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~脆(よわ)り始めた小獣(あり)の群れ達~『夢時代』より冒頭抜粋

~脆(よわ)り始めた小獣(あり)の群れ達~
 行方知れずの〝恋〟の生死に自失しながら、如何(どう)でも好くなる女性(おんな)の燻香(かおり)を上手に取りつつ、俺の躰は夢の柔らにほっそり浮き出た砂地(すなじ)の上へと突っ立っていた。以前に恋した菅野春野(かんのはるの)の人影(かげ)を追いつつ、そうした香女(かじょ)には自己(おのれ)の正味を具体に明かさぬ数多の女像(かげり)が次々重なり、俺の感覚(いしき)を摘み取る振りして、何とも言えない強靭(つよ)い眼(め)を保(も)ち途次へと就き行く。何処(どこ)へ向くのか一層知れない俺の前途は、硝子張りにて周囲(まわり)が見えない夢遊の気色が成り立ち始める。「スラムダンク」の流川楓が、俺と春野の間(あいだ)に呼吸(いき)して静的(せいてき)に在り、俺と春野は彼の吐息を宙(そら)を見上げて上手に感じた。彼女と彼との何時(いつ)でも尽きない臭味を匂わす愚弄が飛び出し、俺の手元を上手く離れた彼女の姿は白壁(かべ)に当てられ白味を増して、流川楓は男性(おとこ)の妙味を巧みに観(み)せつつ幾らか独歩(ある)いた細い両脚(あし)には憎悪を燃やさぬ清(すが)しい活気が具体を報せ、真昼の空気に明るく灯った男性(おとこ)と女性(おんな)のまったり感には、俺の感覚(いしき)がこれまで憶えたやらしい気色が走らない儘、俺と彼とはそれ故交せる嫉妬の暴挙を表す内にて、物理的にも身体的にも容易く失くせる喧嘩をした儘、夢想の砂利には女性(おんな)を立たせる濃い目の楼気(ろうき)が仄(ぼ)んやり在った。
「とったぁ!」
と腰を持ち上げ、宙を土台に狂々(くるくる)廻った春野の心身(からだ)は軟手(やわで)を従え重身(おもみ)を示し、〝どさっ〟と音立て俺の頭へ落下したのはそれでも見知らぬ女性(おんな)であって、子供の体(てい)した娘の記憶は何処(どこ)からともなく〝俺の昔〟をその掌(て)に収めた主(あるじ)の姿勢(すがた)を描いて在って、段々砂地(すなじ)に馴染む女体(からだ)は、耄碌し得ない虚無の微光(ひかり)を発光していた。彼女の躰に蟻が集(たか)った。俺の足場に蟻が集(たか)った。俺の感覚(いしき)はその瞬間(とき)何を観るのか定まらない儘、彼女に彩(と)られる景色を見詰めて彼女を欲しがり、欲しがる「彼女」の柔い躰は俺の心身(からだ)へ進行して行く蟻の手数(てかず)を放出していた。彼女の女体(からだ)は白光(ひかり)を受けつつ彼の元まで遁走して居り、彼女の足場は俺の頭上(うえ)へと浮き立ちながらに、俺へ群れ出す蟻の手数(てかず)は執拗な程に振っても揺れても俺から離れぬ力(ちから)を有して黒々光る。俺は彼女を通した白い上着を横目に見ながら、黒い内にてぴかりと光れる蟻の頭の牙を見た。俺の右手を執拗(しつこ)く這い擦り纏わり離れぬ蟻の強靭(つよ)さを恨む傍ら、如何(どう)にも死なない蟻への恐怖が小さい体(からだ)に隠れ続ける牙に見取れて矢庭に動けず、彼女を目前(まえ)にし動けぬ我には彼を恨める隠れた恐怖が生気を保(も)った。
