~作家に懐いた記憶喪失~『夢時代』より冒頭抜粋
~作家に懐いた記憶喪失~
折りを見て家へと帰り、家(うち)の鍵を始めの内には見付けられずに、家(いえ)の玄関まで上る間(あいだ)の、石垣の内に掘って仕立てたポストを覗いて隈なく探し、界隈(そと)の陽気に順応しながらそそくさ廻った俺の手先は、薄い暗さをほっそり纏ったポストの内の天井を突き、銀に光ったプレート仕立ての板の上にて、誰がしたのか揚々知り得ぬ策に乗じて、〝家(うち)の鍵〟がセロハンテープで奇麗に貼られて付いて在るのに漸く気付いて手中へ遣った。これだけ長らく住まいとしたのに、四季(しき)が過ぎ行き、涼風(かぜ)が吹いたら、一瞬にして、自分の気力は自室へ籠って明るみを見ず、他人(ひと)へ隠れた空想(おもい)の仄かへ埋没するのは、良くも悪くも、俺の精神(こころ)へ上手く逃れた一つの目だとも行く行く頷け可笑しくなって、俺はそれから、気力を絞って家(うち)へと這入る。暗(やみ)に紛れる見慣れた鍵とは、何だか妙に明るい界隈(そと)の景色に揚々気取られ、俺へと居着いた或る瞬間(とき)を観て、急に身軽く飛び跳ねて活き、俺の目前(まえ)へと自宅の前方(まえ)へと、ぽんと置かれた道具に観えては鮮やかに在る。
家(いえ)に這入って玄関へと立ち、呆(ぼう)っとするまま暗い通路を独歩(ある)いて行ったら、仄(ぼ)んやり灯った内からの灯(ひ)が俺と出会って挨拶しており、時計回りに衝動(うご)いた経過は、ぼんぼん時計を必要とはせず、界隈(そと)の明るい明度に解け得て〝フラッシュバック〟を展開して活き、俺の前方(まえ)では四肢(てあし)を縮め、何時(いつ)か居着いた俺の人形(かたち)を、上手に模し得た精巧完備の技巧の程度を存分揮(き)し得た無重の影などきちんと連れ添い、俺がそれまで使用していた個室で動いてそのまま消え去り、残った俺には〝俺の部屋だ〟と誰に対して何に対して気兼ねを覚えず吹聴して好い暗い気楽を置き去りながらに、個室(へや)の中では家を出るまえ直火(じかび)に掛けつつ温(ぬく)め続けた拉麺茶碗が、麺を頬張り横倒れになり、俺の来るのを待ってたようだ。〝何〟が待つのか遁(とん)と知らない未熟をあいした俺の成りには、直火に掛けつつ家(いえ)を離れた危うい注意が煌めき始めて、狭く成り出す俺の個室(へや)には宙(ちゅう)に浮き出た他人が覗き、〝俺〟の動きに追々近付く個展が芽生えて明るさが在る。
拉麺茶碗に淋しく残った麺の色には加熱し過ぎた余韻が漂い薄茶を塗した陰が目立って、それでいながら汁を啜った麺の太さは初めに見たのと少々異なり四方(しほう)に伸び切り縮れた形で、日頃に好く食う麺の様子を如実に語って従順にある。従順(すなお)な様子(かたち)が何とも宜しく、麺の独気(オーラ)は食うに適して美しさがあり、微妙な味さえ含んでいそうな体裁(かたち)を調え俺を誘った。俺の腹には麺に取り憑く虫が囁き、はらはら減らした腹の中身を麺が照らした独気(オーラ)へ放(ほう)って呼び鈴が鳴り、〝麺の為に〟と揚々空け得た俺を操る腹の調子はぐうぐう起き出し、俺の気持ちを茶色の麺へもすくすく生育(そだ)てて〝麺〟の在り処を光らせていた。
「あとで食べよう」
と一目(ひとめ)そうした気色に見慣れた際から俺の決意は固まり始めて、俺を誘った〝麺〟を観ながら、〝これだけ熱してよく熱の具合で火事にならなかったな〟と少々感心しながら先ずはその場を後(あと)に残した。
