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02 二十三夜待ち

01 居待ち月

 昇り始めの低い月明かりが差し込む教会で、ジムゾンは一人祈っていた。
 しんと静まりかえった礼拝堂に、跪く自分の影が長く映る。
「聖霊の御名において、すべての人の幸せを……」
 そこまで呟いた途端床に伸びていた長い影が崩れ落ち、激しい咳と苦しそうな呼吸音が暗闇に響き渡る。咳はややしばらく続き、その後誰にも聞こえないような吐息と共に呟きが漏れた。
「願わくば……早く、私を貴方の御許へ。この苦しみからどうか私を解放して下さい」

「神父様、今日は具合どうだか?」
 村はずれの教会の前に牛が引く荷車が止まり、裏口から白いシャツを着た農夫がひょっこりと顔を出した。今日は長雨の後の晴天で、最近調子が悪そうだった神父の具合もきっといいであろう。
「ああ、ヤコブ、いつもありがとう……ゴホッ」
「いやいや、神父様はそこに座っていていいだよ。無理しないでけれ」
 台所の椅子から立ち上がろうとしたジムゾンに、ヤコブは困った顔で微笑んだ。大体同じ時間に顔を見せる自分をジムゾンはここでずっと待っていたのだろう。病人なのだからそんな所まで気遣いする必要は全くないのだが、それがジムゾンの良いところでもあり困ったところでもある。
「今日は村の皆から色々預かって来ただよ。まずレジーナさんからチキンのパテ、オットーから焼きたてのパン、カタリナからミルクとチーズ。で、ペーターとリーザからは花だよ」
 そう言いながらヤコブは持ってきた物をテキパキとテーブルの上に並べていった。花瓶のある位置も彼にはすぐに分かるようで、花もすぐに飾られる。
「そしてオラからは野菜と鶏肉……まあ、いつも通りだ。薬草で咳に効く煎じ薬も作ってきたから飲んでけれ。あとパメラから『寒くなるから着てね』ってカーディガン。これは着たところを見てこいって言われたから、今ちょっと見せてくれるとありがたいだよ」
 そう言って渡されたグレーのカーディガンを、ジムゾンはその場で着て見せた。それは少しサイズが大きいようだが僧衣の上から着るのには丁度良い感じだった。
「いい感じだよ、神父様。パメラは最近カタリナに教わった編み物に凝ってるみたいで、皆に色々作ってくれてるだよ。オラもこれ、マフラーをもらっただ」
 ヤコブの首には今日の空のような綺麗な色のマフラーが巻かれていた。
 秋も深まってきて寒くなっているのであろうが、ヤコブから聞く村の話はいつも暖かく、楽しい話題に満ちている。
「とても暖かいです。皆さんにお礼を言っておいて下さい」
「ちゃんと皆に伝えとくだよ。あと、伝言も預かってきてるだ。トーマスが言ってただが、薪が足りなくなりそうだったら早めに言って欲しいそうだよ。教会の補修も頼んでくれればすぐ来るって言ってただ。それと……」
 そう言うとヤコブはちょっとだけ複雑そうな表情を見せた。何か言いにくい話なのだろうか、ジムゾンは小首をかしげる。
「どうかしましたか?」
「いや、今年の冬は寒くなりそうだでこの教会にいると神父様の病気もあまりよくならなそうな気がするだよ。それで村長さんから、もし神父様さえよければレジーナの宿に部屋を取るから今年の冬は村の方で過ごしたらどうかって話だ。お金とかの心配は全然しないでいいし、その方がオラ達も安心だよ」
 確かにこの教会は一人で冬を過ごすには少し寒く、そして広すぎるかも知れない。それに咳の方もヤコブの言う通りきっとここにいてはあまり良くならないであろう。だが、ジムゾンにはその提案を受け入れられない理由があった。
「…………」
 黙り込むジムゾンを見て、ヤコブは更に困った顔をする。
「いや、今すぐ決めてくれって訳じゃないだよ。今度のミサがある時に、村長さんがその話をしに来るかも知れないから考えといてくれって……なんか、見舞いに来たのに神父様を困らせちまってすまないだよ」