 立て続けに鳴る可笑しな発音(おと)には夏に聞える風鈴仕立ての細い初音(はつね)がぽんと浮き出てほろりと流行(なが)れ、白い空から綿を崩した白雲(くも)の無形(かたち)が俺の頭上(もと)まで誘われていた。彼女の足場にひそひそ集(たか)れる蟻の群れには青空(そら)が覗かれ、撓(しな)んだ手足は彼女を支えてほっそり浮き立ち、俺の孤独は彼女の足場(もと)から漏れ出す態(てい)して日傘を取った。陽(ひ)から揺れ出す陽炎(ほのお)の牙には白雲(くも)の動きがきらりと灯り、人と人とを不純に囃せる大きな言(ことば)を途々(みちみち)語り、明日(あす)の大河に個人(ひと)を馴らせる愉快な音頭を構築して行く。俺の頭上(もと)からひっそり失(き)え行く無体の輪舞曲(ロンド)は、端(はな)から咲けない空気の匂いに機敏に添いつつ、彼女の柔身(やわみ)を剛身(おとこ)へ懐ける死線を潜(くぐ)れる硬さを以て、俺の身横(みよこ)に流行(なが)れる体(てい)して泳いで来て居た。幻想(ゆめ)に纏わる清閑(しず)かな輪舞曲(ロンド)が西日を承けつつ燃え立ち柔味(やわみ)を知り抜き、大した賭けとも想像されない漆黒(くろ)い大空(そら)にて自明を着飾り、淡い火の粉は東の宙(そら)観てにやりと微笑み、俺の頭上(もと)から暫く離れる漆黒(くろ)い〝お腹〟を愛撫して行く。俺の記憶を優(ゆう)に辿れる俗世(このよ)の歴史は俯瞰され得ず、人の目から観た紺(あお)い夕べが拍車を掛けつつ白い砂礫へ埋れて行くのが、俺の感覚(いしき)と感覚(いしき)に集まる白い蟻との関わり合いには、眩しい程度に幻惑され活き、明日(あす)の足元(もと)から一向発(た)てない白い夕日に発音(おと)を重ねて、何の興味へ跳び付く間も無く、俺から飛び散る生気の労には一つの効果も得られず儘での淡い〝人の歴史の砂塵の曇り〟が、滔々流行(なが)れる瞬間(とき)の狭間で左右に言動(うご)ける気色を見せ付け小躍(おど)って在った。他人(ひと)の労苦は自己(おのれ)の功(こう)へと全ての温味(ぬくみ)を揃えて在って、褒美を得(う)るのは自分だけだと、人を蹴落とす餓鬼の途(みち)へと入没して生く。自己(おのれ)に彩(と)られた輝(ひか)って飛び散る無数の快楽(オルガ)を秘め足る陰から、有限(かぎり)に咲き得る男女の華など、珍し気に生く過去の散花(さんか)を欲して止まずに、ぽたり、ぽたりと、俺が生き得る一つの陰へと立場に彩(と)られた遠近法など総て無視して、手頃に射止めた人の淡味(あわみ)にほっそり寄り付き、明日(あす)を詠めない詩人の態(てい)して孤独を彩(と)りつつ呆(ぼう)っとして在る。白身の魚が孤独を隔てて時間を跳び生き、人から見得ない俗世(このよ)の経過にぽしゃりと飛び立ち飛沫を挙げた。俗世(このよ)の見得ない〝経過〟の頭数(かず)には人が持ち得る嗣業の功など何気無いまま軌跡(あと)を残さず紅(くれない)仕立ての夕日へ跳び退(の)き、やがては行方を清閑(しずか)に晦ます常套(いつも)の手腕(うで)にて満足気に立ち、こちらの悲惨を味気無いほど静観(せいかん)して行く硬い仕草を維持して在るのだ。俺と人との虚ろな空気は数多に生育(そだ)てた生身を着飾り、自然に象(と)られた超微(ミクロ)の個室を体内(からだ)に宿して超音波を識(し)り、明日(あす)にも今日にも過去にも現行(いま)にも決して彩(と)り得ぬ不可思(おかし)な気力を存分次第に露わに組み立て、決行し得ずの不可思(おかし)な独言(こごと)は超微(ミクロ)の明暗(やみ)をも貫く態(てい)にて新たの魅惑を〝孤独〟に着せ得る嗣業の一連(ドラマ)に返り立て得た。
