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比喩の染み込みが遅い女(300文字)

 「おまえもおまえの一等星でも探せよ」
 浮気した挙句男は捨て台詞を吐いたのだが、女には状況からそこだけ浮き上がって聞こえる。次の日から連絡が途絶えた。あれは置き土産なのだ何か示唆的な台詞だろうそのままの意味にとりオペラグラスとひとりで持ち運びできる最大の天体望遠鏡を揃え、夜な夜な星空にわたしの一等星を探し十月とつきが過ぎて夏の夜。オペラグラスの視野をゲンジボタルが横切る。その飛行は弱々しく命消え入る間際のようなのである。突如として腑に落ちる。嗚呼あれは比喩だったのだ。
 次の日、オペラグラスと天体望遠鏡を売り払ったのち三つ、習い事の教室に通うようになった。

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