントたちが蠢く中国の魔都とつながっており、そこから先遣隊たちが送り込まれてきます。
歩兵部隊やガス兵器といったクアントに抗するための作戦カードと、全面展開や中央突破、増殖期といったクアントが増えたり、力を増すような脅威カード。これらは、共にイベントカードと呼ばれ、プレイヤーの手札としてやってきます。
安全策を採って作戦カードばかりプレイしているとクアントの数を抑制できますが、やがて脅威カードが処理しきれなくなって、すぐに3都市以上が壊滅状態になり、プレイヤーはゲームに敗北します。
重要なのは適度に脅威カードを処理していくこと。ワルシャワのような小都市は、油断するとすぐに滅ぶので、ロンドンのような懐の深い都市に攻撃を受け止めてもらいながら、冬まで凌ぎきるのが肝要です。
しかし、敵だって手をこまねいて見ているわけではありません。
ノーマルが3体集まればソルジャーに、10体集まればユニークスにと結合し、まったく新しい個体に進化します。
クアントは外骨格が堅く、構造の隙間を突かないと攻撃は通りません。放っておけば、どんどん増殖し、どんどん進化していきます。彼らが増殖し、進化する以上のスピードで、その総数を減らし、外骨格を研究し倒せるように威力臨界を上げなければなりません。
昆虫怪獣との争いは、種としての生き残りを賭けたものです。
クアントは、個ではなく群としての存在。
一方の人類は、個のまま協力する存在。
人類が、より優れた種であると反証できるのか……?
敗北しました。
いやはや、さすがの難易度ですね。
協力ゲームは(本作は1人用ゲームですが)初回のプレイでクリアできてしまうと、かえって興醒めなところがあったりしますが、本作の難易度は絶妙です。第3ラウンドまで、なんとなく勝てそうな雰囲気を感じていましたが、冬を目前にいきなり牙を剥いてきたクアントたちに、呆気なく陥落し、人類の輝かしい未来は水泡へと帰りました。
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