 硝子の表をひょろひょろ這いつつ、俺と人との無言の晴嵐(あらし)を突き出る人影(かげ)には、過去から挙がった生身の上気が暗い屍(かばね)を単人(ひとり)で牛耳り、機械仕掛けの俗世(このよ)の憂慮へ迷走するまま孤独に棄(な)げた。
「勝(と)ったぁ!!」
 彼女の共鳴(こだま)が単独(ひとり)で仕上がり空に解け込み、宙返りをする蜻蛉(とんぼ)の態(てい)して、真逆に損ねる生気の小片(かけら)を過去と現行(いま)として大きく仕分けて糧とした後(のち)、自活に臨める不可思(おかし)な契機はしどろく不膨(ふくら)み、脆(よわ)い利潤(オルガ)を巧みに捉える女帝の人為に突っ伏して居た。孤独を見知らぬ彼女の生気に何らの始動が不可思(おかし)く進んで行李を仕上げ、生気を保(も)たない精神(こころ)が乱れた無知の者まで一気に採り立て自活に用い、狂言仕立ての〝生気〟の止まない未完の仕手には、永久(とわ)に奪(と)れない正義の翳りが潜んで在った。
 俺から離れる柔身(やわみ)を保(も)ちつつ陽(よう)の撓(たわ)みに一心乱して遊歩を重ねた春野の伽藍(すきま)に、現代人から執拗(しつこ)く彩(と)られた長い躰の一男(おとこ)が突っ立ち、ぎょろ目を飛ばして呑気に構えた自分の在り処を俺へと突き出す。暴漢(おとこ)から発(た)つ乗りの行方は行方知れずの〝恋〟にも似て居り果ての識(し)れ得ぬ不動の根拠を人の居場所に具に見立てて自明を証せる許容の仕上げに邁進して活き、取手(とって)の付かない無難の遠慮は他人(ひと)を割かせる白紙を呈させ俺へと乗り出し、彼女と俺とに根拠知れずの無謀を突き立て静観(せいかん)するまま俺と彼女の行方知らずのふとした間柄には、仲裁して行く暴漢(おとこ)の一姿(すがた)が不動を呈して居座っていた。しかし好く好く見遣ればこの暴漢(おとこ)、以前(むかし)に見識(みし)った友の一姿(すがた)と酷似して居り、暴漢(おとこ)に彩(と)られた憐れ成らずの習癖(くせ)の内には、俺から象(と)られた返り発(だ)ち成る暴気(ぼうき)が居座り気性が崩れ、荒れた男の精神(こころ)の底には、何時(いつ)か見取れた友との情(こころ)が仄かに煌(かが)やき頷いてもいる。情緒(こころ)の俄かが夕雨(あめ)を見定め、女と男の嫉妬の晴嵐(あらし)をその日の内にて擁して仕舞える奇妙な演技に逆上せて仕舞い、俺の伽藍(から)から逸脱して生く無謀な賭けには主観(あるじ)が居らずに、徒党を組めない俺の弱味が清閑(しずか)の腰を砕いた儘にて明日(あす)の活路へ自信を発(た)たせる優雅を感じて黙って在った。抜け足差し足、奇妙な文句(ことば)が俺の耳元(もと)へとどよめき騒ぎ、彼女の身元は狂う迄にて虚無の邸(やかた)へ下って行った。白い虚無から〝春野〟が漏れ出し、肉付き程好い拙い共鳴(ひびき)を遊びに行かせる。