「いえ、私のことを考えて下さっているのはありがたいことです。村長さんには『考えておきます』と返事をしておいて下さい」
 ジムゾンは去っていくヤコブの荷車を窓からじっと見つめていた。
 神父の居なかったこの村の教会に派遣されてきてから、村の皆は体の弱い自分にとても良くしてくれている。最近は村の方へ出かけられるほど具合が良くないのだが、それでも代わる代わる誰かが顔を見せにやってくる。
 それなのに……何か欠けているような気がするのだ。
 それは神父になる前からずっと思っていたことだった。自分には何か欠けている。その欠けている何かを埋めようと神学を勉強し、神父になった今でもそれはずっと続いている。
 深い喪失感を抱え毎日を死人のように無為に過ごしているだけで、最近では死を望むようにさえなってきている。村で冬を過ごすことに躊躇したのも、願わくばこのまま一人で緩慢に死を迎えたいからでもあった。
「ゴホッ、ゴホッ……」
 風が冷たくなってきたようだ。少し礼拝堂で祈りを捧げよう……そう思ってドアを開けたその時だった。
「あ、人がいたのか」
 礼拝堂の椅子に寝転がっていた男が体を上げた。赤い髪に、顔にある目立つ傷……自分が知っている誰でもない人間が教会に来ていることに、ジムゾンは驚きを隠せない。
「あの、旅の方ですか?」
 ジムゾンがそう言うと、彼は伸びをした後こう答えた。
「まあそんな所だな。悪いんだけど、ここの隅でいいから今晩泊めてくれないか? 迷える子羊を助けると思って」
 迷える子羊、と言う言葉がこれほど似合わない者も珍しい。彼はどう見ても羊と言うよりは、肉食獣のしなやかさと猛禽類のように何もかも見通しそうな鋭い目を持っている。
「宿ならこの先にありますから、そこへ行くのは如何ですか? ここよりは寝床も食事も温かいですよ」
「そうしたいのは山々だが金が勿体ねぇし、目的のある旅なもんで無駄使いしたくないんだ。礼拝堂がだめなら別に物置でも軒先でもいいんだが」
「仕方ありませんね」
 肩をすくめながらそう言う彼を見て、ジムゾンは少し溜息をついた。と、同時に押さえていた咳が出て、喉と胸を痛める。
「おい、大丈夫か?」
 激しく咳き込むジムゾンの背中をさすりながら、彼はスッと体を支えた。
「だ、大丈夫……近寄るとうつりますよ」
 無意識に避けようとした手が遮られる。
「気にするな。もしかしたあんた肺病んでないか? 俺は街であんたと同じような病気の奴をたくさん見たが、丈夫な奴には何故かうつりにくいんだ。熱もあるみたいだし、多分咳でよく眠れてないだろ。顔色も悪いところを見るとメシもあんまり食ってないな?」
 全くその通りだ。しばらくは咳でよく寝付けていないし、食事もそんなに取っていない。作るのが面倒というわけではなく、どうしても食欲がわかないのだ。
「大……丈夫」
「うるせぇ。ベッドまで運んでやるから場所教えな」

 彼の名はディーターといった。
 ディーターはジムゾンをベッドまで運ぶと、他の部屋から枕や毛布を運んできて、半分座ったままの格好で寝られるようにベッドを作り替えた。ディーター曰く「咳が出る時は横に寝ていると逆に苦しくなる」と言うことらしい。そして台所に行きしばらく何かしていたかと思うと、暖かいミルクともう一つカップを持ってきた。
「これは?」
「テーブルの上にあったから勝手に使ったぜ。暖かいミルクでも飲んで少し休め。その辺にあった蜂蜜も入れたから少しは咳が楽になる。あと、これも」
 差し出されたその中には、薬草の香りのする煎じ薬が入っていた。おそらくヤコブが持ってきたのをカップに入れてきたのだろう。
「茶かと思ってつい飲んじまったよ。すげぇ苦かった」
 そう言いながらディーターは顔をしかめた。ジムゾンはそのカップからすっと目を背ける。
「いえ、これはいいんです」
 今までも何度かヤコブから煎じ薬は受け取っていたが、それはすべて飲んだ振りをして捨てていた。飲めば咳が多少楽になるのは分かっている。だが、飲んで楽になりたくなかったのだ。
