Second Pain-13
さて…、初日の打ち合わせを終えた後、
眠りにつこうとした。
…、
でも、歌えるのかな…。
まだ、能力をコントロールできてないのに…。
…姉と兄は幸いアマるんの能力を受け継ぐことはなかった。
どうして…、私だけこうなっちゃったのかな…?
…。
にしても、エリートたちに囲まれてしまった。
だけどプロ級のベースの腕前を持つ美彩。
フリーターだけど動画配信者にしてホワイトハッカーの明吾さん。
税務署で働く公務員の中で控えめだけどすごく優しい奏那他さん。
そして、
頭がいい挙句すごく気さくで優しい歯科医の弘鷲さん…。
…嗚呼、エリートたちに囲まれてしまった。
みんな、私より優秀なのに。
よりによって私がボーカル?
…美彩じゃないんだな…。
…人の踏み台になるような人がバンドの顔を務めてもいいんだろうか?
…人の踏み台…。
踏み台…。
…そうだよ、私はまた、
踏み台になる。
美彩の…、明吾さんの…、奏那他さんの…、
弘鷲さんの…、
みんなのようなエリートたちの踏み台になる。
…でも、美彩たちが幸せなら私はそれでいい。
どうせ恥ずかしい思いをするんだから。
…また。
…また繰り返す。
…また、裏切られる。
…弘鷲さんは本当に私を幸せにでもしたいのだろうか。
否、どうせ失恋するだろう。
…裏切られるのが怖い。
…みんなに裏切られるのが怖い。
…いい子ちゃんでいよう。
…私は所詮、「人形」だから。
…、いや、もし駄目だったら駄目でまた1人だけで…。
…、
そしてまた打ち合わせの日がやってきた。
場所はこの前と同じ。
花都 美彩「みんな!歌詞見てくれた?」
金藤 実花沙「私も一緒に考えたのも混じってるけど…、どう?」
地鳴 明吾「めっちゃかっこいいと思う!」
月ノ宮 奏那他「いい感じだよ」
清鐘 弘鷲「めちゃめちゃいいじゃん!」
花都 美彩「よかった…」
金藤 実花沙「えっと…、全部の役、私の方で一通り演じた動画、みんな、見てくれた?」
地鳴 明吾「見たよ〜!」
月ノ宮 奏那他「私の部分、配慮してくれたんだね…」
清鐘 弘鷲「文句なし!」
金藤 実花沙「ありがとうございます…!」
月ノ宮 奏那他「衣装もみんなの分、作っておいたよ」
花都 美彩「もうできたん!?」
地鳴 明吾「できちゃった」
清鐘 弘鷲「すげ〜!」
さすがエリート軍団…。
清鐘 弘鷲「さて、今日はどうするかな…」
地鳴 明吾「まずは各自で音の確認しよっか?」
花都 美彩「まだまだ全部弾けてないし…」
金藤 実花沙「私も…、まずは音取りしないと…」
清鐘 弘鷲「うん、じゃあ俺のピアノに合わせてやろっか」
金藤 実花沙「よろしくお願いします」
私たちはそれぞれソロで練習を始めた。
あ、私は弘鷲さんと練習。
清鐘 弘鷲「さてと…、まずはこの音だね。前奏はこんな感じで…」
綺麗なピアノの音…。
清鐘 弘鷲「んで、実花沙ちゃんはこっから歌うんだよ」
金藤 実花沙「…は、はい」
清鐘 弘鷲「実花沙ちゃん?」
金藤 実花沙「ご、ごめんなさい、ピアノに聴き惚れてしまって…」
清鐘 弘鷲「気を引き締めて。ボーっとしてる場合じゃないんだよ?」
金藤 実花沙「はい…」
早速怒られた…。
弘鷲さん、こんなに厳しい人だったか…。
清鐘 弘鷲「それじゃ、前奏から」
完璧に歌わねば…!
金藤 実花沙「〜♪」
清鐘 弘鷲「うん、そんな感じ。じゃあ、次のパートね、こんな感じで…」
あ、難しそう…。
金藤 実花沙「〜♪」
清鐘 弘鷲「あ、ここはこうだね。もうちょっと高いかな」
金藤 実花沙「は、はい!」
ピアノの音色でどんどん音を取っていく。
清鐘 弘鷲「うんうん!…じゃあ、次ね」
順調に音取りが進むかと思いきや…、
清鐘 弘鷲「じゃ、ここは感情的に」
…!!!
清鐘 弘鷲「弾いた通りに歌ってみて」
金藤 実花沙「…!」
清鐘 弘鷲「実花沙ちゃん?歌わないの?帰りたい?」
え…、いきなりキツいこと言ってきた…!?
清鐘 弘鷲「ボーカルはなんとしてでも歌わないと。それができないなら帰った方がいいよ」
花都 美彩「おい!そんな言い方すんなよ!!!やる気がなかったらとっくに帰ってるって!」
美彩が助けてくれた…!!
