【和訳】ファレル × リック・ルービン、音楽界の賢人対談!(1/2)
読みたいものを記事にする。ファレルとリック・ルービンの偉大な音楽プロデューサー2人の対談は、まさしく僕にとって「とても読みたいもの」だったので、翻訳して記事にしてみました。
Def Jamの創設者としてヒップホップの黎明期を築き上げ、あまりに多岐にわたるジャンルで歴史的名盤をプロデュースし続ける伝説の男、リック・ルービン(Rick Rubin)。
90年代後半〜00年代のヒットチャートを独占したプロデューサーデュオ「The Neptunes」の1人にして、世界的メガヒットを放ってきたソロアーティスト、「N.E.R.D」のフロントマン、数々の事業を手がけるビジネスオーナー、そしてルイ・ヴィトンのクリエイティブディレクター。究極のマルチクリエイターであるファレル(Pharrell Williams)。
ともに音楽業界の巨人であるとともに、高い精神性と確固として明確な哲学を持つふたりによる対談です。
音楽と感覚を結ぶ科学の体系のようなもの、それを理解したいんだ。
⸻リック・ルービン(以下:RR)まず、ちょっと深呼吸しようか。(深呼吸して)この場にいられることに感謝。
ファレル(以下:P)すごくね。
⸻RR:最近何かエキサイティングな曲は耳にした?
P:ここ最近ではいくつかの曲が耳を引いたけど、大部分はまあまあ、って感じ。興味をそそられるものが聴きたいんだよね。
⸻RR:君にとって「興味をそそられる」ってどういう感じ?
P:俺にとって「興味をそそられる」っていうのは、まずこの瞬間自体がそう。いま君とこれをやってること、これが興味深い。
でも音楽的には、俺は「これは9/8拍子だ!」みたいなことを言うタイプじゃない。それってただの数学みたいに感じるんだよね。
俺が本当に感動するのは、今まで感じたことのない感情を呼び起こすコード進行だよ。俺にとってコードは、座標みたいなものだね。コードが俺たちをある場所に連れて行ってくれるんだ。
そして、俺が運よく「正しいエレベーター」に乗ってるとき、俺は3つのことを同時にやってるんだよ。「何これ?」って思う感覚が1つ目。それから、その感覚を覚えようとするのが2つ目。というのも、後でそれを追いかけるとき、その感覚から逆算しないとコード進行を見つけられないからさ。
で3つ目は、その場でShazamを使って曲名を確認すること。Shazamって本当に素晴らしいよね。Shazamは宝物だよ。ゲームチェンジャーで革命的だ。
⸻RR:で、曲がわかったらどうするんだい?
P:その曲を何度も何度も聴いて、自分が何を感じているのか、そしてなぜそう感じるのかを克明に理解したいと思うんだ。だって、演奏されている音と自分が耳にして味わってるものの間には、まるで音楽と感覚を結ぶ科学の学問体系のようなものが存在しているんだから。
⸻RR:つまり、自分自身を音楽と同じくらい分析するってこと?
P:そうだね。だってそうしないと、実際に何が起きているのかをちゃんと評価できないと思うんだよ。分かるだろ。もし何かを聴いていて、そのとき自分がどう感じているのかに注意を払っていなかったら、それって自分が何を聴いているのか分かってないってことなんだ。
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(加筆)音楽が持つ直感的で感情的な力と、それを分析し再構築しようとするファレルの創作プロセスを解説している。
このプロセスは、音楽に心を動かされたことを単なるリスニングや偶然の出逢いで済まさず、自らの感動を分析し、それを起こした楽曲の構造を理解し、再現しようとするクリエイティブな行動を反映する。
1.「これは何だ?」をキャッチする:耳にした音楽や響きが、彼にとって全く新しいものであり、その魅力に心を奪われる⸻「これは何だ?」という心の波立とその自覚が、探索の始まり。
2.その感覚を記憶しようとする:感動の「瞬間の感覚」を頭に刻み込む。これは、後でその体験を再現し、解き明かすために必要な手がかりを得る行為。ファレルが言う「感覚を逆算する」というのは、感じた感動を起点にして、その感情を引き起こしたコード進行や音楽的構造を突き止めるプロセスを指す。
3.その音楽を特定する試み:ここで、Shazamを活用して、その曲や音源を特定。これは単なる記録以上の意味を持ち、その音楽体験を後で深く探求するための基盤を築く行為となる。
※※※
P:それが俺の「理解するためのGPS」なんだ。それが俺の物事の処理の仕方であり、感じ方なんだよ。すべてが感情によって整理され、分類されている。もし自分がそれについてどう感じているのか分からなければ、それが何なのかさえ本当に理解できない。それは単なる音になってしまう。
音楽の用語から離れて説明すると、たとえば複数人が座ってテーブルで会話している状況を想像してみてほしい。誰かと会話していて、ふと気づくと自分は考えごとにふけっていて、その人はまだ話し続けている。その声は聞こえるけど、もはや何を言っているのか頭に入ってこない。その会話に繋がっていない、つまり「プラグが抜けている」状態になっているんだ。ただの声のトーンとして聞こえるだけなんだよ。
それと同じことで、俺が曲と感情で繋がっていないと、それがどんな曲なのか本当に理解することはできないんだ。説明することもできないよ。
⸻RR:他のアーティストと一緒に音楽を作るとき、常にそのアーティストのために作業している?それとも、まず自分の好きな音楽を作ってからコラボ相手にその音楽を適合させるの?
