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まかれた種はどこへいく

仕送り無し寮暮しバイト三昧の大学時代の話。
年に一度の帰省のための九州行き航空券と帰省中のお金を入れたお財布を無くしたことに気がついたのは、バスを降りて羽田までの電車の切符を買おうとしたとき。
目の前真っ暗とはこのことだ。

駅前の交番に駆け込み、紛失届をだしたあと、バイト先で仲のいい姉のような存在の知人に連絡したところ、家においでと声をかけてもらう。
呆然自失で始まったお財布紛失も、そのころには今日飛行機に乗ることはあきらめて移動。ネクストアクションモードに切り替えたものの、着替えの入ったボストンバックが無駄に重く感じる中を知人宅へ到着。
美味しい食事とあたたかなお風呂とお布団を提供してもらい、一息ついた翌朝、彼女はサラリと飛行機代を含む帰省費を貸してくれた。

かくして一日遅れになったものの、この年の帰省を楽しんで再び戻ってこれたのは、お財布なくして不安しかない二十歳前後を助けてくれた、家族でも親戚でもないけどそれ以上だった知人のオトナのおかげ。
わたしもオトナになって困った若者にはサラリと支援することができればと感じたときだった。

子供の知り合いで一人暮らしの二十代前半会社員が、遅番の仕事をして深夜返ってきたとき、玄関の鍵が開かなくなってしまい、管理会社とも連絡がつかず鍵屋さんを呼んで、なんとか部屋に入れたそうだ。
ただし、その場で鍵屋さん老朽化で直せないので交換になるがどうするかとか言われて、出張費や工賃やらで十数万が請求され、気も動転し正常な判断材料もないなか、その人は今はそんな持ち合わせはないのでと手持ちをかき集め、それでも半分くらいは支払ってしまった。

翌日管理会社に連絡がつき、管理会社からの係の人が駆けつけてくれた結果、老朽化などはしておらず、色々想定外のこともされてしまったことがわかった。もちろん管理会社側の費用負担で再確認してくれたのだが、問題は十数万の請求。
実際の相場的には昼間で2万、夜間になっても3万くらいがせいぜいとのことで、二十代前半会社員さんは完全にぼられて、老朽化といいいくるめられた詐欺のようなものにあったことがわかった。
管理会社さんと一緒に取り返すことになったが、そもそも手持ちをかき集めて、会社員さん給料日までお金がない、という現実に直面。

ちょうどその話を子供が会社員さんとしているリビングに通りがかってしまい、「生活大丈夫?」と聞いてしまったわたし。
当面は何とかしのげそうとの話に、シチュエーションは全然違うが、お財布落としたときに助けてくれた知人のように、お助けしたいという気持ちがむくむくと起きる。頼まれてもいないのに「困ったことがあればいつでも支援するから、お互い様だよ」と口走ってしまった。

何十年も前に蒔かれた種が、芽を出した。
若いころいろんな人に世話になったり、迷惑かけたことをこれから次の世代へ還していくのや役目なんだろうな。

無事帰省から帰ってきた翌日、警察から電話があり私の財布は大学近くの和食レストランの駐輪場の自転車のかごに、現金だけ抜かれている状態でみつかった、とのことだった。
多分バスを降りたときに、財布を座席に置きっぱなしにしてしまい、見つけた人が現金だけぬきとったんだろう。
落としたわたしも悪いが、落ちている財布から現金だけ抜き取られるのは、やはりちょっと悲しかった。
残っていた航空券は手数料はかかったものの、払い戻しができ、思ったより早く、無事知人にもお金を返すことができたことが不幸中の幸い。


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