偽牧師
タイトル:(仮)偽牧師
▼登場人物
●戸美光男(とび みつお):男性。50歳。キリスト教の牧師。ホーリネス派。昔は真面目だったが段々狂気に歪む。
●戸美今代(とび いまよ):女性。45歳。光男の妻。子供は無い。最近、光男の挙動に不信を感じている。
●信者:男女を含むイメージで。30代~50代の感じで適当に割り振って貰ってOKです。本編では男信者・女信者と記載。光男の教会に集う信者。
●鏡 真理(かがみ まり):女性。30代。光男の純粋な信仰から生まれた生霊。
▼場所設定
●日本国教会(にほんこっきょうかい):光男が牧師として赴任している教会。普通の教会のイメージでOK。礼拝堂はやや豪華な感じ。光男と今代の自宅も教会内にあるイメージです。
●バー「Justice(ジャスティス)」:お洒落な感じのカクテルバー。真理の行き付け。
▼アイテム
●サクラメンション:バーで真理が今代に渡す粉末薬。無味無臭。これを飲んだ人はたちまち心の奥底に隠れた本音が暴露され、自分の主義に率直な言動を取ってしまう。
NAは通常のナレーション(「通常」と記載)、今代でよろしくお願いいたします。
(イントロ+メインシナリオ=4195字)
イントロ~
「俺の言う事が全てなのだ!」
牧師は無知と虚無に襲われる直前、礼拝堂を飛び出した。
そして自分の信者達の前に姿を現し、虚無に追われる無謀へと闊歩する。
牧師はただ憤慨していた。
メインシナリオ~
ト書き〈教会にて〉
光男「諸君!私の言う事を聴け!もうすぐだ、日の出が近い!私の言葉をここで親身に聴かねば、諸君は地獄の底へと落ちていき、2度と這い上がれぬ絶望を知る事になる!早急に私への信仰にその身を奮い立たせよ!2度と俗世の虚無へと落ちぬ事が重要である!これは急務の事、絶対の真理(しんり)である!未熟を捨てよ!未完を捨てよ!そしてこの世の浄化へ決起せよ!」
男信者「はぁ・・・さすがは戸美先生だ」
女信者「信じます!私、先生を信じます!」
光男「ほらここに書いてある!手元の聖書をしっかりと見よ!自分のこれ迄の在り方を思い知れ!私の言葉は炎の如く諸君を覆い尽くすだろう!諸君は聴かねば成らない!そうせねばその体はすっかり罪の内に捕われて、2度と天を仰ぐ事は無いだろう!明日の我が身を思うなら今の我が身を思え!」
男女信者「先生!先生!!先生!!!」
NA:通常)
教壇でメッセージをしているこの男は戸美光男(50歳)。
この教会に牧師として赴任して20年目になる。
特定の信者に対し、彼はカリスマ性を持っていた。
「彼の言う事なら何でも信じる!」
そのように妄信する人達が多かったのだ。
けれど1人、彼に不信を持つ人物も居た。
彼の妻・今代である。
今代「あの人、またあんな大声張り上げて・・・」
NA:今代)
彼と結婚して20年。
昔の彼はまるで別人だった。
もっと純粋で朗らかで、誰に対しても優しい印象をもっていた。
今代「どうして、あんなになっちゃったのかしら・・・」
ト書き〈2人の部屋〉
今代「ねぇあなた、今日のお説教の事だけど」
光男「なんだ?」
今代「最近少し、行き過ぎじゃない?なんだか最近のあなたはまるで別人よ。私が知ってる筈の昔のあなたから、何かどんどん遠ざかっていくような・・・」
光男「何を言っとるんだお前は!いま人間のこの世の中は汚れ尽しとるんだ!その汚れた場所から救い出すのが我々キリスト教徒の任務じゃないか」
今代「でもそれは神様がなされる事でしょう」
光男「人の業(わざ)を通して神の御威光が現れるのだ!もういい。話にならん!お前は向こうへ行ってなさい。私は次週の為の準備をしなきゃならん」
(自室のドアを閉める音)
今代「はぁ・・・」
話し合えばすぐ喧嘩。
最近は特にひどい。
部屋からは怪しい独り言が聞こえる。
まるで怒りに満ちた呪文のように・・・
ト書き〈数週間後〉
それから数週間後。