有名虚無にて疾走(はしり)の止まない俺の身元を薄ら仕上げる露頭の主観(あるじ)は、曇天雲から程好い生気の蹂躙(あしぶみ)を観て自体(おのれ)に寄らせる白雲(くも)の柔さを充分識(し)りつつ悪態さえ吐(つ)き、小言を束ねる夢遊の連呼は彼女の〝共鳴(さけび)〟と程好く相対(むか)い、俺の身元へ暫く集える烏有の硬さを讃美していた。黒髪(かみ)を掻き上げ、日向に堕ち生く、紳士と云われた文士の豪(ごう)から、巧みに仕立てられ行く奇妙な情惰(じょうだ)が何等に向かって共鳴して生く不可思(おかし)な様子を俺の純(すなお)へ真向きに居直り、過去の途(みち)から素直に飛び出て滑稽(おかし)く連呼(さけ)び、「慌てた乞食は貰いが少ない」果実の描写を軽く浮き出し人間(ひと)から削がれて、人間(ひと)の立場へ上手く懐ける自己の要(かなめ)に及第せずまま発狂して行く人間(ひと)の純(すなお)を浮き立たせていた。俺の感覚(いしき)は暴漢(おとこ)の寄り付く島を観てから滑稽(おかし)く燥いだ涼風(かぜ)の態(てい)して循環(とき)へと失(き)え出し、軌跡(あと)から軌跡(あと)へと、自分の生気を発(た)たす儘にて何等の伽藍(もぬけ)に直進するまま夢想(ゆめ)と現行(うつつ)の狭まる気色を一つ瞼(まなこ)に認めて在った。旧い友から野分を呈して仄(ほ)んのり挙がれる白蛇(はくじゃ)を想わす白い軒火(のきび)は、俺から離れた白い温味(ぬるみ)を密かに酔わせた春野の在り処を散策しながら、旧い温味(ぬるみ)に決して詠めない「明日(あす)の連歌」の樞(ひみつ)を識(し)った。俺の身元(もと)から静かに挙がった旧い軒端の〝白蛇(はくじゃ)の焔(ほむら)〟は、宛てなく直ぐさま俺を射止める空気の空間(すきま)へ巧みに這入り、俺の両眼(まなこ)に決して観得ない円らの模写(うつし)を漏れ立たせていた。〝白い壁〟から仄かに挙がれる気色が見得る。
 俺の生写(すがた)は俗世(このよ)を離れる手腕(うで)の元から小さく成り立つ幼女(かのじょ)の一姿(すがた)を巧みな言にてここぞと記(き)し取り、厚味を成せない宙(そら)の文句と同調しながら、決して還れぬ俗世(このよ)の以前(むかし)へ許容を失くして飛び立っていた。〝春野〟の名前も暴漢(おとこ)の気配へ巧く紛れて厚味を成せ得ぬ遠い純(すなお)に自分を着飾り自粛した儘、古巣へ還れる両親(おや)の行方を清閑(しずか)な夢見て追い駆け始める拙い遊戯を演奏している。暴漢(おとこ)の一姿(すがた)も宙(そら)から騒げる無体の文句(ことば)を口にした儘、彼女の柔身(やわみ)と温(ぬく)みを追い駆け、通りに咲けない竜胆(はな)の体(てい)して根こそぎ足場(どだい)を失くして行った。弓折り数えた光眩(こうげん)の果て、俺の背中は真白(ましろ)く冷め行く〝彼女〟の気配へ追随して行き、〝古巣〟の在り処が何処(どこ)に居るのか、さっぱり識(し)らずの空気(もぬけ)の体(てい)へと堕とされ始めた。〝彼女〟の身元を好く好く識(し)らない友の薄手(うすで)は空気(くうき)を遮り自活を発し、俺の前方(まえ)から〝加減〟を減らせる曇った両眼(まなこ)を順々温(あたた)め、現行(これ)から呟く生身の識(し)らない仄かな文句(ことば)を、暗(やみ)に投げては暗算して行く自己(おのれ)の様子を垣間見て居た。