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滝が見たい。 そう言ったのは恵(けい)だった。 田舎の山道を車で登るとなると骨が折れるかと思ったが案外そんなことはなかった。 海沿いの街に生まれ育った私たちにとって山道は新鮮だ。 道の左右には棚田がどこまでも続いている。 もう秋が始まろうというのに棚田にはまだ青々とした苗が植えられていて、ところどころ田植えをしているトラクタの姿が見える。 一面緑の景色の中を赤のスポーツカーで走るのは色で世界を切り裂くみたいで爽快だった。 どうせだからと思ってレンタカー屋で一番高
「A-41とA-72それと、C-82」 「C-82?それ、おまえ写ってなくないか?」 写真部の小嶋が驚いて顔を上げる。ひょろっとした顔に大きめの眼鏡をかけた彼は一昔前ならガリ勉と揶揄されただろう。 「いや、まあそうだけど…」 「ふーん」 小嶋は写真を確認するとニヤニヤしながら顔を寄せてきた。 「好きなのか?柳のこと。」 小嶋への誤解を解くのには苦労した。 そりゃ、柳さんは美人だしクラスでも人気があるし、彼女の写真が欲しくないと言えば嘘になるけど、僕の本命は柳さ