 するとディーターはそのカップを手に取りジムゾンに突きつけた。
「うるせぇ、薬が苦いから嫌だって歳でもねぇだろ。治りたくない理由があるならともかく、俺がいる時にあんたにくたばられれて痛くもない腹探られるのはまっぴらだ。飲まねぇなら口こじ開けてでも飲ませるぞ」
 ドキッとした。
 治りたくない理由と言うのを見透かされたかと思った。ジムゾンは動揺を悟られないよう薬の入ったカップを手に取る。
「分かりました」
 苦い薬を何とか飲み下して、ジムゾンは大きく息を吐いた。それをじっと見ていたディーターは薬の入っていたカップを取ると、今度はミルクの入った方を差し出す。
「それでいい。ああ、台所にある野菜とかワインとかも使っていいか? せっかくだから何か栄養のあるものでも作ってやるよ」
「いえ、そこまでして頂かなくても」
「気にするな。どうせ俺も腹が減ってた所だし、食事にありつけるなら掃除でも何でもするつもりだったからな。何か他に頼み事とかあるなら聞くぜ」
 なんて自然に自分の中に入ってくるのだろう。それは押しつけがましいわけでもなく、かといって遠慮しているわけでもない。きっと彼自身の持つ雰囲気と内面がそうさせていて、それが何だかジムゾンには心地よかった。
「じゃあ、シーツを洗っておいてくれませんか? 最近具合が悪くて洗濯もロクに出来なかったんです。食事はその後ゆっくりでいいですよ」
「分かった。適当に洗って適当に作っとく」
「よろしくお願いします」
 その後ディーターは慣れた手つきで洗濯をし、礼拝堂の床を磨き、その後食事を作って持ってきた。シーツは「部屋が乾燥すると咳が出やすくなるから」と、寝室の端にロープを渡して干してある。その白い布がかかっているだけで、何故か部屋が明るくなった。
 ベッドの横にはミルクとチーズで作ったパン粥、赤ワインで煮込んだチキン、パテを添えた温野菜などが並べてあり、ジムゾンは久々に食事らしい食事を見たような気がした。
「お料理、上手なんですね」
「まあな。ガキの頃から生きていくために色々やらなきゃならなかったから、自然に身に付いた。他にもカードとか色々出来るぜ」
 そう言いながらディーターは部屋の隅にあったテーブルをベッドの横に持ってきた。
「一人だと美味いメシも不味くなるから一緒に喰おうぜ。余ったワインは飲んでもいいよな?」
 いいと答える間もなく、ディーターは赤ワインをゴブレットに注いだ。ジムゾンの方にはリンゴとスパイスを入れて暖めたワインが渡される。
「祈りは捧げなくていいから、冷めないうちに食え」
「でも……」
「そんな細かいことをグダグダ言うほど、お前の信じてる神様は心が狭いのか? 美味いものは美味いうちに食う方がよっぽど大事だと思うけどな、俺は」
 ふぅ……と溜息をついて、ジムゾンは一言だけ「今日の糧に感謝します」と祈りを捧げた。
 ディーターの作った食事は見た目通りとても暖かく美味しかった。そういえば、誰かと食事をしたのは何時以来だったのだろう。そんな当たり前のことすら忘れていた自分に驚く。
「台所にあった食い物は誰かが届けてきた物か?」
「ええ、村の皆さんがわざわざ来てくださるんです。台所にあった物は今日届けられたばかりの物ですよ」
 するとディーターは少し笑った後、羨ましそうにこう言った。
「あんた、愛されてるんだな」
「えっ……?」
「台所に生けてあった花とか、大事そうに鍋に入ってたパテとか見ると、村の皆にすげぇ慕われてる感じがするよ。俺はそんな生活とは全く無縁だったから羨ましい」
 ジムゾンはその言葉に俯いた。分かっている、頭では分かっているのだ。自分がどんなに村の皆から尊敬されていて、心配されているのかを。だが、感情がそれを否定するのだ。
 もし自分が神父ではなかったら、皆は同じように自分を愛してくれるだろうか? 同じように自分を心配してくれるのだろうか?
