「詩」 冬祭り

まだ暗い部屋で目をさます

ぱちぱちと 古い本が燃える匂い

雨か それとも

はぐれた鹿が枯れ枝を踏む音

みずうみか 森が近いのだろうか

方角やことばがわからないぶんだけ

旅の空はくもってしまうのだから

カーテンをいくら開いても

何も見ないためにここまで来たと

信じてもいいほどの 霧


あれは雨でも けものでもなく

見る、という時間が

この霧に許されて

すこしずつ燃え落ちてゆく合図だとしたら


昨日 車窓を流れた駅の名や

数年前に離れていったひとの頬

そうした目に焼きついたものすべてが

いつかすれ違った冬祭りの少女たちのように

白い息だけを

どこまでもまとって

閉ざされた冬を抜け

みずうみをまわり

森の緑へと放たれてゆく


今日

春が生まれるのだと


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詩集『あのとき冬の子どもたち』(七月堂)より。
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