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インドにて5(戦火のシュリナーガルへ)

10月終わりのある日、僕はカシミールの空港に降り立った。

空港は閑散として旅行者の姿はない。 

はて?旅行会社の男の話では、シュリナーガルは”パラダイス”だ、とのことだった。
パラダイスにしては観光客がいない。むしろ軍人が多すぎる。

少々不安になりながらも、空港の外に出た。

約束では船上ホテルの迎えが来ているはずだ。
それらしき車を探すが、見つからない。

暫くウロウロしていると、軍人に声をかけられた。

「どうかしたのか?」

僕はホテルの名刺を出して、約束の迎えが来ない、と伝えた。

彼は少し考え、「俺にいい考えがある。俺が安全にホテルに連れて行ってやろう」と言う。そして彼は続けた。

金を出せ

僕は相場より少し高めの10ルピー札を渡した。彼はすぐさま言った。
MORE!」そこで更に10ルピーを渡すと、彼はさらに言った。
MORE!!

結局50ルピーで話がついた。破格の値段である。

周りを見渡すとオフィスや店舗は全てクローズで、
見かけるのは軍人ばかりである。

漸く僕はここがパラダイスではなくHELLだということに気づいた。

となるとタクシーは捕まらないだろう。
恐らく50ルピーをふんだくった軍人は知り合いか部下に車を準備させるのであろう。

暫くすると件の軍人が呼びに来た。ついていくと兵員輸送車が止まっている。映画でよく見るトラックの荷台にカンバスの幌が取付けられたタイプだ。

これから戦地にでも向かうのか、次々軍人が乗り込んでいる。
50ルピーの男は当たり前のように「乗れ!」というので、乗った。

軍用車でホテルに向かうとは思えないのだが。。。まさか。。僕は。。
と不安になりながら10分ほど走ると車が止まった。

50ルピーの男は「ほれ。あそこのホテルだ」と指さした。

そこが避暑地として有名な”ダル湖”に浮かぶ船上ホテルの一つだった。
礼を言って車を降りると、湖畔で一人の男が小さな木製の渡し船から降りるところだった。

男は僕が泊まるホテルの従業員であった。

男は言った「すまん、すまん。今から行こうと思ってた。」

インドは万事この調子で物事が進む。。。


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