P:俺はいつも他の人を通じて何かを「チャネリング」(目に見えないものと繋がり、インスピレーションを得る)している。たいていは一緒に作業している人を通してね。でも時々、彼らが他の誰かをチャネリングすべきだと思うことがある。だから僕が代わりにそれをやるんだ。彼らはそれが自分に合うとは思っていないかもしれないけどね。
60%の確率で彼らはやらないけど、40%の確率で信じて試してくれる。そしてその60%の中のケースでは、別の誰かがそれを完璧に理解して使ってくれることがあるんだ。
⸻RR:なるほど。
P:これが宇宙の仕組みだよね。いろんな引き金があって、その結果が必ずしも自分が想像していた通りになるとは限らない。でもそれが「定められていたこと」なんだ。
プロデューサーとして最高の自分であるため、アーティストにとって『鏡』のような存在になりたい。
⸻RR:もしアーティストと一緒に仕事をしていて、意見の食い違いが起きたらどうする?
P:俺はよくスタジオにいるとき、自分の「エゴの帽子」を脱ぐようにしてる。こういうことが起こるんだ。一般的に、人は自分が憧れている人や偶像視している相手に敬意を払うものだと考えられがちだよね。確かにそういうことも時々あるけど、俺が気づいたのは、それ以上に人が深い敬意を払うのは、自分との新しい関係性の中で「この人が主導権を握っている」と感じる相手だということ。スタジオ内に新たに築かれた関係性の中で、いわば「アルファ」だと感じる存在に対して、より本質的な敬意が生まれる。
多くのプロデューサーって、自分が「アルファ」だって思い込んでるんだ。「俺が売ったレコードの数を見ろよ」みたいにね。でも実際のところ、俺たちは何も売っていないんだよ。俺たちはただ音楽を作っただけで、それを聴いてストリーミングしてシェアして買ってくれた人たちが成功をもたらしてくれたんだ。俺たちだけが成功を担ったわけじゃない。何百万人もの人々がそれに関わっているんだ。
でもそんな偉そうな態度を取ると、アーティストは「あの人と一緒にスタジオにいるなんて夢みたいだ!」って態度から、「仕切ってるのは主役の俺だ」っていう態度に変わることがある。
で、君が言っているような微妙な意見の食い違いが起きたとき、その時こそ俺はエゴを放棄する。そしてこう言うんだ。「たぶん、こうやってみるべきだと思うよ」。
「もし君がそれをやったら、たぶん君が今までやってきたことと同じような結果になるだろう。でも俺の仕事は、君を刺激して、押して、引っ張って、君が普段行かないような場所に連れて行くことなんだ。そうすることで違う結果が得られるから。」って。
同じことを続けていたら、確かに上手に要領よくやれるようになるだろうけど、それだけになってしまう。分かるよね?だからその時点で彼らは僕を信頼しないといけない。それはとても微妙な信頼なんだ。
例えば、誰かに「君、寝てる間にイビキかいてるよ」って言われるようなものさ。君は自分でそれに気づかない。自分でイビキで目を覚ますタイプでもないし、特定の時間帯だけイビキかいてるのかもしれない。分からないだろ?そういう些細なことに気づくには、誰かが自分では見えない部分を見てくれているという信頼が必要なんだよね。
他の例を挙げると、普段から俺たちは自分の声をずっと聞いているわけだけど、留守番電話で自分の声を聞いたら全然違うふうに聞こえる、っていうのも同じだよね。で、大抵の場合、自分の声を嫌だと思う。でも、他の人はその声をいつも聞いているわけで、彼らにとっては普通の声なわけ。
⸻RR:それが嫌なんだよね。笑
