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~緑情(りょくじょう)の彼方に…~『夢時代』より冒頭抜粋

~緑情(りょくじょう)の彼方に…~
 …白亜(しろ)く成り立つ無刻(むこく)の遊戯は過去と未(いま)との繁味(しげみ)に寄り添い、明日(あす)に淀める〝疑心暗鬼…〟は懊悩(なやみ)を気取らぬ煩悶(なやみ)に落ち着き、分厚(あつ)い人壁(かべ)から身辺(あたり)を酔わせる無謀の暗黙(やみ)へと躁鬱など見た…。幻(ゆめ)の虚空に落ち着く伸びには一人(ひと)の灯(あか)りが点々片付き、朝な夕なに人間(ひと)を連れ往く旧い気色が温階(おんかい)を観た…。
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 …俺は「一人将棋」をしていたが面白くなく、たまたま傍にいた太宰を引っ張った。俺は太宰治と将棋をした。しかしどうやら彼は気分が乗らないらしく、半ば無理矢理引っ張った俺に対し、苦虫かみつぶす勢いで以て乱暴に駒を進め、盤の上に並んであった互いの駒の配置(特に太宰の駒並びの方)を目茶苦茶にして、彼は「全くやる気がないのが俺の本音だ」と俺に突き付けてきた。一駒一駒わざと投げ遣りに進めて行き、盤上の駒がその「進める手」の振動で無茶苦茶になるようにして、交互に来る筈の自分の順番を待たずに、一方的に俺の方に駒をグングン進めて行った。ブツクサ文句を言いながらである。
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 一人(ひと)に見初める文言(ことば)の概(おお)くは夢の野原を暫く独歩(ある)き、日々の脚色(いろ)から乱心(こころ)が途切れる旧い佳日に濁りを観た儘、幻覚(ゆめ)の生録(きろく)へ過去を詠み取る不乱(ふらん)と感覚に通底して往く…。街の色葉(いろは)に孤独が朗(あか)るみ、女性(おんな)の蜷局を児(こども)に概(おお)きく〝不利…〟を齎す独理(ドグマ)は翳り、自己(おのれ)の人密(みつ)から逃れ始める旧い叫(たけ)びは故縁(えにし)を結った。低い小宙(そら)から樞(しかけ)が問うのは人山(やま)の始めの憂慮に目敏く、未知を問わずに人形(かたち)を想わす人街(まち)の小敗地(アジト)にその眼(め)を遣った…。翌朝(あさ)の流行(ながれ)に気持ちを列(なら)べて一人(ひと)の勇気を未信(みしん)に採らねど、幻想(ゆめ)に酔わせる佳日の周囲(まわり)に人間(ひと)の四季(きせつ)の絵具(えのぐ)は人密(みつ)に纏わる乱心(こころ)の流行(ながれ)は過去と現行(いま)との鶏冠(とさか)を取り添え、夜半(よわ)に亘(わた)れる一人(ひと)の自由を人傘(かさ)に努(つと)まる丈夫を打ち立て、人街(まち)の気色に見様(みよう)を蹴散らす「自由と現行(いま)…」との両掌(りょうて)を保(も)った…。一人(ひと)の無形(かたち)に孤独が成るのは淡い四季(きせつ)の列(ならび)に始まり、自己(おのれ)の宙(そら)から有形(かたち)を化(か)え往く浮浪の気色へ送還され得た…。白亜(しろ)く纏まる経過の吐息は一幻(ゆめ)に囲える自由を見詰めて、明日(あす)に息衝く孤独の小敗地(アジト)は涼風(かぜ)に安める未活(みかつ)と成った。未解(みかい)に降(お)り立つ不義の魅力は白亜(しろ)い人壁(かべ)から極力(ちから)が欲しがり、現行(いま)を導く孤独の章から過去(かたち)を彩(と)らない協議(きょうぎ)を射った…。自由に求まる四季(きせつ)の始めは未解(みかい)に基づく過憶(かおく)を導き、漆黒(くろ)く纏まる自由の美園(その)から過去(かこ)を齎す駆逐を設け、翌朝(あさ)に照輝(てか)れる暗黙(やみ)との成就は杜撰を厭(きら)って東国(くに)へと泥(なず)む…。一女(おんな)の端(はし)から躰を表す情事(こと)の集成(シグマ)と自活(かて)の列(ならび)は、未(いま)を忘れて永久(とわ)を気取れる〝無い物強請り…〟に身悶えした儘、苦し紛れの離散を手招く〝幻(ゆめ)の自主(あるじ)…〟へ草業(そうぎょう)して居た…。一人(ひと)の感覚(いしき)へ加担するうち暗黙(やみ)に按じる独理(ドグマ)は素通り、幻(ゆめ)の未知から孤独を集める「過去(むかし)の列(ならび)…」に記憶を象(と)らねど、暗黙(やみ)の感覚(いしき)へ孟起(もうき)を画せる五月蠅(あわ)い進度(しんど)の成り上がりを観た…。未(いま)を諦め苦しみから逸(そ)れ、人物(もの)の幾多を御託に問うのは「延び…」を見知らぬ臨在に有り、幻(ゆめ)の空虚と家宝(かほう)の如くは暗(やみ)に紛れた沽券に観られる…。一人(ひと)の一滴(しずく)に懊悩(なやみ)を置き果て、過去に頼れる無心の有志は遠巻きに在り、一人(ひと)の流行(ながれ)と寡黙の煩悶(なやみ)は意図を忘れた有義(ゆうぎ)に漲り、分厚(あつ)く成り立つ孤独の葦(あし)には紐を解(と)くまま遊戯(あそび)に入(い)った…。女性(おんな)の姿勢(すがた)が夕日を観た儘、旧(ふる)びた欲には孤独が冗じて…、人物(もの)の空虚を問わず語りに明日(あす)を按じる独理(ドグマ)は概(おお)きく、一人(ひと)の渡りに列(ならび)を観て取る物見の空間(あいだ)は戯曲を相(あい)し、人山(やま)の空から御託を喰うのは餓鬼を眺める女性(おんな)であった…。一人(ひと)の列(ならび)に餓鬼を観る儘、下等の哀れに孤独を射るのは人山(やま)の麓で、明日(あす)を吟じぬ処の主宴(うたげ)は竈(かまど)を知らない夕暮れに在る…。
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