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短命種に纏わる作り話

 短命種に纏わる作り話


 宇宙船カルナック2号さんでの知的生命体同士のある記憶の回顧と会話

 「いいえ、そんな星間旅行の古く遠い記憶から呼び起こしている訳ではありません。ええ、あの銀河の辺境の蠱惑的な生態系が極めて美しい星、その生息する住人ときたら、信念体系がこしらえた偶像が全てのことの免罪をまこと都合のよいように行ってくれる、我の影響の及ぶ範囲をお構いなしに際限なく拡張することは生物種としての第一原理にかなっている、地上の全ての資源は是自国の未来永劫の安定の為に、このような思考形式なのでございます。
 もっともらしいそのような利便大義にもより誘発され、低次自己保存本能に埋め込まれている相互破壊作用の衝動に幾たびか駆られその度文明は終焉を迎え、星の集合的霊性は周期的に破壊されて進化発展しのぼり来るに至ったそのきざはしを下り転げ落ちる、そんな過程を幾千万年も辿っていたのです。
 そうして生を重ねて創造、星々をつくりたもうた存在と遠い未来に親しく交わるものとしてあいまみえる栄光に浴する人間種その惑星に於いての文明が、私の地球引力圏滞在中にその輪を閉じたのでございます」

 故郷に於いて子供の頃から見知っている、まことその木陰のもとに身体を預け寄り添える旧友との会話を宇宙船内で楽しむにおいて知らず知らずに時間は経過し、私は活動を小休止し睡眠をとる欲求、それに従うことにし、その中途において「夢」を見ることになった。
 おおきな括りに於いての人間種として進化の階段をある段階まで踏破することに至った自身にとって、「睡眠中の小規模な物語」に相対するということは幾つかの高次からの啓示的示唆及び通達事象を除けば、極めて起こりにくい原初の野蛮ともいえる体験であったのだが、思いもよらず赫灼として存在していた現象、「夢」の概景を述べることが目の前に打ち解け座す友の為にもなされるのが自然であろうことが全存在を持って予感された。

それはこのようなものだった。

 
 夢についての記述


 地球で長寿を言祝ぐと謳ったある商品が生まれその影響が蔓延することになった。

 実験過程で、愛情を掛けていた数匹のネズミが長生きしたことを根拠に、チンドン屋を雇い盛大に世に向け販売放出された。
 往々にしてありうることだったが意図せずしそれは、ある種の物質の生成により母体から臍の緒を通じてそれらから生じる影響の結果を体内の生命が受け継ぐことになり、各種器官ごと等に於ける生命維持仕事能力の、それまでの健康で正常なとされるレベルからの著しい失墜を広範囲に渡って引き起こすこととなり、人間は様々な諸相が脆弱な状態でこの世に誕生しその地上生を営むようになった。

 その為ある割合の生まれた子供が第二次性徴が起こるまでの段階で命を落とし、平均年齢が20歳前後になり、後期青年期を超えて生き永らえる事が出来れば長寿と呼ばれるようになった。

誰もそんなことになるとは思いもしなかった。自己の生が閉じられてゆくことに、祈り黙しがちの者、ものごころついてからは微笑むことすらもせぬ者も多く、暖かな陽射しが覆いゆく沈鬱で当惑した時世の雰囲気を追いやることはできなかった。
 

 通常の成人を超えたあたり、後期青年期まで生きられない人が大半とも言える状況であった為、成人年齢は引き下げられ、体の状況の整い次第に男女が子作りに至ることになった。国家や地域共同体が子守りを引き受けるようになるなどの変化が社会にあった。

一生のうちに成長できる転生過程の霊的進化の度合いが平均9か月程であったこのような経過を辿る以前の地球での地上人間形態に於ける成熟発達は、短命によりその期間すら望むべくもなくなり、個々の知性及び霊体が成熟することが極めて困難な状況に陥った。

悪辣な非理性的な地上を席巻する思考、システムと相まって。


 この段階に及び、地球管轄の全てを司ると思われる存在がガイアと呼ぶのが相応しいのかどうかは、夢の渦中で体験していた私にとっても適当で相応しいことなのか分かりくることは無いように思える。
 便宜的に数多の候補とされうる言葉のなかよりそのガイアという意識体の呼称を配材することとする。

 ガイアは自身も霊的生命体として、有益な影響がありその恩恵に預かりもしていた霊長人類種の地上生に於ける進化及び霊化その活動及び放つ振動と放射が、矮小極まりないとも言えるレベルにまで陥り至ったことを、そのズイの領域まで完膚無く到達する浸透度で認識した。

 地上の霊長たる現生人類は、その人体の分子の間隔が僅か微妙に「広がる」事と、宇宙の運行に関連し起きている幾つかの現象が生むはずである、半物質化した生の形態への移行をすることには至らないだろう。
 過去数千万年かもしれぬ間6回に渡りまさにそうであり、今回もそうであろうという予測に対峙し、ガイアは憐憫、焦燥、無力感を感じた。

 際限なく増える人間の活動によりガイア自身が持つバイオスフェアの生命力が弱らせ果てさせられていることを、これをもまた再考を加える余地がない確かさで感じ認識し続けていた。


 慈愛の顕現、生物圏の分け隔てをせぬ「ゆりかご」としてあった私、とりわけても現生人類をあやすこと、それにふと疲れ憔悴した末に初めて自暴自棄とも形容できる感情の片鱗を抱いたガイアは、星々を創出する存在と共にこの惑星に対しひとつの不可逆的な結論を導くことになった。

 霊長の霊性は ことごとくはじめに還れ と。

 そしてこの宇宙の辺境の、かつてそれらが住んだ惑星は、星々を造りたもうた存在が忘れ果てそうになるほど、どうでもよいフィーリングで浮遊公転闊歩している、うめぼしの種になりはてた。

 
              ここまでが見た夢についての記述である。


「うめぼしというのは、この惑星に於いてどのようなの次世代の繁栄を呼び込む因子なのでしょうか」
「それは、地球のユーラシアの極東部に於いて、とてもよいものである」

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