P:僕たちは、頭蓋骨のなかの空洞を(反響しながら)通ってくる自分の声を聞いている。だから録音された声との違いが気になるんよね。話を戻すと、そういった微妙な違いに気づかない人たちは、それを「そこまで重要じゃない」と見なして、あまり気にせずスルーしてしまう。でも、もし自分では気づけないその違いに気づける誰かがそばにいて、しかもその人を信頼できるなら⸻その人が自分に見えないものを見てくれて、自分に聞こえないものを聞いてくれて、自分では感じ取れないものを感じ取ってくれるんだと分かっているなら⸻そういった信頼関係があることで、そこで初めて何か新しいものを生み出すための土台やきっかけが生まれるんだ。
⸻RR:それって、どれくらいの頻度で起こるの?ほとんどのプロジェクトで起きるのか、それともたまにしか起きないこと?
P:毎回ケンドリック(・ラマー)と一緒にスタジオに入るたび、彼は変容している。でも、彼自身その変容を自己理解しているんだ。次の世代を担うものとして自己変革(進化)を続けないとってビジョンを超明確に持ってる。アリアナ(・グランデ)も俺の感覚を信頼してくれた。
JAY-Zも分かって委ねてくれるね。彼は最初期から理解してくれてた。ジェイって、80年代からずっとレコードを作り続けているけれど、それって本当に稀なことだよね。
⸻RR:ジェイと最初に作ったレコードは何?
P:たくさん一緒に作ったなぁ…最初の曲は確か「I Just Wanna Love U (Give It 2 Me)」だったかな。
⸻RR:まだ一緒に仕事をしたことのないアーティストと初めてスタジオに入るとき、典型的な初日ってどんな感じ?それとも初日に典型的な形なんてないのかな?
R:そのアーティストがスタジオに来て話す内容からすべては始まるかな。彼らがその場で話していることそのものが、今の彼らのリアルな体験を反映していて、そこから彼らが相対している現状を読み取る。つまり、彼らがその瞬間に実際に経験していることがベースになるんだ。それを基にして、普段とは違う方法で彼らの声を活かすチャンスを見つけるんだ。彼らの普段の表現とまったく異なるスタイルを並立させる形で、新しい一面を引き出すんだよ。
例えば、アーティストの声がサテンのような質感なら、それが花崗岩と組み合わさったらどうなるか?あるいは綿と組み合わさったらどうなるか。もし彼らの声がダイヤモンドのような特徴を持っているなら、それがゼリーに落とされたらどんな響きになるのか?そんな風に感覚をミックスしていくんだ。
⸻RR:プロジェクトを始めるとき、事前に何かアイデアや構想を用意していくの?もしくは真っ白からスタート?
P:大抵2~3つのアイデアを持ち込むことが多いね。これらのアイデアはコンセプトだったり、トラックそのものだったり。
ただし、トラックを作る時点でその完成形を必ずしも考えるわけではないね。単に制作の流れで生まれることもある。というのも、俺は常にチャネルする感覚で作っていて。他の誰かになったつもりで音楽を生み出すことが多いんだ。
プロデューサーとして最高の自分であるためには、俺はアーティストにとって『鏡』のような存在になりたいと考えているよ。
つまり、彼ら自身でも普段は気づかない一面を映し出す役割。たとえば、誰かがいつも同じ角度でセルフィーを撮っているような場合に、『神様は顔のもう片方の側面も作ったんだよ、それも試してみたらどうだい?』なんて提案するような感じだね。
⸻RR:いまちょっと、子どもの頃に聴いていたアーティストを挙げてもらえる?
