インドにて2
翌日、僕たちは2等列車に乗って北へ向かった。
タージマハルで有名なアグラが目的地だが、ボンベイからは相当遠いので、途中の町に立ち寄りながら、一週間ほどかけてゆっくり到着すればいいと考えていた。
だが、インドの2等席はそれは酷い代物で、車内清掃など全くしておらず、ゴミは散らかり放題、時刻表は全く当てにならず、今自分が乗っている列車が目的地の方向に向かっているのか?いつも不安に思いながら、カチカチの座席に毎回十時間以上座り続けなければならない。
駅に停車すると、サモサ売りやらチャイ売りがわらわらと乗り込んで来て、乗客に売り始める。
僕は毎回チャイを楽しみにしていた。日本のインド料理店で飲むチャイと違い、安物の紅茶をミルクと砂糖でかなり甘く煮出しており、トロリとした舌触りで実に美味かった。
このチャイが素焼きのカップに入れて出される。値段は日本円で10円から50円程度。
飲み終えたカップは窓から放り投げて捨ててしまう。素焼きなのでいずれ土に還るのだ。
余談だが、インドのバスも列車と変わらず酷い代物だ。
安い路線バスには、バスの車内はもとより、屋根まで乗客がパンパンに乗り込む。行商をする乗客も多く荷物の量も半端ない。何とか座席を確保しても僕の膝の上には見ず知らずのオッサンが平気で腰かけていたりする。
屋根の奴らはバス代をキチンと払ったのか?誰がチケット確認するのか?と案じていると、全速力でぶっ飛ばすバスの車内から、乗客を踏み台にして、客席の窓から若い車掌が身を乗り出し、そのまま屋根によじ登り、しっかりバス代を徴収して、また窓から戻ってきた。
僕は、キアヌ・リーヴスの”スピード”みたいだと感心した。
こういう安いバスばかりだとほとほと疲れ果てるので、ある時”スーパーデラックスバス”で移動したことがある。日本の高速バスとは比べ物にならないが、それでも快適だった。
僕は長旅の疲れもあり眠り込んだ。1時間ほどするとバスが道路わきに停車している。何事か?と思っていると、バスの車掌が一抱えもあるようなデカい”部品”をヒーヒーいって運んできて、通路にドン!と置いた。
どう見ても”スーパーデラックスバス”にとって、とても重要な部品に見えたが、バスはそのままノロノロと出発した。
やれやれ、と思いながら眠りに落ちた。1時間ほどするとまた停車している。何事か?と前方をみるとバスのフロントガラスが粉々に砕けていたが、しばらくして、何の説明もないままバスは走り出した。
その後、走行中に客席と運転席を隔てる扉が壊れた。車掌は苦笑いをして扉をもぎ取り、通路に立てかけた。
こうして、スーパーデラックスバスは這う這うの体で、到着予定時刻を大幅に過ぎて目的地に到着した。
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余談が長くなった。
さて、安宿に宿泊しながら僕らは1週間ほどでアグラに着いた。
アグラは有名な観光地なので、土産物屋もリキシャの運ちゃんもホテルの客引きも”すれっからし”になっていて、兎に角すぐに"ふっかけて”くるので毎度ながら値段交渉が大変であった。
タージマハル自体は美しい場所だが、人も町もがさつな印象しかなかった。観光地の押し売りは何処でも酷いもので、毎回追い払うのに苦労する。
どこの町だったか忘れたが、ある男が近寄ってきた。僕は”またか”と思い邪見に追い払おうとした。
男は”まあまあ”という素振りをし、「君はインド人に対してどう思っているのか?」などと聞く。
僕は「インド人は金、金、金だ!」と正直に答えた。
男・・・「君は大変な誤解をしている。良いインド人も多くいるのだ。是非とも自分に君の誤解を解かせてくれ。」
僕・・・「いやいや、インド人というのは最後には必ず金の話になる。」
男・・・「それな大きな誤解だ、まあお茶でも飲みながら話そう」 こういった押し問答が暫く続き、最後に男はぬけぬけと言った。
「ところで宝石買わない?」。。。。。。
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