「よく、分からないです」

 その夜もジムゾンは一人礼拝堂で祈りを捧げていた。
 懐中時計が示している時間は午前零時を回っている。昇り始めの下弦の月が礼拝堂の窓から弱い光を投げかけ、磨かれた床と整頓された机、そして冷え込んできた空気と共に張りつめた雰囲気を醸し出す。
 すうっと息を吸うと、その冷たい空気が肺に入って少し喉が痛くなった。
「主よ……どうして私は、まだ貴方の元へ行けないのですか?」
 二十三夜の月待ちをすると願いが叶う、と何かの本で読んだことがある。この時間に祈りを捧げていたのは気まぐれからではない。たとえ言い伝えであろうとも、今は何にでもすがりたい気持ちで一杯なのだ。
「主よ……」
 体も心も苦しくて苦しくて仕方ないのに、自分は神にさえ嫌われているのか。咳を一生懸命に堪え、祈りの言葉を口にする。
「この苦しみから早く私を解放してください……」
 口の中で小さく呟いたその時だった。
「なんだ、ただの死にたがりだったのか」
 自分しかいないはずの礼拝堂に凛とした声が響く。その言葉に振り向くと、そこにはディーターだったはずの者が立っていた。赤く光る瞳、鋭い爪……ギリッと歯を食いしばるその口元には、肉食獣特有の牙が見えている。
「……人、狼?」
 それと同時にディーターはものすごい早さで近づき、ジムゾンの胸ぐらを強く掴んだ。
「流石、この姿だと田舎の神父でも一目で分かるか」
「私を、食べる気ですか?」
「それは俺が決めることだ」
 ディーターは冷たい目でジムゾンを見つめた。その総てを見透かされそうな瞳に、ジムゾンはつい顔を背ける。
「私の命で貴方の命が贖えるのなら、私は喜んで犠牲になりましょう」
「……!!」
 バン、という音と共に背中に鋭い痛みが走り、ディーターの腕が自分の体を壁に押しつけた。さっきまで表情の読みとれなかった瞳には、明らかに怒りの色が現れている。
「ふざけるな。どうして俺がお前の自殺の道具にならなきゃいけない?  お前の望みを叶えなきゃならない理由が俺にあるのか?」
「じゃあ何故……」
「さあな」
 そこでジムゾンは気が付いた。彼は猫が獲物をいたぶるように遊んでいる。自分を生かすも殺すもディーターにとっては自由なのだ。食欲を満たすための狩りではない。
「お前みたいなのを見てると吐き気がするぜ。満たされていることに気づかず、他の何かを望もうとする。楽になるためなら死ぬことすら辞さないくせに、自殺する程の勇気はない……そんな奴を見てると、何もかも奪ってやろうって気になる」
 恐かった。
 死ぬことなど恐くない、むしろ死んでしまいたいと思っていた。だが、圧倒的な力の前でジムゾンは恐怖するしかなかった。言葉を出そうとしても声は出ず虚しく息が漏れるだけで、腕を動かし抵抗しようとしても彼の力の前に空を切るばかりだ。
 するとディーターは一瞬ニヤッと笑い、ジムゾンの目をじっと見た。
「喰ってやろうと思ったが気が変わった。奪ってやるよ、お前が持っていた尊敬や病弱な体総てを。そして与えてやるよ、丈夫な体と人から忌み嫌われる忌々しいものを」
「なにを……っ」
 締め付けられていた首がふと楽になった瞬間、腹部に鋭い痛みが走った。その痛さに目をこらすとディーターの鋭い爪が自分の脇腹に突き刺さっている。大きな咳と共に口から血があふれ出て、床に赤い花が散る。
