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仮面の美

タイトル:(仮)仮面の美

▼登場人物
●仲美濃内子(なかみの うちこ):女性。40歳。独身OL。美に取り憑かれている。
●お婆さん:70歳ぐらい。内子が助ける相手。一般的なイメージでお願いします。
●女性社員:20代。内子が働く美容コンサルタントで共に働いている。
●美杉瑠子(みすぎ るこ):女性。40代。内子の欲望と本能から生まれた生霊。かなりの美人。

▼場所設定
●内子の自宅:都内にあるやや高級マンションのイメージで。
●Forest of Beauty:内子が働く会社から最寄りの飲み屋街にある。瑠子の行きつけ。
●街中:必要ならで一般的なイメージでお願いします。

▼アイテム
●Beauty of Kindness:瑠子が内子に勧める特製のカクテル。これを飲んだ人の内側から美が引き出される。化粧水の補助効果の役割の形。副作用は無い。
●Borrowed Beauty:瑠子が内子に勧める特製の顔の化粧水。これを塗るだけで若々しくなり潜在的な美が総て引き出される。でも同時に他人に対する善行も働かなければならない。この善行を怠れば化粧水で美しくした皮膚が全て剥がれ落ちる。

NAは仲美濃内子でよろしくお願い致します。

イントロ〜

あなたは美人になりたいですか?
男性の方なら格好の良いイケメンになりたいですか?
誰だって美を求め、格好の整った人になりたい…
そう思うのは人にとってごく自然な事かもしれません。
ですが幾ら外見を磨いたところで
その人の中身まで美しくなければ、
その人は本当の美人・好青年とは言えないものでしょう。
今回は人の中身より美しさだけを求めてしまった
ある女性にまつわる不思議なエピソード。

メインシナリオ〜

ト書き〈自宅〉

私の名前は仲美濃内子(なかみの うちこ)。
私はとにかく美しくなりたい、可愛らしい女になりたい、そんな思い一筋で毎日化粧台の前に向かっていた。

内子「はぁ。また目尻のシワが増えてるわ…。ホントどうやったらもっと美しくなれるのかしら」

これまで散々エステサロンに通ってきて、
化粧品を変え、エクササイズに努め、
美だけを求める生活を繰り返してきていた。

でもやはり年齢には勝てないものか、
どれだけ努力しても体が衰えてゆき、
自分の理想とは正反対に向けて走っていく。

私も今年でもう40歳。
今では「高齢美魔女」という言葉も流行ってるけど、
私にはどうも関係ない言葉のようだ。

私は歳を取る事が嫌い。
衰えていく自分を見るのが嫌い。
どうにかして全身全霊でこの年齢にまず逆らい、
美だけを求める生活ができないものか?
それだけを考えるようになっていた。

ト書き〈カクテルバー〉

私は都内で、美容コンサルタントの仕事をしている。
顧客の人や、周りで働く若い社員などを見ていると
仕事はそっちのけでやはり自分の老いを感じさせられ、
ついやる気がなくなる事がある。

そんな時はまた心を奮い立たせ、
明日に向けて努力しなきゃならないとその日の発散場所を求め、
私は会社から最寄りのカクテルバーへ行く。

昔からお酒は大好きで、心の憂さを晴らす唯一の嗜好品。
本当は余り美容に良くないとは分かっていたけど、
でもこんな時、やっぱりどうしようもない。

そして会社帰り。いつものカクテルバーが並ぶ飲み屋街を歩いていた時…

内子「ん、あれ?こんなお店あったっけ?」

いつも来ている場所なのに、全く知らないバーがある。
お店の名前は『Forest of Beauty』。
外観は綺麗で中も落ち着いていたので、
私はそこに入りカウンターにつき
いつものように1人飲んでいた。

するとそこへ…

瑠子「こんばんは♪お1人ですか?もしよければご一緒しませんか?」

と1人の女性が私に声をかけてきた。
振り返って見ると、これまで見た事もないような美しい人。

内子「あ…ど、どうぞ」

私は彼女の美しさに見惚れてしまい、
気がつけばふと隣の席を空け彼女を迎えていた。

彼女の名前は、美杉瑠子(みすぎ るこ)さん。
都内で私と同じような美容コンサルタントの仕事をしていたようで、
他にも副業でメンタルヒーラーやスピリチュアルコーチ
のような事もしていると言う。

それに加えて彼女は不思議な人だった。
一緒に居るとなんだか…
「昔から私の事を知ってくれて居た人?」
のような気がしてきて、心が和み、
次に自分の事をなぜだか彼女に打ち明けたくなる。