P:(少し考えて)スティーヴィー・ワンダーかな。
⸻RR:OK。そしたら、彼のアルバムをプロデュースするとしたら、直感的にどんなアルバムを作りたいと思う?
P:うーん、難しい質問だね。スティーヴィーはすでに多くのジャンルを網羅してて、彼のレゲエもディスコもバラードも驚くほど素晴らしくて、バート・バカラック絡みのボサノバ調の曲もすごかった。…別のアーティストを例にしようかな。
⸻RR:OK。
P:つなるところ、俺はエキレクティック(eclectic:さまざまな事象から良い要素を集めたような多様性を持つ)な人たちが好きなんだと思うんだ。例えば、Earth, Wind & Fireの名前を挙げたいんだけど、彼らも本当にいろんなことをやってきたからね。
⸻RR:エキレクティックじゃないグループも好きかな。ラモーンズとか。彼らにはあのままでいてほしい。笑
P:そうだね。彼らといえばあのスタイル、を確立してるからね。
⸻RR:でも大体の場合、僕はアーティストの進化や成長を見るのが好きなんだ。
P:例えば、プリンスとか。
⸻RR:おお、いい例が出てきたね。もし君がプロデュースするプリンスのプロジェクトをやるとしたら、どんな新しいものが生まれると思う?
P:プリンスのアフロキューバンとかやってみたら面白いかも。
⸻RR:それはヤバいね。まさしく新しい何かになりそうだ。スティーヴィーやプリンス以外だと、子供の頃によく聴いていた音楽は何?
P:Earth, Wind & Fire、ジェームス・ブラウンかな。
⸻RR:家庭には音楽があふれてた?
P:うん、いつも音楽が流れてたね。
⸻RR:兄弟姉妹はいる?
P:うん。音楽は俺たちの環境の一部だったよ。それは家庭の環境の中に自然に溶け込んでいて、教会に通うのもその一部だったね。車に乗って音楽を聴いたり、家で音楽を聴いたり、教会で聴いたり、常に音楽がそこにあったよ。
⸻RR:バージニアで育ったんだよね?
P:そうだね。
⸻RR:車の中ではどんな音楽を聴いてた?聴いてたラジオ局は?
P:FMだとK-94、AMだとAM850だね。Rick Jamesの「Give It To Me」、「Thriller」、「Another One Bites The Dust」、チャック・ブラウンの「Bustin’ Loose」とか、本当に幅広いジャンルを聴いてたよ。
⸻RR:Go-Go(ゴーゴー)はバージニアまで届いてた?
R:もちろん!Go-Goはバージニアの第二のサウンドと言ってもいいくらい。本当にすごかったな。
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(註)ワシントン・ゴーゴー:ワシントンDCから発祥したストリートミュージック。ヒップホップが一般的に認知されはじめた時期、英国の大手レコード会社Islandのクリス・ブラックウェルが「ネクスト・ヒップホップ」的に仕掛けたムーヴメント。Islandは、ボブ・マーリィとレゲエの世界的ムーヴメントの仕掛人でもあり、ゴーゴーも勝算ありと踏んだものの、ヒップホップを凌駕すること叶わず衰退した。
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⸻RR:Go-Goのイベントに行ったことはある?
P:ああ!オンリーワンの雰囲気だったね。全くの別世界。面白いことに、DCを北に超えてニューヨークまで行くと、Go-Goを全く知らない人もいるんだよ。でも、南に行くと、デラウェアやメリーランドでは少し浸透してるけど、まぁそこまででもない。でもバージニアでは大きく広まってて、さらに南のカロライナ州でも大きな影響力を持ってるんだ。世の中って面白いよね。
⸻RR:初めてGo-Goを聴いた時は衝撃を受けたよ。本当にヒップホップの次の波のように感じたね。それほどの衝撃があった。
P:君はそのサウンドを取り入れた曲も作ったよね?「Rock the Bells」だ。
⸻RR:そうだね。
P:(「Rock the Bells」に衝撃を受けた記憶を反芻しながら、黙って微笑んでいる)
⸻RR:最近あまり聴いてないけど…今でも良い作品であってほしいね(謙遜の笑み)。
P:「Rock the Bells」を初めて聴いたときのことは一生忘れない。あの時、バージニア州ノーフォークの従兄弟の家にいたんだ。俺には「フィフィ」っていう名前の従兄弟がいて、週末になると両親がその家にカードゲームをしに行ってたんだ。両親はスぺードをやってたけど、俺はルールが分からなくて参加できなかった。
そんなときに「Rock the Bells」を耳にして、「こりゃ、一体全体なんなんだよ?!」って感じだったね。俺たちはGo-Goが大好きだったから、『ニューヨークのやつらがこんなGo-Goっぽいサウンドをやってるのか!』って衝撃だった。そしてLLはめちゃくちゃクールで、でっかいチェーンをつけてた。あの音楽が俺らに与えた影響は計り知れない。バージニアにいた俺らの感覚や視点を変え、踊らせて、テレビに駆け寄って『Yo! MTV Raps』で少しでも何か情報を得ようとさせた。スラング一つとかでもね。あのレコードは本当に特別だった。
⸻RR:当時ラップミュージックを聴くのは大変だったよね?