「人狼は、感染するんだよ」
 遠ざかる意識の中、ディーターが倒れる自分を笑って見下ろしていたような気がした。

 それから数週間後。
 ジムゾンはいつものように台所でヤコブを待っていた。
「神父様、具合はどうだか?」
「ええ、大分いい感じですよ」
 いつものように村からの伝言を受け取り、野菜や食べ物などを贈ってもらう日々。だが、確実に何かが変わっている日々……。
「神父様が元気になって良かっただ。オラの薬が効いたんだべか、それともディーターさんの看病が良かったんだべかな」
 ヤコブの言葉にジムゾンの心が痛んだ。
 自分が元気になってきたのは、ヤコブの薬でも看病でもない。あの夜ディーターに感染させられ人狼となったせいだ。今まで苦しかった呼吸もずいぶん楽になったし、咳で眠れないこともなくなった。だが、それも今しばらくの事だろう。
 多分このまま平和には暮らせない。遅かれ早かれ自分は人を喰らうようになるだろうし、それがこの村の人間でないという保証は出来ない。
「よっ、ヤコブ。元気そうだな。壁の修理終わったぜ」
 裏口から工具入れを持ってディーターが入ってきた。ヤコブはそれににっこりと挨拶をして答える。
「ああ、ディーターさんお邪魔してるだよ。それで……オラ達ディーターさんに謝らなければならねぇ事があるだよ」
「何だ?」
「オラ達、神父様の具合が悪いことを知ってたけど、病気がうつるのを恐れて顔しか見せなかっただ。元気になったから良かったけども、下手すると見殺しにしてたかも知れねえだ。だから村の皆、ディーターさんにものすごく感謝してるだよ」
 小さくなっているヤコブの肩をディーターはポンと叩く。
「守らなきゃならないものがあるなら仕方ないさ。ヤコブ達は出来るだけのことはしてたと思うぜ。気にするな」
「でも……」
「どうしても気にするって言うなら、俺がこの村で冬を越すことを許可してもらえねぇかな。目的のある旅だがこのままだと途中で冬になっちまいそうだから、春までここにいさせてくれ」
 ディーターの言葉にヤコブの表情がぱっと明るくなる。
「もちろん大歓迎だよ。ディーターさんさえよければ、好きなだけ村にいてもらっても構わないだ」
 ヤコブの言葉にジムゾンはハッとした。
 彼等は自分が神父だから愛してくれていたわけではない。たとえ自分に何もなかったとしても、隣人として変わらずに愛してくれていただろう。
 ディーターの言う通り、自分は満たされていることに全く気づいていなかったのだ。自分に何か欠けているとずっと思っていたのも、月が欠けて見えていてもその姿が丸いように、そこから目をそらしていただけなのかも知れない。
「…………」
 あの夜ディーターは自分の持っていたものをすべて奪っていった。人として今まで生きてきた総てを。その代わりに与えられたのは、人狼としての生。だが苦悩しているのは以前と全く変わらない。これから自分はどう生きていけばいいのだろう。
『私はいったいどうしたら……』
『それは自分で考えな』
 狼の囁きが風にかき消され、台所の窓をガタガタと鳴らしていった。

03 弓張り月

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