つまり自分の悩みを彼女に打ち明け、
その悩みを全て彼女に解決してほしい…
そんな気にさせられるのだ。

そして気づくと、私はその通りの事をしていた。

瑠子「え?あなたも美容コンサルタントの方なんですか?」

内子「え…ええ、まぁ♪でも最近ではもう、私にはこの仕事に就く資格が無いのかなぁ…なんて思い悩んじゃう事もあるんです」

自分が歳を取って醜くなっている事。
他人に美容を勧められるほど自分が美しくない事。

他にも日頃悩んできた自分の心の内訳を、
その時全て彼女に告白し、やっぱり、
「今のこの自分の窮地を助けて欲しい」
と彼女に訴えていたようだ。

彼女は私のそんな愚痴のような悩みを真剣に聴いてくれ、
そしてアドバイスをしてくれた後、
その悩みを本気で解決しようとしてくれた。

瑠子「フフ♪そんなので悩む必要なんてありませんよ。あなたは私から見ても充分美しいですし、お見受けしたところその中身…つまり性格にも可愛らしい所があると思います。別に美容を誰かに勧めるその当人が美しくなければならない…なんて法則はありませんし、今あなたが抱えておられるその悩みだってただの一過性のもので、時が経てばいずれ解決するんじゃないでしょうか?」

そう言っても私が本気で悩んでいたので、
彼女はそれから指をパチンと鳴らし、
そこのマスターに一杯のカクテルをオーダーして
それを私に勧めてこう言ったのだ。

瑠子「分かりました。それではあなたが今抱えておられるそのお悩みを、物理的に解決して差し上げましょう」

内子「え…?」

瑠子「今差し上げたそのカクテルは私の特製オーダーのものでして、名前を『Beauty of Kindness』と言います。それを飲めばきっとあなたの内側に潜在している美が溢れ出るように表面化して、誰に見られる時でもあなたは美しく輝いて居る事ができるでしょう」

瑠子「あ、それともう1つ、こちらを差し上げます」

彼女が次に差し出してきたのは、
おそらく彼女の会社で作っていた化粧品。

瑠子「こちらの化粧水は『Borrowed Beauty』と言うもので、毎日、顔のお肌の美容ケアを助けてくれる物になるでしょう。こちらは無料で差し上げますのでぜひどうぞ。もし無くなれば在庫がまだ沢山ありますので、いつでも無料で差し上げますよ?」

内子「えぇ?そ、そんな事…本当に…?」

よく聞いてれば信じられない事を言っている。
カクテルが奢りなのはまぁ分かるけど、
自分の会社の化粧品を全て無料で差し上げる…
なんてこと普通は有り得ない。

私もこの業界で長く働いてきたから分かるけど、
彼女が今差し出してきたこの化粧品はかなり高価な物である。

でも、ただ美しくなりたいと言う心が私を動かしてゆく。

内子「ほ、本当に良いんですか?頂いても…?」

瑠子「ええ♪実は私、その会社の社長をしておりまして、あなたのような方を見つけるとついボランティア精神が働きまして、その人の喜ぶ顔を見てみたい…そんな事に喜びを感じるようになったんです。まぁ私の道楽のようなものでしょうかw」

瑠子「…いかがです?お試しになられませんか?新しい自分を手に入れようとする時、誰でもその革命への一歩を踏み出さなければなりません。たとえそれで失敗しても、今のあなたに失うものは何も無い筈でしょう?でしたら試してみる価値はある…私はそのように思うのですが、いかがです?」

彼女はやっぱり不思議な人。
信じられないような事でも彼女に言われると信じてしまう。
それに無料と言うのも確かな魅力。

気づくと私は先に勧められたカクテルを一気に飲み干し、
そして今差し出されたその化粧水を手に取っていた。

瑠子「よかったです♪私もあなたの将来の美のお役に立てて。あ、そうそう1つだけ、その化粧水を使うにあたってあなたに言っておきたい事があるのです」

内子「え?」

瑠子「私どもの会社が顧客にオススメする化粧品全般は、そんじょそこらで売ってるようなただの化粧品じゃありません。その人の内面から美しく変える化粧品そのもので、その人の外見だけじゃなく、寧ろ内面に革命を起こさせるものなのです」

内子「…え?どう言う事…?」

瑠子「簡単に言いましょう。その化粧水は1日に1度だけ、お顔に塗るようにして下さい。そしてその1日の内に必ず誰かに良い事をしてあげて下さい。これがその化粧水を使うにあたっての条件です。良い事と言うのは何でも結構です。困っている人を助けてあげたり、お婆さんが持ってる荷物を持ってあげたり、電車で誰かに席を譲ってあげたり…。つまりその化粧水を使うのと同時に、誰かに善行を働いて下さいと言う事です」

