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ともにめぐる星のような距離の人、本。(真名井大介『生きとし生けるあなたに』)

 わたしの親しい人たちは、賑やかな街を照らしつづける明るい灯というよりも。たとえば冬の帰り道に、かじかむ指に息を吹きかけながらふと空を見あげたときに。こちらの帰りを待っていたかのように、一日の終わりや季節の始まりを教えてくれる小さな星に似ている。
 遠い場所で。彼らが彼ららしく一日や季節をめぐり、何かを感じ、眠り、また目覚める。そう思うだけで、こちらの暗がりの一部が明るむ。そんな交わりの星たち。

 誰かと親しくなる。それはどういうことだろう。それはどんな悩みでも告白し、もたれかかること、なのだろうか。一方の思いが思うように叶わないときには「嫌われた」「がっかりした」などという、短い言葉だけをすねたように胸に残して、離れてゆくことなのだろうか。

 思った通りには、言葉は伝わらない。もちろん言葉以上のものも。だから、わたしは、できるだけ言葉を選び、言葉で伝えたいと思う。
 親しい人とはなるべく言葉を交わしたい。片方だけが話すのではなく。
 それでも伝わらないときには、ただ一緒にいればいい。その人と自分の一日や季節がめぐるのを、ともに見あげるように。

 ここ数日は、そんな友人たちとの距離を思い出させてくれる詩集を開いていた。
 
 真名井大介さんの『生きとし生けるあなたに』(私家)。
 以前から読んでみたいなと思っていたこの詩集。先日訪れた七月堂古書部さんで初めて触れることができた。

 文庫本よりやや大きいサイズの、本の可憐な重さ。安心感をもたらす、手ざわりの紙。静かな空気をまとう装画と、繊細な装幀。小さめの文字で記された、温かみのある言葉。
 10篇が収載されているが、難しい表現は一つもない。一見平明な言葉の組み合わせのおもてや奥に、長く歩きつづけたあとに出会う、澄んだ山水やひかりのような新鮮さが綺麗に揺らめている。
 
 何よりも、手ざわりのあるページに触れていると、懐かしい星を見つけたときのように、落ち着く。造りがほんとうに……いい。
 私家版とはいっても、すでに累計1500部(!)となっているようで、可憐で繊細な本だからこそ届く場所もあるのかな……と励まされる思いがした。

 わたしも、すみずみにまでこだわりの感じられる、こんな可憐で繊細な本をいつか作ってみたい。

 奥付には「全文引用歓迎」とあったので、少し引用してみたい。
(こうして引用しても、やはり「本」として読まないと、触れないと、本来の魅力は伝わらないと感じつつ……)
 空押し、エンボス加工になっている、最後の詩篇の現れも素敵だった。

 以下、すべて『生きとし生けるあなたに』(真名井大介)より。


さびしさは
たましいの 母音

あなたと わたしが
響きあう ための

「さびしさ」より

                     


月明り
クラクション
鹿の産声
流星群

通過していくものたちと
響き合い
わたしはひとつのうたでした

「井戸」より

                        

その身に
託された
ひかりを

黙して
すべてと
分かちあう

「月」