そうして固まる私室を後(あと)にしながら俺の気配は矢庭に遊泳(およ)いで景色を通り、見慣れた、見慣れぬ、関係無しに、淡い空虚へ没頭しながら昔に知り得た知人の在り処を見付けた様(さま)にて、どんどん深まる周囲(まわり)の気色に人形(ひとがた)をした影など芽生えて日陰を造り、立体的にて俺を頬張る無機の許容(かこい)が具に立たされ温度(ぬくみ)を呈した。温度(ぬくみ)に伴い少々打(ぶ)つかる人間(ひと)との記憶が俺の目に付き知り合いを知り、柔い道具を片手に持ち得る友の人形(かたち)は俺の前方(まえ)にて微妙に明るく、明度を仕分けた細かな感覚(いしき)を俺と友とに上手に放(ほう)ってあとは自然に群像(むれ)を擁して静まり返る。仕方の無いまま俺の心身(からだ)は友へと近付き、友が呈する徐温(やおら)の笑顔に怪訝を観るまま過去へと気遣い、友が呈した遊びの道具を、鵜呑みにしたまま受け入れられない弱い丈夫を思惑(こころ)に見る内、友の体が段々近付く気配に気が付き身構えていた。友の名前は粟井俊太(あわいしゅんた)であって、俺が高校・大学修了したあと社会へ出るのを躊躇(ためら)いはじめて、母が暮れ得た広告ビラから一つ煌めく情報など採り、流行(ながれ)に任せて入学していた専門校にて直ぐに知り得た知人にあって、その後はそれほど近しい間柄(あいだ)の無いまま互いに沿えない経過を要し、卒業後にさえ一度も遊んだ事ない淡い絆でほとほと対した、恋しくならない知人でもある。そんな粟田がふらりと現れ、俺の目前(まえ)へと自然に佇み、何やら見掛けた〝遊びの道具〟を何気に手に持ちにやにや朗笑(わら)い、俺へ対して〝遊ぼう〟など問う振りをしたまま俺の言動(うごき)を具に測って近付くようだ。〝遊びの道具〟を好く好く見取れば、以前に流行(はや)った「ゲームボーイ」を形態模写した様子に在って、そうした型から恐らく中味をそうした類(たぐい)のゲームに奮(ふん)した物であろうと、即座に決め付け首肯してたが、一度注意を他へと向けつつも一度眺めた視点の先では、俺の脳裏に揚々煌めく灯(あか)りが在るのか、確かに知り得た「ゲーム」の形は色を転じて別物を彩(と)り、仕上がる形は〝モバイル〟に見た形と成り得て、表面色(ひょうめんしょく)には灰色(グレーいろ)から黒が目立って、次第にそうした形へ纏める経過の早さは見得なくなった。悶々(もやもや)していた自己(おのれ)に逸した〝怪訝〟の表情(かお)には、友が生やした弱い臭味が矢庭に飛び交い気丈に遊泳(あそ)び、白紙から成る〝ドア〟の取っ手は、友の個室へ来訪したのと同じ様子を俺の眼(め)を借り背後へ仕立て、俺の気色を薄めて活きつつ、友から生れる剛(ごう)の気質を〝個室〟へ酔わせる覚醒がある。
こうした背後の景色は粟田を飛び越え俺をも越え活き、半ばに生育(そだ)てた淡い気色と結託する内どんどん膨らみ暗夜(やみよ)を設けて、二人に知れない柔い許容(おり)など〝折り〟に見立てて密かに講じ、講じて居るのに周囲(まわり)の環境(かたち)の詳細(こまか)を知れない夢遊に漂う俺の仮面は、粟田の気色をひたすら観るまま自分へ象る徒労の荒気(あらき)を必死に収めて活歩(かつほ)するほか、別の術(すべ)など保(も)ち得なかった。粟田はそうして、消魂(けたたま)しいほど煩(うるさ)い笑顔を晒して俺へと寄って、強引なるうち自分の手にした〝ゲームボーイ〟(粟田自称)が「余程に大した興味を引く」など、俺の手元へ強く投げ売り手早に(てばや)振舞い、俺はそうする粟田の心地を何とも図れず、〝又々彼の独自が他人を廻して騒いでいる〟など動転しながら背後を見送り嫌な気がして、粟田が装う何事にでさえ気性を抗う〝憤怒〟の心地を忘れず儘にて持ち去っている。