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6.人間の「使い捨て」をやめる―公費をしっかり投入してこそ人も街もうるおう

(書きかけの項目です。ご意見などありましたらunitekyoto2020@gmail.comまでお寄せください。)

♤「身を切る改革」でなにが起きている? 

 地方自治体が「身を切る改革」を断行して財政黒字化に成功した!と聞くと、なんとなくホッとします。でも、よくよく「コストカット」の中味を確認してみると、複雑な気持ちになります。
 「改革」の中味は、教師、保育士、看護師、図書館司書、介護認定にあたる専門職員、市バスや地下鉄など公共交通機関の運転士、消防士など生活に身近で、しかも専門的な知見を必要とする公共サービスの担い手を非正規公務員や派遣職員に置き換えたり、「不採算」な事業を民間に委託したりすることだからです。 
 こうした「改革」がわたたちのくらしを良くするかというと、微妙です。

♤国や地方自治体が「働く貧困層」(官製ワーキングプア)をつくりだす。

 第1に、国や地方自治体が「働く貧困層」(官製ワーキングプア)をつくりだしてしまうという問題があります。非正規公務員や派遣職員の月収は手取りにして10万円台、年収にして200万円以下が一般的です。物価高の時代に生活は困難、退職金や年金をアテにすることもできません。保育園の民営化、市バス事業の民間委託のように事業が民間に委託された場合、賃金はさらに安く、雇用も不安定となりがちです。
 公務に非正規で従事する人びとの中では女性が大きな割合を占めているために、男女間の賃金格差の固定、ジェンダー・ギャップの拡大にもつながります。

♤保育・教育・医療・介護、公共交通のようにだれもが必要とするサービス(ベーシック・サービス)の質が低下する。

 非正規公務員や派遣社員は、長くても3年で雇い止めにされることが一般的です。公立小中学校の先生でも、すでに5人に1人くらいが非正規となっています(全国の市町村平均)。たとえば臨時採用教員は学級担任や部活の顧問まで担当しますが、雇用期間は最長1年であるため、同じ職場でベテランの先生と交流しながら知識や経験を深めていくことができません。
 専門的な職員として成長していく機会を奪われた現場はちょっとしたことでたちゆかなくなり、「保育崩壊」や「学校崩壊」も起きやすくなります。それは働く者にとって不幸なことであるばかりではなく、子どもをあずける側にとって、そしてなによりも子ども自身にとっても不幸なことです。公共交通の場合、熟練したバスの運転手さんが少なくなることは事故の危険の増大にもつながります。
 公共サービスを民間に委託した場合「コストカット」の金額はだれにもわかりやすい形であらわれますが、公共サービスの質の低下は傍目(はため)にはよくわかりません、でもサービスにかかわる人には大きなダメージとなります。京都市内のある保育園では運営が民間委託された上に、運営事業者が変わり、保育士さんもすべて雇い止めと環境が大きく変わる中で、「円形脱毛症」となる子どもが出てきたということです。子どもたちが安心して成長していけるようになるためには、安定した環境が必須といえます。

♤人間を「使い捨てる」仕組みが地元を疲弊させる。

 地方自治体の管轄する公共サービスは、実は地域の雇用の大きな受け皿でもあります。ですので、十分な人件費を保障すれば地域にお金が循環し、小売店や飲食店やサービス業もうるおいます。
 逆に大都市を拠点とする企業に公務を委託したり、派遣社員や非正規への置き換えを進めて地域に循環するお金が減ると、商店街が「シャッター街」化し、学校や病院がなくなってしまったりもします。そうなると、少子高齢化と大都市への一極集中がさらに進み、さらなる人件費カットがおこなわれるという「負のスパイラル」に陥ってしまいます。ついには地元の自治体がなくなってしまうことさえあります。
 「身を切る改革」で切られるのは、実はわたしたちの暮らす街そのものなのかもしれません。傷だらけの街を立て直し、だれもが安心して公共サービスに従事するとともに、だれもが安心して公共サービスを受けられる社会としていくためには、自治体業務の外部委託を減らし、行き過ぎた非正規化を見直し、人件費に公費(税金)をしっかり投入して正規の専門職員を増やしていくことが大切です。

〔参考リンク――もっとよく知るために〕

公務非正規労働に従事する女性たち/働き手がつくった「非務非正規女性全国ネットワーク(はむねっと)」のページ。公務の現場で働く人びとの「私たちの声」、調査資料など充実しています。よく考えぬかれた「憲章」も着目です。

瀬山紀子さん(埼玉大学准教授/はむねっと副代表)さんのレポート。2020年度にスタートした「会計年度任用職員制度」が公務労働の内部崩壊を引き起こしていることを指摘するとともに、公務員を削減し、労働条件を悪くしてきたことが、地域の疲弊にもつなっていると書いています。

佐藤明彦さん(教育ジャーナリスト)のレポート。子どもにも保護者にもよくわからないところで、学級担任や部活顧問まで担当しているのに1年任期でいつの間にかいなくなってしまう臨時採用が増えていること、厄介な「荒れたクラス」もそうした臨時採用教員に任されがちな現場の実態をレポートしています。

上林陽治さん(公益財団法人地方自治総合研究所研究員)さんのレポート。コロナ禍の中で保育士、介護士、医療関係者、教師、公共交通機関職員などどエッセンシャルワークに携わる人びとがいなければ地域社会が回らないことが明らかになったにもかかかわらず、これらの労働に携わる人が低所得であることの不条理に目を向けています。公立保育園保育士の場合には半数以上が非正規とうように、非正規公務員の割合の多さも示しています。

〔参考リンク――政党はどんな対応をしてきた?〕

大阪市では公立保育園の民営化や市営地下鉄や市営バスの民営化を進めたばかりではなく、水道事業についても大阪市内全域の水道メーター検針・計量審査と水道料金徴収業務を仏ヴェオリアに委託するなど公務の外部委託が極端に進んでいる実態をレポートしています。たとえば災害時にそれで本当に大丈夫?と心配になってきます。

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