今代「もうダメ。私、耐えられないわ!あの人、完全にどうかしてる!」
いつになく大喧嘩したその夜。
私は家を飛び出した。
私達には子供が無い。
相談する相手も居らず、こんな時、押し寄せる孤独は痛烈だ。
ト書き〈バー「ジャスティス」へ〉
フラフラと街中を歩く内、何となくお酒の力を借りたくなった。
慣れない飲み屋街を歩いていると・・・
今代「ジャス・・・ティス?」
「Justice」というバーを見付けた。
正義。
その名前に釣られて店に入った。
中は客が殆ど居ない。
私はカウンターに座り、お酒を飲んだ。
するとそこへ・・・
真理「こんばんは。お1人ですか?」
見知らぬ女性が声を掛けてきた。
30代くらいの黒髪の女性。
気品が漂い、何となく人も好さそうだった。
彼女の名前は鏡 真理。
悩みコンサルタントをしてるらしい。
中でも特に、スピリチュアル的なメンタルコーチが専門だった。
私はつい悩みを吐き出した。
彼女はずっと親身に聴いてくれた。
真理「そうですか、ご主人が」
今代「あの人は最近まるで自分が人間ではなく、神様から直接啓示を受けた預言者のような・・・いいえ『自分こそが神なのだ』と言っているような、そんな恐ろしげな気迫のようなものを持ち始めたんです。もう見てると怖くて」
真理「確か、ホーリネス派とおっしゃいましたね?」
今代「ええ」
真理「キリスト教団の中でも、ホーリネス派は特に熱心です」
真理「しかし熱心に過ぎ狂信的になってしまえば、教理を自分達の主観で決め付ける習性を持ってしまい、その教え本来の規律から背く事もあります」
真理「牧師も例外ではありません。牧師だからこそ熱心となり、なまじ覚えた知識を糧に自分の教理を作り上げ、それを信者に妄信させる事もあります」
今代「ええそうなんです!今まさにそんな状態なんです!」
真理「では1度、こちらをお試し下さい」
彼女は私に粉末薬を差し出した。
今代「何ですか、これ?」
真理「それは『サクラメンション』という薬。飲んだ人は本音を暴露して、自分の主義・主観に率直な行動を取り始めます。ご主人が牧師として、今どの方向へ独歩しているか、それを手っ取り早く確認する事が出来るでしょう。その結果、あなたが今のご主人を信じるべきかどうか、すぐに分かります」
今代「ま、まさか」
真理「信じる事が大切です。ご主人は今、見方を変えれば非常に危険な立場に居ます。ここで行動を起こさなければ、あなたはきっと後悔しますよ。今夜にでも、ご主人がいつも飲んでるブランデーにその薬を入れてみなさい」
今代「ど、どうして主人がブランデー飲んでる事を・・・?」
真理「何となくそんな気がしただけです。いいですね?どうせこのまま居ても悩みは解決されないでしょう。なら行動を起こしてみる事です。それと、その薬を飲ませた後、あなたは少しご主人から距離を置くようにして下さい」
今代「え?」
真理「ご主人は思惑通りに行動します。その時もし犯罪に身を染めれば、あなたも巻き込まれます。それを避ける為に、少し離れた位置に居て下さい」
ト書き〈翌朝〉
私はゆうべ、主人のブランデーに薬を混ぜた。
主人はそれを飲み干した。
今日は集会。
大勢の信者が集まっていた。
光男「よいかぁ!この世の浄化へ決起するのだ!いま人間の世は罪で汚れ尽している!これを早急に解決せねば、我々の務めは完遂されない!よいな!」
「罪人は我々が滅ぼす」
光男は大声でそう言った。
するとそれを聞いていた信者の1人がこう言った。
男信者「でも先生『罪人を打ち滅ぼせ』など、我々の聖典にはありませんが」
光男「ぶぁか者がぁ!!たわけた事をぬかすな!私の言う事に一々要らぬ詮索をせんでよい!私の言葉だけを信じ、自分の胸へ刻み込めば良いのだ!」
光男の気迫と熱気に押された男は、スゴスゴ引き下がった。
これを機に、盲目と化した信者の群れは、
「最寄りの寺や神社を打ち滅ぼす」
と躍起になった。
その身に武器を携え、せこい化学兵器まで用意した。
