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大学授業一歩前(第90講)

はじめに

記念すべき第90講は読書猿様に記事を寄稿して頂きました。お忙しい中、作成して頂きありがとうございました。是非、ご一読下さいませ。

プロフィール

Q:ご自身のプロフィールを教えてください。

A:昔から読書が苦手で「読書家、読書人を名乗る方々に遠く及ばない浅学の身」なので、読書人未満という意味で「読書猿」を名乗っています。
元々ネット(1997年からメールマガジン、2008年からブログ)で文章を書いていました。最近になって、出版社から書籍を出していただきました。『アイデア大全』『問題解決大全』(フォレスト出版)、『独学大全』(ダイヤモンド社)という本です。

オススメの過ごし方

Q:コロナ禍で今の大学生は、学生間の交流や学生と先生方の交流が難しくなっています。そうした中で、どんなことに気をつけて毎日を過ごせばいいか、オススメの過ごし方を教えてください。

A:既に通常でない日常に対応することを強いられておられるのですから、その上に特別な何かを積み増しする必要はないと思います。むしろ皆さんは既にどれだけのことを現に重ねておられるか知っていただきたい。それには日々取り組んだことと時間やページ数を毎日書き残すとよいです。その記録は自らの位置と進んだ距離を、そして当たり前のことを続ける意義と偉大さを教えてくれると思います。

必須の能力

Q:大学生に必須の能力をどのようなものだとお考えになりますでしょうか。

A:大学生に必要なのは何らかの能力ではなく、自分が知らないものに対峙するという態度だと思います。何故なら大学は、そしてそこで中心となる学術研究という知的営為は、人類がまだ誰も知らない未知の領域に向かって知識の境界を押し広げるために存在するからです。知らないことと対峙することを回避する人は、有益なものをほとんど何も手にすることなく大学を去ることになると思います。

学ぶ意義

Q:ご自身にとっての学び意義を教えて下さい。

A:私にとって何かを学ぶことは、自分の脳に何かを取り入れることではなく、自分より賢い誰かが存在する(した)という事実を思い知ること、そして彼ら先人たちが積み重ねてきた知的営為に、わずかであれ参加することだと思います。であるからこそ、私のような無知なものが、彼ら先人の知的営為から力を貸してもらい、いわば「巨人の肩の上」で、自分だけでは考えることもできなかった水準でものを考えることができるのだと思っています。

オススメの一冊

Q:大学生にオススメの一冊を教えて下さい。

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A:林達夫 ・久野収(1993)『思想のドラマトゥルギー』 (平凡社ライブラリー) 私がもう数十年間、読み返し続けている本です。もう老人といい歳かさの二人による対談ですが、その知力と記憶力の衰えることのない強靭さにため息が出ます。なによりこの二人のおしゃべりはとても楽しげです。
学び行く者の果てには、苦悩や立ちふさがる壁があるのではなく、物を知ること、考えを深めていくことの「楽しさ」が待ち受けていることを、これ以上無いほど見せつけてくれます。

メッセージ

Q:最後に、大学生へのメッセージをお願いします。

A:私達が後戻りできない変化の中にいるのは(それがどういう変化であるか未だ不明な部分が多いとしても)、おそらく確かでしょう。しかしもう一つ確かなことがあります。それは、皆さんが今おられるのは、学ぶという長い旅のまだはじまりだということです。夏目漱石が若き天才二人(芥川龍之介と久米正雄)に送った言葉を送ります。

「牛になる事はどうしても必要です。吾々はとかく馬になりたがるが、牛には中々なりきれないです。僕のような老猾(ろうかつ)なものでも、
只今(ただいま)牛と馬とつがって孕める事ある相の子位な程度のものです。あせっては不可(いけ)ません。頭を悪くしては不可(いけ)ません。
根気づくでお出でなさい。世の中は根気の前に頭を下げる事を知っていますが、火花の前には一瞬の記憶しか与えて呉れません。うんうん死ぬ迄押すのです。それ丈(だけ)です。決して相手を拵(こし)らへてそれを押しちゃ不可ません。相手はいくらでも後から後からと出てきます。そうして我々を悩ませます。牛は超然として押して行くのです。何を押すかと聞くなら申します。人間を押すのです。

おわりに

今回は読書猿様に記事を寄稿して頂きました。お忙しい中、作成して頂きありがとうございました。私も『独学大全』には心が折れそうな時いつもお世話になっております。一番心に残っている言葉を最後に引用致します。

「あなたが何か読み始める時、書名で検索すれば、この世界が孤独ではないことを知るだろう。朋友、遠方に在り。それもまた喜ばしからずや。」

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