初めて聞いた売り文句だったのでちょっと驚いた。

「化粧をしながら誰かに良い事をする…」
簡単に言えばそう言う事で、
その化粧品を使う事と善行とがどう関係するのか?
それが本当によく解らなかった。

でも私の心はただ美しくなりたい…それ一心だ。

だからとりあえず頷き、本当に美しくなれるなら
良い事でも何でもしてやろう…そう思った。

内子「…分かりました。じゃあそうしてみます」

半信半疑の抜けない私だったが、
とりあえずその気になったのを見て
彼女も喜んでいた。

瑠子「良いですね?私の今言った事を必ず守るようにして下さい。そうすればその化粧水は喜んであなたをもっと美しくしてくれるでしょう。私の言葉、決して軽く聞き流さないようにして下さいね」

ト書き〈変わった生活〉

それから数週間後。私は本当に美しく成れていた。
全てが変わったと言うか、それまで悩んでいた事が嘘のように。

肌は美しく瑞々しくなり、少し混じっていた白髪もなくなり、
目尻のシワも消え、何より心の底から若さの力が
湧き出るように溢れてくる。

女性社員「仲美濃さん、最近本当に変わりましたね♪なんだかすごく綺麗になりましたよ?若いって言うかなんて言うか。何かそんなふうになれる秘訣でも掴んだんですか?」

内子「ウフフ♪そぉお?別に何もしてないけど♪まぁ毎日のウォーキングとかエクササイズとか、そう言うのを欠かさずにやってるからかな♪あと食生活の改善と♪」

それから私を見る人見る人皆がそう言って私を褒めてくれて、
私はもう嬉しさの絶頂だった。

もちろんあのとき瑠子さんが私に言ったように、
化粧水を使いながら誰かに良い事をする、
これも心にしっかり留めてその通りに実行していた。

お陰で私の肌は輝くように明るくなって、
街中を歩いていても振り返って見る人が多くなった。

内子「フフ、これよこれ♪これこそ私が長年求め続けてきた美の骨頂よ♪」

ト書き〈トラブル〉

私はそれまで自分を装っていた洋服も変え、
ブランド物やクラシックな物など、
ワンランク上げた装飾品を身につけるようになっていた。

そして街中を歩いていた時。
目の前に、大きな荷物を持ったお婆さんが居るのをまた見つけた。

私はあれから通勤路を変え、
お爺さんお婆さんがよく利用する道や
そういった人達がよく利用する公共施設の前など
率先して歩くようになっていたのだ。
だからそんな困った人を見かけるのも早い。

内子「お婆さん、大丈夫ですか?お荷物お持ち致しましょうか?」

私はいつものように善行を働こうとお婆さんに寄り添い、
その荷物を持ってあげようとした。

お婆さん「いやぁ悪いねぇ、そうかい?だったらお願いしようかしら」

そう言ってお婆さんが荷物を私に渡そうとした時…

内子「あっ!」

お婆さんが手に持っていた野菜ジュースの蓋があいてしまって、
中からこぼれたジュースが私の洋服についたのだ。

お婆さん「あ、いやぁごめんなさいね!今すぐ拭くからちょっと待っててね」

お婆さんはすぐ懐からハンカチを出そうとしていた。
でも私の心には怒りがこみ上げてきた。そして…

内子「もう!冗談じゃないわよ!これ幾らしたと思ってんの!?」

その時私が着ていた服は、
つい昨日買ったばかりのブランド品。

それをたかだか野菜ジュースなどで汚された私は
怒り心頭になり、お婆さんがもう何も言おうがどうしようが関係なく、
さっき持ってあげた荷物を道端に投げ捨て、
そのままお婆さんを置き去りにして
私はとっととその場を立ち去った。

お婆さん「娘さん!娘さん!」

お婆さんはまだ私の背後から謝ってきていたようだが
そんなの全部オール無視。

「アンタなんか助けるんじゃなかったわ!たとえ服だったとしても、この美しい私を汚しやがって!」
そんな気持ちで一杯になり、後ろから呼んでくる
そのお婆さんの声を聞くだけでも憎らしかった。

ト書き〈内子のマンションの部屋でオチ〉

そしてその夜。
私は又いつものように化粧台に向かい、
あの日、瑠子さんから貰った大事な化粧水を
顔にピタピタ丁寧に塗り込んでいた。

していると、突然私の背後に人の気配がし…

瑠子「内子さん。あなた、やっぱり私との約束を破りましたね」

と瑠子さんの低い声がいきなり聞こえたのだ。

内子「きゃあ!!」

私は突然の恐怖の余りつい大声で悲鳴をあげて、
暫くその瑠子さんを見ながら微動だにできない。

ドアも窓も開いてないのに、
いきなりそこに立って居る瑠子さん。
一瞬、彼女が幽霊のように思えた。

内子「あ…あなた…一体どこから…」(怯えながら)