金藤 実花沙「…あ、いえ…、まだ帰りません!」
清鐘 弘鷲「能力をなんとか制御することを考えよう」
金藤 実花沙「は、はい…、〜♪!!!」
パリンッ!!!
花都 美彩「うぐっ…!!」
あっ…!!!
金藤 実花沙「うっ…」
私の耳元でもガラスが割れるような音がした…!!
清鐘 弘鷲「うっ…」
金藤 実花沙「あ、ご、ごめんなさい…」
清鐘 弘鷲「本来ならここは感情的に歌うけど、今は小さめの声で歌ってみよっか」
金藤 実花沙「え、えぇ…。〜♪」
パリンパリン!!!
地鳴 明吾「な、なんだ…!?」
月ノ宮 奏那他「み、耳が…!!」
金藤 実花沙「!」
清鐘 弘鷲「もっと感情を抑えて」
金藤 実花沙「は、はい…」
この後も歌っていくけど…。
パリンパリンパリン!!!
金藤 実花沙「ご、ごめんなさい…」
清鐘 弘鷲「謝るくらいならもっと力をどんどん調整しないと。さっきからおんなじにしか聞こえないよ」
金藤 実花沙「は、はい…」
清鐘 弘鷲「…さっきからはいはい何回も返事してるけどさ、やる気ある?みんなに合わせる気ある?」
金藤 実花沙「そんな!やる気あります!!」
清鐘 弘鷲「…いっそ感情なしで歌う?」
…え?何それ…!
そんなの歌なんかじゃない…!!
感情なしとか…!!!
金藤 実花沙「…無理です」
清鐘 弘鷲「…え?」
金藤 実花沙「感情を爆発させて歌わないといけない部分で抑えるなんて無理です」
清鐘 弘鷲「でもさ、今は能力をコントロールできないでしょ?返事ばかりで何も変わらない」
金藤 実花沙「そうですけど…」
清鐘 弘鷲「このままだとみんなの耳の鼓膜が壊れちゃうけど…、いいの?」
金藤 実花沙「!!!」
花都 美彩「おい!そんな言い方…!!」
金藤 実花沙「…」
清鐘 弘鷲「最初から完璧でいたい気持ちはわからなくはないけどさ、時には妥協することも覚えないと」
花都 美彩「おい!!」
金藤 実花沙「…それは申し訳ございませんでした」
花都 美彩「実花沙…!」
清鐘 弘鷲「だったr」
金藤 実花沙「…やっぱり歌声でみんなを傷つけることができない。でも…、妥協もできない…!それでも好きでみんなを傷つけてるわけじゃない!」
清鐘 弘鷲「ちょっとちょっと!今は控えめに歌えばいいだけの話じゃん?なんで怒るの?」
金藤 実花沙「どうして…、どうして私の気持ちがわからないの!!!キツいことばっかり言ってきて…!!もううんざり!!そんな否定的なことしか言わない人から指導されたくない!!!もういい!ボーカルは美彩に任せます!Second Pain抜けます」
清鐘 弘鷲「…勝手にすれば?自己中なボーカルなんていらないよ」
金藤 実花沙「!!!」
自己…、中…!!!
花都 美彩「え!?」
月ノ宮 奏那他「ちょっと!弘鷲!!」
地鳴 明吾「た、たんまたんま!弘鷲、さっきの発言撤回…」
金藤 実花沙「しなくてもいいです…!一度言ったことは変わらない!!」
清鐘 弘鷲「…そうだよ、変わらないよ。でも、君は君の都合で俺らを傷つけようとしているんだよ?悪気がなくても」
金藤 実花沙「…うぅ…、ぐぅぅう…!!!」
まずい!心臓が…!!!
月ノ宮 奏那他「やめて!弘鷲、実花沙ちゃんを責めないで!実花沙ちゃんだって能力に苦しんでいるんだから!」
金藤 実花沙「…、どうして…、どうして…!!!」
地鳴 明吾「あわわ…!」
金藤 実花沙「どうせ私を踏み台にするんでしょう!?私に恥ずかしい思いをさせて!!快感を得るんでしょ!!」
心臓を抑えながら怒りを表明していく…!!
清鐘 弘鷲「話が脱線してるよ!俺はそんなつもりで…!」
金藤 実花沙「みんなのような頭のいい人たちにはわからないよ!!ポンコツでなんにもできないバカ女の気持ちなんて!!もういい!みんな勝手にやっててよ!!!Second Painなんてやるんじゃなかった!!!」
バタン!!!
月ノ宮 奏那他「実花沙ちゃん!!」
スタタタタタタ…!!
花都 美彩「…なんてことしてくれたんだ!実花沙が…!!」
清鐘 弘鷲「…うぅ…」
地鳴 明吾「あーあ…。スパルタ指導しちゃったんだね」
清鐘 弘鷲「実花沙ちゃん…。…、やっちまった…」