P:本当そう。ラップミュージックはアンダーグラウンド中のアンダーグラウンドだった。すごく小さなサブカルチャー。でもとてつもなく大きな存在感があった。抑え込もうとする動きもあったけど、白人の子たちがそれを大好きになりすぎて、もう抑えられなかったんだ。人種の話をしたいわけじゃないけど、そこが転換点だったと思う。
⸻RR:それでラップミュージックがさらに広まったんだね。
P:そうだね。俺たちはこの音楽に対する愛をずっと公言してきたし、君たちはそれを作り続けてきた。誰もそれを抑え込むことはできなかった。それは大きすぎて、強すぎて、美しすぎたから。それが人々を感動させたんだ。
⸻RR:抑え込まれたのってなんでだろうね?
P:俺の私見だと、理解されてなかったんだと思う。出どころ不明の得体の知れないものっていうのは、それを支援する必要性も分からない。けれど、ある時点で「これでお金が稼げる」と気づいた人たちが出てきて、そこから文化が変わってしまった。正直なところ、それって悪い変化だったと思うよ。
⸻RR:どう変わったと思う?
P:初期にラップをやっていた人たちは、純粋にそれが大好きだったんだ。だってそれ以外にメリットがなかったから。ただ「これって最高だ」という感覚だけでやってた。でも、利益が出ると判明した瞬間、文化が少し変わってしまったんだ。
時代を変えた名曲たち
⸻RR:ヒップホップとの最初の出会いは何だった?
P:クラフトワークの音楽だね。
⸻RR:へぇ!それは意外だね。でも確かに僕も同じかもなぁ…今は思いつきもしなかったけど!
P:クラフトワークの曲を聴いて、「これは何だ?」って感じだったよ。それと、もう一つバージニアで大きな影響を与えたのが、ストレイフの『Set It Off』だった。
⸻RR:うん、とんでもない名曲だ。歴史に残る名曲のひとつだね。
P:(とんでもない名曲を聴いたときの反応はこんな、とばかり口を大きく開いて感嘆の表情を浮かべる)
⸻RR:クラブでこの曲がかかると、みんな正気を失うほど盛り上がった。本当に名曲だ。考えてみれば曲自体はシンプルなんだけど、それがまた素晴らしいんだよね。
P:信じらんない曲だよね…。「Set It Off」を形作る音、すべての音が素晴らしい。あの曲の普遍的な名曲としてのあり方、それが『Grindin’』(Clipse)を制作したときに超えようとしたものなんだ。
(リリース当時に一世を風靡した、という共通点を持つ名曲)「It's All About the Benjamins」は俺たちをスタジオに向かわせてくれた曲で、「これを超えなきゃ」と鼓舞してくれる。でも「Set It Off」は…リリース後8年間ちょっとくらいヒットし続けたよね。
⸻RR:だね、間違いない。今でもクラブに行けば流れるし、リリース当時と同じくらい盛り上がる。
P:たった一発のスネア(スネアドラム)から曲は始まる。(白目を剥いて、その一発でヤラれるという表情を浮かべる)
子供の頃、外に出ると、誰かが車で大音量で『Set It Off』を流してて、その音が街中に響き渡っていたことがあって。外に出ると、ドラッグディーラーの誰かが全開でサウンドシステムを鳴らしている。彼らは集まってジョイントを吸いながら曲を聴いているんだ。それを見て、「わお、彼らって巨人みたいだ」って思ったもんさ。まさにそう見えてたんだよね。彼らは現実離れした存在だった。外に出るたびに、ゴールドチェーンだったり、豪華な何かが溢れていて、音楽が鳴ってる。まるでミュージックビデオみたいだったな。
少なくとも、俺はそう感じたよ。外に出るたびに「俺たちって、本当に負け犬だな」って思ってたんだ。笑