しかし、仕方が無いので、彼の行為を好意とするまま〝ゲームボーイ〟と彼が称する詰らぬ道具を手中にするのは、俺の気質が以て生れた脆い独気(オーラ)を先取りして行く暴走(はしり)に転じた契機の故だ。相も変らず彼が発する他人へ宛がう虚ろな両眼(まなこ)は、取り付く途(と)の無い気怠い〝脅し〟が散乱していた。
その〝ゲームボーイ〟の扱い方を、俺は手に取り、分らずに居た。「データが消えるから無暗矢鱈に操作をするな。」と貸した最中(さなか)に俺は言われて粟田を見張り、そうした機能を具に知れない自分の無様に少々配慮をしながら、最近こうした流行(はや)り物など一度も手にせず、涼風(かぜ)の流行(なが)れる淡い空間(すきま)へひたすらこの身を押し込め隠れて、何も知らない「流行遅れ」を余計に呈した自分の軌跡は、こうした場面に相応しくなく、更にその上、恥にも化(か)わると、無垢な悩みに燻々(くすくす)浮んだ自分の憂慮を痛感するまま嘯くのだが、粟田の呈した〝言葉足らず〟が、これを俺へと渡した最中(さなか)に充分輝き、〝こんなに悩むは彼の好意に不備がある〟等、沸々呟く俺の眼(め)からは彼へ対する〝嫉妬〟の念など如何(どう)にも拭って落ちない敵意と成り得て当りを称して、弱く跳んでは彼を擁する不毛の砦を工作して居た。〝ゲーム〟の機能に色々並んだ釦の内には、〝押しては成らないデータ消去へ辿って仕舞える不吉な釦〟も存在していて、そんな〝ゲーム〟を手にした俺には俄仕込みに程々離れた強い不安がめっきり浮き立ち、粟田の視線が注意を落さず俺の周辺(あたり)に柔(やわ)んで在るのに緊張し始め、
「使い方も知らない、況して、きちんと教えてもない相手に、舌っ足らずな説明だけして貸してくれるな!」
等々、俺の気迫は腰を落して気丈に身構え、〝相手〟と成り得た粟田の総躯(そうく)を見上げる儘にて怒調(どちょう)を飛ばして恨んでもいた。そうした最中(さなか)で窮地に在るのに、俺の夢想(ゆめ)には頑固が解け得て不真面目と成り、彼を排(はい)する覚悟だけ観て〝ゲーム〟を扱うマニュアルなんかを彼(やつ)に聴くのを億劫がった。
そんな粟田の肩の向うに、同じく専門校にて淡く知り得た高田の姿勢(すがた)が矢庭に飛び交い、俺へと向かった彼への気力は無言の内にて場面を転じて結託仕上がる〝彼等〟の度合いを揚々固めて宜しく寄り添い、俺の目前(まえ)にて〝彼等〟の気色は、見る見る内にも激しく燃え立ちその場に挙がった上気を仰いで遊泳(ゆうえい)し始め、高田の働く〝現行(いま)の職場〟が粟田の〝ゲーム〟が彼の〝職場〟で流行ってあるのを俺の眼(め)で見て勇々(ゆうゆう)豊かに実らせ始めた初春を講ずる。勢い任せに巧く飛び出た〝彼等〟の派生は、俺の〝気迫〟を薄めて成り立ち静かに仕舞えた〝ゲーム〟の脚色(いろ)など事毎(ことごと)転じて〝淡さ〟を拾い、確かめ合いつつ互いの身元は華(あせ)を落した〝彼等の職場〟で滅法流行り、そうした〝ゲーム〟に転機が訪れ、〝ゲーム〟の中味は俺にも懐いた〝鉄拳七(てっけんせぶん)〟が新たな身を借り分身して活き、三人揃えた景色の内にて、粟田が手にした〝ゲーム〟の大口(くち)には〝未知〟が火照った紅い孔雀が大きく両翼(つばさ)を拡げて生き生きしていて、新たに独走(はし)った流行(はやり)の即座も〝二人〟へ対してまったりするまま加減を見知らぬ体裁(かたち)を仰いで俺の下(もと)へと散らばり始める。