怯えながらも精一杯の声を振り絞ってそう言った時…

瑠子「あなたは取り返しのつかない事をしてしまったんです。今日、あのお婆さんを見捨ててあなたは立ち去った。たかだか野菜ジュースで服を汚されたぐらいで、この世の終わりのような絶望を思い怒り心頭になり、人への親切を蔑ろにし、自分が求める美だけに走っていった。言った筈です。その化粧品を使う時には必ずその1日の内に善行を働き、他人に親切にしてあげるようにと」

瑠子「あなたは自分の内側を磨こうとはせず、外側だけを磨き、中身の無い人間になってしまった。その責任を今から取って貰います…」

話を聞いていながら、私の心は漸く落ち着きを取り戻し始め、
そうして落ち着いてくると次に怒りがこみ上げてきて、
彼女に対し、私は罵声を浴びせた。

内子「あ、あなた、一体何のつもりなんですか!えぇ!?こんな夜遅い時間に勝手に人の部屋に上がり込んできて!あなたがしてる事は泥棒と同じですよ!立派な家宅侵入罪です!警察に今すぐ言ってやろうか!もうイイから出て行け!出て行って下さい!」

本当は少し残り少なくなった手元の化粧水を見て、
彼女をそうして追い散らしてしまえば
次の化粧品が貰えなくなるのでは…?
なんて少し心配したのだが、今はそんなこと言ってる場合でもない。

まぁ適当にまた謝って、彼女との仲を修復した後で
その化粧品を貰えるように仕向けていけば良い…
そんな事も瞬間的に考えていた。

でもやはりここでも彼女は不思議な人。
私の心を見透かしたように言って来る。

瑠子「フフ、そんな心配をする事はありませんよ。あなたはもうこの化粧水を手にする事はありません。だって、この化粧水を塗る所がもう無いんですから…」

そう言って、彼女はフッと消えてしまった。

内子「え…?」

それを見た瞬間「やっぱりあの人は幽霊だ…」と改めて思い知らされ、
私の全身を膨大な恐怖が覆い尽くした。

でもその恐怖は次に、見える形で現れたのだ。

内子「痛(ツ)っ…ツツ…痛(いた)タタタタ…!」

私は急に顔が痛くなり始め、
余りの痛さにその場にうずくまってしまった。

内子「え?え?ど、どうしたの私…」

さっきの恐怖と余りの苦痛に悶えていた時、
ふと顔を触っていた手を見てみると…

内子「え…?な、なに、これ…」

少しきらめいた肌色の何かが付いている。
よく見てみると、それは人間の皮膚。
そう、私の顔の皮膚…

内子「ぎゃ…ぎゃああぁあ!!!」

鏡を見た時、私は自分の悍ましさに気づかされた。
なんと、顔の皮膚が全部はげ落ち、中から筋肉がむき出しになり、
まるでゾンビそのものの顔をしていた。

ト書き〈内子のマンションを見上げながら〉

瑠子「フフ、これでもう内子は家から1歩も外に出る事は出来ないわね。どこへも行けない。美しさを身にまとった女性はとかく家から出て、その美を誰かに見せたがるものだけど、彼女は全くそれとは逆の生活を歩まなければならなくなった。これが内子の内面の本当の姿…その正体だった」

瑠子「私は内子の欲望と本能から生まれた生霊。その欲望から生まれる夢を叶える為だけに現れたけど、その夢を叶える時に1つだけ注意しなきゃならない事、それを教えたが彼女は守らなかった。私の言葉を軽く聞いたのが間違いだったわね」

瑠子「私が彼女に勧めた化粧水『Borrowed Beauty』はその名の通り、借りてきた美しさを顔に付けていただけ。つまりは仮面のような美しさ。人に親切をしてあげると言う事は内面の美を磨くと言う事。それを忘れたら、その仮面は自動的に剥がれ落ちるようになっていたのよ」

瑠子「化粧水ながらその効果は肌の奥深くまで浸透していた。だから貸していたものを返して貰う時、化粧水は、彼女の顔の肌そのものを奪う形になってしまった。彼女の顔の皮膚は2度と再生されない。これからの彼女の生活を思えば、同情どころじゃ済まないようね。美しさをすっかり無くした彼女。これから一体、どうやって過ごして行くのかしら…」

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