それで、「今日は何する?よし負けに出かけよう」みたいな気分で過ごしてた。外に出ると、すごい美女たちがいて、大きなフープピアスをつけて、タイトなショーツを履いて、抜群のスタイルでドラッグディーラーたちと話しているんだ。ディーラーたちはゴールドチェーンを見せびらかして、ジョイントを回しながら「Set It Off」を流してる。まるで映画のワンシーンのようだったよ。
それに並ぶようなロングランヒットの名曲として、「White Lines」も同じくらい愛される曲だと思う。本当にすごいのは、「Planet Rock」、「Numbers」、「Set It Off」、「White Lines」、そして「The Message」みたいな曲を、どうやってあのレベルで作り上げたのかってこと。
それについて考えると、こういう問いが湧いてくる。「Grandmaster FlashやMelle Melが『The Message』を作ったとき、彼らはどんな気持ちだったんだろう?」って。
⸻RR:同じくらい素晴らしい曲として「Scorpio」も挙げてもいいんじゃないかなと思う。
P:(目を見開いて大きく頷く)Scorpioね!
⸻RR:そういえば、僕がDJをしてたときはいつもScorpioをかけてたな。
P:(Scorpioをサンプリングネタに)エル(LL Cool J)と一緒に曲作ってたっけ?
⸻RR:いや。「Jingling Baby」のこと?あれは僕が関わった後の作品だね。
P:そっか、「Jingling Baby」はScorpioをサンプルに使ってるから。
⸻RR:そうだったんだ、全然知らなかった。
P:あの曲は本当に素晴らしい作品だった。
Bap bap bap bap bap bap bap bap bap bap bap bap bap bap bap!(「Jingling Baby」にサンプリングされたScorpioのフレーズを口ずさむ)...なんてクールなんだろ。
あの頃の音楽って、今とは違う種類のエキレクティックさがあったよね。
⸻RR:なんでそうだったんだろうね?
P:テクノロジーがちょうどその時代の進化の段階にあったからだと思う。あと、楽器演奏がまだ非常に重要な要素だったことも大きいかな。
今の時代のプログラミング(DAWをベースとした楽曲制作)には、予測可能な「デフォルトモード」が多く含まれている。だから、以前ほど「自分で弾く」必要がなくなったんだ。これは、演奏が得意な人にも、あまり上手じゃないけどアイデアが豊富な人にも適しているんだよ。
マシーン(制作機材)は、予測して到達できる実験的な余地を多く担っているわけだけど、人には機械にない特別なもの、直感力がある。直感と予測はまったく別のものだよね。
例えばマシーンは「あなたが好みそうな変化」や「試してみたいと思うかもしれないこと」の予測を大量に提供して、非常に興味深い提案をしてくれることも多々ある。でも、それはあくまで予測にすぎず、さまざまなバリエーションに基づいたものに過ぎないんだ。
一方で直感は、「いや、なんか全く別方向に進んでみよう」と言うようなものさ。
⸻RR:君自身どのくらいテクノロジーに頼ってる?たとえば、特定の楽器やテクノロジーにこだわりがある?
P:今のところ、俺自身はかなり柔軟だと思うね。ただただ、オープンな姿勢でいるんだ。今のやり方は気に入ってるけど、新しい方法にも柔軟に対応したいと思っているよ。
⸻RR:音楽を作り始めた当初は、ヒップホップファンみたいな感じだったわけだよね。じゃあ、世に出したかどうかは関係なく、君が最初に作ったものって何だった?自分で音楽を作り始めたとき、最初の試みはどんなものだったんだい?
P:チャドと僕。2人で作ってた。まだ彼の名前は出してなかったけど、君が俺個人についてのプロセスについて多く質問してくれたからだね。でも、俺のキャリアの大部分はチャドと一緒にやってきた。