漆黒(くろ)く惹かれる俺の純心(こころ)は懊悩(なやみ)を識(し)り採り、「明日(あす)」の咲かない無鈍(むどん)の器へ低く掲げる上肢(からだ)を投げ入れ、昨日から成る〝慌てる乞食〟の一改悛など、〝如何(どう)とも巡り〟の初春(はる)の陽気に自体(おのれ)を観た儘、白い蛇(あくま)に凝(こご)りを溶(い)れ得ぬ闇の積量(シグマ)を〝永遠〟にした。永久(とわ)に咲き得る個人(ひと)の活気は〝勝気〟を識(し)るまま競争して活き、眠れぬ終(つい)の〝晴嵐(あらし)〟を俗世(このよ)に観たまま渇水させられ、自然を透した軟い教習(ドグマ)も、俗世(このよ)を離れる強靭(つよ)い内輪(うちわ)へ潜って行った。漆黒(くろ)い泡(あわ)には人間(ひと)の活気が当然咲かない俗世(このよ)の〝通り〟を逆さに観る内、裏手通りと表通りの境界(さかい)を認めず悶々して生き、奇麗に忘れた阿弥陀被りの〝帽子のお道化(ばけ)〟をここぞとばかりに中傷した儘、俺の目下(ふもと)にさんざに堕ち得た人間(ひと)の快夢(オルガ)へ追従(ついしょう)している。〝笑い〟の少ない俺の終生(すみか)を蛙が跳ね行き長閑に囀り、女性(おんな)が掌(て)にした男性(おとこ)目当ての玉手箱には、白蛇(はくじゃ)の毒さえ一切効かない〝笑い〟の迷路が遍く満ち果て、〝俗世の女性(おんな)〟と姿態(うつり)を沿わせる強靭(つよ)い吐息を幻想(ゆめ)に想った。足元(もと)から崩れる酒宴(うたげ)の肴は俺の目前(まえ)から友の前方(まえ)から永久(とわ)に薄れる脆味(もろみ)を知り抜き逆光(ひかり)を片手に、死太く這わせる恋の宴は人間(ひと)の躰を熱くしたまま見得ない小山(やま)へと還って入(い)った。だれにも知られぬ〝恋の山〟には人間(ひと)の単身(ひとり)が〝木霊〟を切り抜き我執を棄て去り、男女の契りを非道(ひど)く結べる女人(にょにん)の口笛(あいず)を照輝(てか)らせていた。心を読めない可笑しな辛苦が俺の足元(もと)からほっそり浮き立ち、過去を知らずに未来も知らない欲の実りを期待して生く円らな人見(ひとみ)が、両親(おや)の元から離れたがった。
 俺の躰は幻想(ゆめ)から夢想(ゆめ)へと渡って行く途(みち)、何にも知れない小さな囲炉裏を目敏く見付け、宙(そら)の麓を自分へ当て付け、ゆっくり、ゆっくり、大きく拡がる艱難辛苦を両手にぶら下げ、筆跡問わずの小児(こども)の宴が微かに鳴るのを気付いて在った。俺の心身(からだ)は幻想(ゆめ)から夢想(ゆめ)へと終生(すみか)を替えつつ頃には〝小さな囲炉裏〟が見る見る大きく、取手付かずの百貨店へと成長するのが、端(はた)から見ていた傍人(ひと)の目を借り、具に見取れて不思議に会った。百貨店には黄色く光った人の輪が出来、旧友(とも)と彼女が〝我先限り〟に奔走して居り、何を急いで走って居るのか、不思議に見取れて覗いて見ると、如何(どう)やら彼等は俺の識(し)らない経過の隅にてマラソン仕立ての長距離走など誰かに云われて遣っているのか延長して行く通路で独走して居り、ふらふら独歩(ある)いた小さな躰はデパート内にて矢庭に大きく成長して生き、俺から見得ない虚空の空間(すきま)に逆毛(さかげ)を靡かせ吸い込まれていて、彼女の肢体(からだ)は春野の幻想(ゆめ)からふわりと落ち行く架空を発(た)たせて同化して活き、俺に対した春野の身重は俺の頭上(うえ)から地中へ這い行く蛇の硬さを気取って在った。