粟田の姿勢(すがた)が〝二人〟を目前(まえ)へと侍らせ従え、自分が手にした新たな〝ゲーム〟をゆったり掲げて自慢をして居る。自慢しながら〝鉄拳〟ゲームは俺の馴らしたゲームでもあり、不意とゲームが呈する気丈の場面に三人揃って寄り添うものなら、俺の〝馴らした以前(むかし)の手腕〟が大口(くと)から吐き得る気熱でも見て、二人揃って片付け得るのを夢想(ゆめ)の内にて彼等も嗅ぎ付け、そうした自然(じねん)に箍が外れて邁進するのを景観(けしき)に見据えた彼等の両眼(まなこ)は重々察して気取れた様(よう)で、俺へ近付く〝結託紛い〟は如何(どう)にも通れぬ弱い運河を両者の配した間柄(あいだ)へ見て取り、唯々二人の感覚(いしき)が互いに寄るのを細目に見て取り幻想(まぼろし)を観た。〝彼等〟が配した暗(やみ)の内では片目に気取った哀楽なんかが真横へ独走(はし)って縦列しており、誰にも解け得ぬ弱い腰など、自力で携え宙(そら)へと掲げて、俺の前方(まえ)でも充分煎じた泡(あぶく)を欲しがりうとうと這いつつ、俺の精神(こころ)が気泡を発して上気へ逃げ行く幻想(おもい)を観たのは、それから外れて数分後に観た景色の内にて、〝鍵〟の要らない〝暗い家〟へと埋没して行く未有(みゆう)の傘下が生じた頃だ。事の有無など日射へ乗じて有耶無耶にされ、俺の記憶は〝彼等〟の吐息を暫し忘れた頃にて再生して在り、自然(しぜん)に倣った月(つき)の甲(こう)など、意味を発せず非常に冗(じょう)じた上前撥ね活き溌溂として、俺の〝孤高〟は温(ぬる)い記憶を一杯頬張り、自宅を模し生(ゆ)く家の肢体を講(つくり)に観る儘、深い緑の嵩に塗れる数段離れた玄関迄へと自己(おのれ)を仕向けて躍動して行き要所要所で闊歩を手招き、〝家(いえ)〟の内へとやおらに続いた深い暗(やみ)へと自宅(いえ)の界隈(そと)からてくてく歩いて上手に跳び込み自分に仕留めた弱い心地を家具へ当てつつ気込(きご)んでも居た。よろよろ這入れた〝自宅(じたく)〟の内では暗(あん)に隠れた幾つの書斎が〝誰かの為に…〟と幾つも生じ、俺の気配はそうした暗(やみ)に居着いた個室の主観(あるじ)に巧く気取られ、小窓も咲かない暗い通路で俺を照らして激しく謳い、
「ここまで来れるかどうかは一同揃えて見物にあったが、どうしてどうして、お前の書斎はどこにあるのか見当付くまい。早く還って自室を纏って世間に対して穏泰(おんたい)に就き、決して慌てぬ試算を見つけて隠れて居(お)るのだ。」
弱々しく鳴る不毛の輪舞曲(ロンド)はそうした暗夜(やみよ)にすっぽり堅(かた)まり俺の〝大手〟を手早に小突いて動こうとはせず、白い〝白紙〟が俺の精神(こころ)へ激しく降り得た野生の無期には、到底止まない無有(むゆう)の主観(あるじ)が野平(のっぺ)り輝(ひか)って夢想(ゆめ)を観ている。何処(どこ)かへ辿って還って来たのは経過(とき)の止まない過細(かぼそ)い廊下で俺の心身(からだ)に円らに咲き得た初春(はる)の花など咲いた時期(ころ)にて、友さえ知己(とも)さえ、知人(とも)さえ忘れた〝気力〟の小片(かけら)は宙(そら)へ宛がう没我の陽(よう)にもすっぽり納まり身固めでもして、友と語らう明るい夜路(よみち)を忘れた俺には、表情(かお)を示さぬ手厚い夢想(ゆめ)など真向きに降り得て〝自宅〟を報せて、家から外れた界隈(そと)の空気を矢庭に吸い得た俺の感覚(いしき)は〝自宅(ここ)〟まで辿れる自生を呈しておっとり居たのだ。