その姿はまるで「現代版十字軍」を想わせた。
今代「あ、あの人・・・もう普通じゃないわ・・・何かに取り憑かれてる・・・」
私は更に皆から身を引いた。
ト書き〈決行〉
彼らは宵闇に乗じ、人目を避け、自分達の計画をどんどん進めていった。
関東から信州辺りの寺や神社は既に焼き払われた。
しかし証拠を残さず行動したので、警察も市民も犯人像を掴めない。
報道では、
「暴力による独裁!?主犯は熱狂信者か?」
とだけ伝えられた。
ト書き〈警察からマーク〉
しかしこれだけ派手な事件。
警察は次第に犯行集団を特定していく。
「戸美光男牧師率いる狂信者の犯行か?」
このように捉えた警察は、極秘で捜査を展開した。
これに気付いた光男達は逃避行を繰り返す。
その間でも、
「これも正義を成す為の俗世で受ける試練」
と皆は固く覚悟した。
ト書き〈沈静〉
逃避行生活を繰り返していた或る日。
また別の信者が光男にこう言った。
女信者「先生、この御言葉を今、私達はどう解釈すればよいのでしょう?」
『隣人を愛せよ』(聖書の御言葉)
光男は「へ?」といった顔をした。
聖書を自分勝手に解釈し、独自の主張だけを力説していた光男。
女信者「私達がしてる事は他人を傷付ける事。どこに愛があるのでしょう?」
罪の意識が芽生えたか、光男は沈黙した。
これを見た別の信者はガックリと来た。
男信者「なんだよ、これまでのあの勢いはどこ行ったんだ…」
男信者「この男も結局は、我々を導く預言者じゃなかったか」
女信者「・・・なんだか退屈になっちゃったわ・・・」
ト書き〈後日〉
光男「えーこれからは周りの人達を愛しましょう。傷付けちゃいけません」
短い説教だった。
悲観する者が多かった。
でも、
「隣人を愛する事」
その大事を改めて知り、皆、各自の信仰へ戻っていった。
ト書き〈数日後〉
それから数日後。
男信者「どうしました?お顔色が優れませんね」
光男はずっと、苦虫を嚙み潰したような顔をしている。
手足等は小刻みに震えていた。
女信者「あの、センセ・・・?」
すると突然・・・
光男「るォォオオオオオオオオオオオオオおおおおおおおおおおおお!!!」
女信者「きゃあ!」
教会の外1キロ四方に響き渡る程の奇声を上げた。
光男は信者を突き飛ばし、礼拝堂を出て行った。
光男「裁く力は我に有り!裁く権利は我に有るゥ!この世の汚れ尽した愚民どもぉおぉ!1人残らず裁いてやるぅ!殺し尽してやるぅう!お前らに救いなどあるものかぁあ!俺が許さんん!俺がお前らを許さんのだぁあああ!」
光男は懐にサバイバルナイフを隠し持っていた。
それで周りの通行人を次々と殺傷していった。
今代「は・・・はわわ・・・あ・・・悪魔・・・」(恐怖しつつ遠くから眺める)
ト書き〈逮捕される光男を眺めながら〉
真理「やはりこう成ったか。まるで切り裂きジャック・・・いやどこかで起きた『通り魔連続殺傷事件』のようね。光男はただ自分の主観だけで人を裁き続けた。自分が気に入らない者・罪人と定めた者を容赦なく蹂躙し、自分だけが信じる『偽りの信仰』の餌食にしていった。愛なんてカケラも無い程に」
真理「私は『光男の純粋な信仰』から生まれた生霊。入信頃の初心をなんとか光男に取り戻して貰う為、今代を通じてあの『サクラメンション』を飲ませてあげた。あの薬は確かに本能を露わにするけど、正しい信仰の道へ戻る事も出来た。結局、更に狂信的な道を選んだのは、光男の欲望に他ならない」
真理「他の宗教も同じく、信仰の持ち方を誤れば『人間の教義』に置き換えられる。人は元々罪人。つまり悪の教義にすり替えられる。今度は自分が裁かれながら、光男はその罪を思い知るだろう。悲惨なのは彼に殺された人達と、彼の教義に妄信させられた信者達。これからが大変になるでしょうね」
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