誰もいない家の中に黒い影を見た彼女がやったある一つのこと
中学生の彼女は学校に行っていない。
一日中家にいる。
両親は共働きで、朝から夜まで彼女は一人だ。
友達はスマホの向こうのフォロワーさん。
ネット検索・投稿を読み漁り、推しネタに浸るときもあれば
メンタルが落ちているときは心身ともに「孤」の世界の住人。
もちろんメンタルの波は、落ちている有無にかかわらずにある。
家に一日中籠り続け、だんだんと昼夜逆転気味の生活にズレだすのとシンクロして、メンタルも下降する。
しばらくしては戻し、またしばらくして。。。。
そんな毎日のとある昼間。
彼女はキッチンでココアを淹れながら、ふとリビングの端に目をやった。
すると誰もいない部屋に、一瞬黒い人影のようなものが見え、すぐに消えた。
気のせいかと思い、打ち消してココアを淹れ終わり、リビングに戻る。
ココアを飲み、特にやることもなく、習慣化したスマホいじりで時間が過ぎる。
と今度は、隣の部屋との間の柱の向こうに、不意に黒い人影が出、見えないところに去った。
いや、何かの間違いだろうと思いなおし、周囲を見渡し、スマホに目を戻す。
黒い影のようなものが見えたその日から、1人きりの誰もいない昼間に、それが時々現れるようになった。
黒い影のようなものと言うこと以外は、出る場所も時間も出るシチュエーションもさまざまだ。
もちろん、彼女はそのたびに「家には誰もいない」と自分に言い聞かせては、何事もなかったかのように振る舞う。
帰宅した両親にも話したりしない。
両親には話してもしょうがないし、解決しないのも知っている。
そうこうするうちに、メンタルは日に日に落ちていく。
今までにないくらい低く、低く。
両親にも誰にも話をせず、助けを求めず、かろうじて生きている。
一週間ほどたった日、彼女は思った。
このままではまずい。
こんなのは嫌だ。
彼女は思い切って、黒い影のようなものに名前をつけた。
自分だけにわかる名前。
名前をつけてから、黒い影のようなものは彼女の前に現れなくなった。
大人になった今、彼女にはわかる。
あのまま名前もつけず、「存在しないもの」として否定しようとする毎日を続けていたら、きっと正常な状態ではなくなっていた。
否定することを手放し、得体のしれない黒い影のようなものをそのまま、「名付けする」という行為によって受け止めることが成立したことで、「黒い影のようなもの」は自分をアピールする必要がなくなり、メンタルスペースから降りたのだと。
彼女はその後も学校には行かないままであったが、あちらの世界に黒い影に様なものに引きずられるようなこともなく、生き続けている。
生き続けること。
こころが動くこと。
感じたこころや頭の中をアウトプットすること。
認めること。
彼女が「生きる」ことを選択し続けてくれているからこそ、
わたしもわたしへ大きな学びをもたらし続けている。
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