春野の心身(からだ)が宙(そら)で燃え尽き、くらくらしらしら、脆火(よわび)に咲けない人間(ひと)の人火(じんか)を欲した折りから、俺の両眼(まなこ)は女性(おんな)だけ観る特殊な装置へ化(か)わって行って、春野の肢体(からだ)を一々惜しめる無欲の火花を散らせて行けた。段々静まる〝独歩の競い〟は俺の感覚(いしき)を隅へと追い遣り、男性(おとこ)と女性(おんな)の樞(ひみつ)の内から最終(ラスト)の気色を巧く紐解き俺へと投げ掛け俺の感覚(いしき)が男女の幅から区別を失くして成就する迄、一向止まない春野の共鳴(さけび)は俺の身横(となり)で姿勢(すがた)を消した。過去から挙がれる蟻の強靭(つよ)さに味を識(し)らない俺の糧には誰にも寄れずの小さな社(やしろ)が陰から突き出て静かにおっ立ち、〝彼女〟を呈する小さな小児(こども)は小首を曲げつつ白砂を奏でて自信を伝え、白い景色はデパート内でも硬く溶けない夢想(ゆめ)の轆轤を廻してあった。白砂の溶け入(い)る病弱(よわ)い躰は女性(おんな)を着飾り時計を失くし、〝始め〟も無ければ〝終り〟も無いまま見事に吸い付く〝尻切れ蜻蛉〟を、予期の淡目(あわめ)にずるりと引き立て、正義と称する幻想(ゆめ)の行方を男女から奪(と)る俺の表明(あかり)を現してもいた。俺から挙がれる脆(よわ)い強靭(つよ)さは蟻の強靭味(つよみ)を排して得意で在りつつ、得意がるのは説教して居る幻想(ゆめ)の主観(あるじ)が〝白さ〟に敗(ま)け得ぬ空(から)の楼気(ろうき)を見事に打ち立て念じたからにて、男児(おとこ)の幼稚は飴を頬張る泡(あぶく)を識(し)るうち仄(ぼ)んやりして来た。俺の目下(もと)には〝俺の為に…!〟と小さく呟き集(つど)った空(から)から小さく鳴り得た〝巨大〟を称する烏有病者が屍(かばね)を拾って内実(なかみ)を投げ捨て、漆黒(くろ)さに乗じて留(とど)められ得る真昼の温(ぬく)みは彼女に適して早退する儘、「明日(あした)」へ咲け得る孤独を配して俺へと発(た)った。俺の感覚(いしき)と夢想(ゆめ)の〝口笛(あいず)〟は女児(おんな)を識(し)りつつ無防備と成り、外的刺激に功を成せない軟い細身を浮き出る途次にて玉砕させ活き、彼女の延命(いのち)を放れる端(はな)にて、幻想(ゆめ)を見ながら後悔して行く夢路に嫌われ、意識に駆られる蟻の恐怖に、昨日も知らない明日(あす)を知らない無駄に憶えた知識の辺りに鼻をくっ付け稚拙に伝わり、伝い独歩(ある)きはとんと向かない柔手(やわで)を取りつつ彼女に伏した。彼女から出る蟻の群れには人が咲いても後光の咲けない俗世(このよ)の文句(ことば)が熾烈を極めて、以前(むかし)に憶えた弱者の人見(ひとみ)を何かに蔑み〝哀れ〟と呼んで、蟻の内実(なかみ)へ降伏して行く憐れな身覚(みかく)を演出して居た。
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