トクサツガガガ

トクサツガガガ
丹羽庭・ビッグコミックスピリッツ
全20巻・完結済
※ドラマ化もされました
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マキマミ、ヲタ恋ときたらもうひとつ!!と、こちらもオタクものの漫画作品紹介です。えねっちけーでドラマになってたのでそれで知ってる人もいるかもしれませんね。タイトル通り、特撮オタクの作品です。

主人公「仲村 叶(なかむら かの)」は、OLをしている26歳。会社での飲みや合コンに誘われるもそれらを断りいそいそと帰ってしまうため、まわりには「すわデートか!」と思われるも、その実は「早く帰って録画した特撮番組見たい!」だった!飲みを断ったりランチで外に行かずお弁当を持っていくのも、円盤のボックスが欲しいあまりの節約で女子力ではない!だが会社ではそれらは隠しているぞ!というオープニング。外ではおとなしめのしっとりOLなのですが、家で一人で録画を見ている時の仲村さんはとにかくリアクションがでかく、細部に対して非常に熱い、視聴者の鑑のような存在です。
これは1巻の序盤から全編を通して描かれることなのですが、仲村さんのおうちはとにかくお母さんが
「女の子はかわいいもので包みたい」「女の子なのになんでそんなの(男の子向けと言われる特撮番組)を見るの!」
などなどを言ってくるタイプで、抑圧された仲村さんは一人暮らしをきっかけにハメが外れて、それはもう見事なオタクになってしまった、というのが物語の土台です。あの、幼少の頃からの「呪い」を受けてしまっているのですよね。ラジカセに縛られる象みたいなもんですよね。

この作品、特撮が出来るまでの工程や歴史、技術へのリスペクトをはじめ、「ものを作るということ」「何かを好きだということ」「作り手を支えるということ」…もちろんそれ以外のたくさんがたっぷり詰め込まれているのですが、全体を通して【肯定】や【許し】や【親離れ】【偏見からの解放】の物語なのかなと思っています。子供の頃から何年も何年も身近な人に好きなものを否定され続けた仲村さんは、「それでもやっぱり好きだから」と、小さな勇気と行動を少しずつたくさん重ねて、理解のある友人と自由を得ていくストーリーになっています。【男の子向けが好きな女の子】【女の子向けが好きな男の子】【子供向けが好きな大人】【まわりに理解されがたい「好き」なもの】といった枠や偏見を、肯定のちからで少しずつ少しずつ崩していく面白さがこの作品にはあります。
推しのある仲村さんは嫌なことがあっても心に推しを抱えて
「私はくじけない!」
と元気と勇気を出すことが出来ます。推しがいるっていいよね…大事な存在だよね。仲村さんの興味は会社の大多数の人と同じところにはないけれど、仲村さんの人生は仲村さんのものですから。価値観は本人のものですしね、という当たり前だけど忘れてしまいがちな大事なことを、この作品は教えてくれるんです。

全20巻で、完結は今年の…しかもつい最近のことなので、これも
「お疲れ様でした!超面白かったです!!(ファンレター)」
な作品です。また、エピソードのひとつひとつがなかなか濃厚なので、毎回多く書いても3000字ほどのここの感想文では全然魅力を伝え切れはしないんですが、コメディ調の内容や展開の中でも、描いているテーマは結構重厚だと感じています。【無理解】ってね、ありとあらゆる問題の根っこに横たわっているものだと思うんですよね。特撮という【ガワ】に包まれていますが、出てくるメンバーの人生や人間関係、負っている過去もそういったものが暗く厚くまとわりついています。
ただ、それでもどうしても好きでどうしてもやめられないことが人にはあるのだということを、強く思い出させてくれる作品なんですね。もちろん、そういうややこしいことは全部抜きにして純粋に面白がるのがこの漫画の一番いい楽しみ方だと思いもするんですけれど、大人になればなるほど染み渡るエピソードが、読んでいるみんなに何かしらあるんじゃないでしょうか。

マメにこちらのnoteを読んでくださっている人は、わたしが断捨離だとか掃除・片付け系が好きなのをご存知だと思うんですが、この作品の中で
「グッズとか買ってどうするの?最後にはゴミじゃん」
という心無い発言を元に仲村さんが葛藤する回があるんですよ。でもその回の中で
「いやでもグッズじゃなくても最終的にゴミにならないものってそもそもなんかある…?世にあるもの全て最後にはゴミになるのでは…?」
って気がつく、あの流れが本当に大好きなんですよね。掃除や片づけが好きな私と、この漫画のこの会話が好きな私は両立します。そうなんですよ、この作品、結構な「ツッコミ漫画」なん。否定をしてくるとか、否定をしているつもりはないけれど個人の偏見の発言をしてしまう人の持論に対して
「いやでもそれってさぁ…」
ってコメントを、キャラクターたちが結構あっさり言い放つ、て流れが多いんですよ。ただ、そのツッコミってだいたいその発言をした人が
「既に通ってきた道を歩く中でたどり着いた結論」
だったりで、無責任にそんなこと言ってるわけじゃないんですよね。
グッズ話については珍しくオチまで含めて感想述べちゃったんですけれど、これ、グッズの話に見せかけて「他人の「好き」を否定しない」ってことです。人によって好きなもの、欲しい物はてんでバラバラで、だからこそ世の中にはいろーーーんなモノが溢れていますから。誰かがキライなものや人は、どこかの誰かが好きなものなんですよね。それは日頃からみんなで心がけておきたいことだなと思います。

全編通して「仲村さん偉い…」て思うのは、仲村さんて
「相手の【気持ち】を理解しようとする」
んですよね。これは仲村さんが大好きな特撮から日々学んだ結果そうなったんですが、理屈や行動、発言は理解出来なくても、そこに至ってしまったその人やモノの歴史だったり、なにより相手にそうさせてしまう気持ちについて、とにかく真正面から一生懸命考えるんですよ。理解が至らない時だって当たり前にあるんですが、多少自分が恥ずかしい思いをしても誰かや何かを応援しようとするファンスピリットみたいなところは本当に見習いたい。見てるよ、楽しんでるよ、好きだよ、好きではないけど敬服するよ、などを表明することによって、否定され続けていた仲村さんは否定をしないことで戦うんですね。その戦いが仲村さんを強く大きくしていきます。

「楽しむ」にも上手い下手があるんですが、なんでもそうですけれど、慣れる・練習することで少なくとも今よりは上手になることが出来るんですね。20冊を通して、「好きなことを全身で楽しむ」のがちょっとずつ上手になる仲村さんと、その仲村さんを囲む輪が温かく大きくなっていくのが本当に幸せな良作です。
「なーんか最近つまんないんだよなー」
って漫然と思っている人はぜひぜひ。わたしもこれ書いてて
「よーし完結記念に再読一気読みだーー!」
ってなってるよ!未読なものいっぱいあるのにね!でも面白いから仕方ないよね!

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進藤ウニ
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