そうした背後(うしろ)が俺へと付く為、〝自宅〟が呈する暗い通路は〝友〟と通えた暗い夜路に大して化(か)わらず堰を設け、恥ずかしがらずに未知へと就き得る〝暗い夜路〟を真っ向から観て死生(しせい)を感じ、〝家〟の内にて誰が居ようが何が居ようが、果して結果に空気(もぬけ)が在ろうが臆する事無く迷いさえせず、うっとりする程〝験〟を担いでそれまで通れた延道(みち)の上へと心身(からだ)を遣り得た。うっとりする儘〝誰〟の発声(こえ)をも聞けず儘にて、未知が囀る小鳥の小唄を未熟に漏らして傾聴して活き、書斎へ続いた長い通路を暗(やみ)には紛れず気丈を振舞いてくてく独歩(ある)いた延道(みち)の果てには、あの時見知った暗い個室を少々違った弱い気配をその掌(て)へ牛耳る固い許容(かこい)がその実(み)を表し、俺が来たのを手厚く向かえて歓迎して居た。暗(やみ)に紛れた〝自宅〟の家具など可なりの角度に散乱していて、俺が独歩(ある)ける空(すき)の無い程〝見せない虚無〟など充満させては固室(こしつ)を設け、そうした最中(さなか)にふらふら当った家具の形は俺の足元(もと)にて暗(やみ)を象り、薄ら漏れ得る何かの気配へ灯(あか)りを設けて俺の眼(め)で観てくっきり仕上がる淡い形象(かたち)を充分頬張り租借をし始め、暗夜(やみよ)へ言動(うご)いた未知の〝虚無〟には家具の一つが端正(きれい)に固まり、一つ一つの家具の傍(そば)には俺へ対する仄かなsign(しらせ)が野平(のっぺ)り息衝き、俺の位置まで決定していた。
そうして集(つど)った個室の〝家具〟には、大型テレビが二台表れ暗(やみ)に通(とお)った光線(ひかり)の内にて何やら気取れぬ番組等して俺へと囃(はや)し、二台のテレビは夫々点き得た灯(あか)りの内にて全く異なる映画を映して仄(ぼ)んやり佇み、闇に紛れぬ輪郭(かたち)の内には二台を呈した一つの内にて〝砂嵐〟を観(み)せ俺の気分を少々押した。そうして堅(かた)まる二台の内には何やら見知らぬ決まった規律(ルール)が俺の気配を上手に潜(くぐ)って画策して在り、幾つも並んだ通常機能の四角い物が俺から見付けた机の上にて真横にたえ得る気色を灯して仄(ほ)んのり転がり、それを取り得た俺の感覚(いしき)が意図して伝えた〝伝播〟の波から〝つつつ…〟と送れた信号機により、〝パパパ…〟と化(か)わった二つ目に観たTVのナイズは別の明かりを静かに灯して俺の前方(まえ)では明るく在った。〝リモコン機能〟を〝鼠〟と呼びつつ、暗(やみ)に紛れた黒いコードを辿って行ったら、二つに分れた左のテレビに吸い寄せられ行きチーズの臭味にほっそり辿れるか弱い体裁(かたち)がずんぐり表れ、俄かに灯った俺への灯りは、TVナイズに上手く裂き得た白黒調など自活へ浸って相対する儘、ずんぐり肥った〝鼠〟の吐息を〝伝播〟に乗せ活き上々表れ、黒い神器に降れる眼(まなこ)で〝リモコン機能〟かテレビの本機(ほんき)か何れを触って調度を化(か)えたか分らぬ儘に、左へ傾き俺へと対する白黒テレビは美彩を放(はな)って物を映した。静かな個室で誰かの主観(けはい)がドアへと直って向こう観た儘、俺の気色は白黒調へと場面を転じて〝転々(ころころ)〟煩(うるさ)い初春(はる)の畝(うねり)にその実(み)を置いた。