【蓮ノ空感想文】DEEPNESS~伝統と今を調色したローズマダー~
ごきげんよう、明日賽と申します。
先日開催されました「ラブライブ!蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ 2nd Live Tour 〜Blooming with ○○○〜」はご覧になられましたでしょうか。
観ました?最高でしたよね!
特にアンコールで披露されたDEEPNESSは初演出も相まってとても記憶に残る素晴らしいパフォーマンスでした。そんな興奮が1週間経っても冷めやらぬ中、今回は楽曲DEEPNESSを色彩的側面から深掘りできればと思います。
これまでのDEEPNESS(前置き)
恐らくですがこの記事に目に留めて頂いた皆様方は99%DEEPNESSのこと好き好きクラブの皆さんだと思いますので、今更こんな解説が必要なのか疑問なのですが……簡単に沿革と過去の披露歴についてご紹介します。
DEEPNESS
深さ、深み、奥行き、深度を指す単語。
この曲を披露した当時、公式は「深化」という言葉を用いました。それは想いの深化、あるいは関係性の深化等、当時の4人に当てはまる要素は数多くあったと思います。
活動記録によると、DEEPNESSが初めてお披露目されたのは2022年の末頃、ラブライブ地区予選を突破するため蓮ノ空女学院102期生である夕霧綴理が作り上げた楽曲とされています。
当時はスクールアイドルクラブ部長である大賀美沙知の引退、また部員藤島慈の怪我による休部等大きなアクシデントが続き、同じく部に残された乙宗梢と共に長年続いたスクールアイドルクラブを守ろうと必死に足掻いていた頃で、その中で綴理なりに活路を見出そうと生み出した楽曲でした。
この楽曲をもって無事地区予選は優勝となりますが、諸事情により続く全国大会は辞退することになります。
その後ほどなくして2人が同じステージに立つ場面は見られなくなり、この楽曲が再び世に出る機会はもう来ないかと思われました。
次にこの楽曲が披露されたのは2023年6月、蓮ノ空女学院が誇る三大文化祭のひとつである撫子祭の舞台でした。
新1年生2名を迎えた計4名で披露される息の揃ったパフォーマンスは大変素晴らしく、多くの観客を魅了したのを覚えています(私がこの曲を知ったのもこの年が初めてで、その演目を目にした時の感動は今でも鮮明に蘇ってきます)。
約半年間の熟成期間を経てついに完成形に到達したと評されるDEEPNESSですが、その翌年には更に多くの人々の前で披露する機会を得ます。
そう。2024年3月に開催された、ラブライブ登場ユニットが一同に揃うユニット甲子園です。
「7回表、蓮ノ空女学院……蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ」
ウグイス嬢の紹介からのモニターに映る4人のシルエット、そして次に響く特徴的なオリエンタル調の前奏で興奮を覚えなかった人は居ないでしょう。
蓮ノ空女学院制服を着た4人のパフォーマンスは、その後に続く幻のユニットSaint Aqours Snowにも劣らない熱量で会場であるKアリーナを震撼させます。
先に開催された異次元フェスから上昇し続ける蓮ノ空への注目度を十二分に活かしたパフォーマンスを披露したことで、蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブは自校の存在を対外的に知らしめる絶好の機会をものにしました。
そして先日、2024年4月21日に開催された2ndライブアンコールにて、我々は更に進化(深化)したDEEPNESSを目の当たりにすることになります。ずっとファンの期待、願望、妄想として語られてきた現行6人のフルメンバーによる楽曲披露、よもやそれが現実化した事実に度肝を抜いたファンは多かったでしょう。
そんな蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブのレパートリーでも特にトリッキーで尖った曲調と振付が特徴的なDEEPNESSですが、この楽曲をここ最近のライブでは決まって蓮ノ空女学院制服姿で披露されている点にお気付きの方も多いと思います。スクールアイドルが母校の制服を身にまといライブをする。それはすなはち学校の存在を背負って人の前に立っているということを意味します。
蓮ノ空を背負って披露する楽曲が数多く存在する先代から受け継いだ伝統曲ではなく、当代スクールアイドルクラブの部員が作成した新進気鋭な一曲だという点が既にとても興味深いことなのですが、ではそこに如何なる意味が含まれているのかについて次から探っていきたいと思います。前振りおしまい。
赤って200色あるんだって
まずは作曲者である夕霧綴理のメンバーカラ―について振り返りたいと思います。
天才と称される夕霧綴理が掲げる彼女だけの赤色、ボクの赤。
公式HPのキャラクター紹介の色合いを見ると、さらに若干黄色みが感じられる落ち着いた赤色になっててより茜色に近いものになっています。
茜とはその名の通りアカネ=根が赤いことからその名がついた植物です。
日本における茜を用いた赤染めの歴史は古く、弥生時代以前の遺跡や魏志倭人伝などをはじめとして以降様々な場面でその存在を現しています。
不思議なことに海の向こうを覗いても、歴史上で最も早く登場した染色は共通して「赤み」だったとされています。古来より赤色は血、太陽、火、生命など特別かつ高貴な聖なる色だとされ、歴史上数多の権力者や聖職者、また美術品等を彩ってきました。
余談ですがテントウムシの英語名であるレディバグ、その「レディ」も聖母マリアが身に着けていた赤い羽織から付けられた名ですが、ここにも赤色に抱かれる神聖イメージが関係してるんですね。
さて、こと金沢においても茜染めはとても縁が深い染色技法です。
染色技術として普及し始めたのは江戸時代に入ってからのことで、かつての加賀藩は友禅染めが確立するより以前、茜屋理右門を但馬国から招き技術導入したとされ、今でも金沢市堅町近くには彼が茜染め御用に務めていた用水、そしてあかねや橋と名付けられた小さな橋があり、当時の名残を感じることができます。
最近公開された活動記録でも登場した、花帆と吟子が向かったお店「茜や」さんも120年以上続く染物屋さんで、こういう場所が数多く残っている街だからこそ散策するほどにその歴史の深さを肌で感じることができます。
そんな歴史と伝統ある色をメンバーカラ―に持つ夕霧綴理。スクールアイドルがいかにして自らの担当色を決めているかは知る由もありませんが、もし彼女が自らその選色を選んだのだとしたらそこに大変奇遇な縁を感じますし、あるいはその先輩がスクールアイドル見習いを自称する彼女に贈った色だとしたら……そう想像するだけで感慨深くなってしまいます。
さて、ご存知の通り楽曲DEEPNESSにも赤色は登場しますよね。
そう、rose madder(ローズマダー)色です。
「私たちは茜色の薔薇
ただ心は燃え上がる」
単純に直訳するとこんな感じになるのでしょうか(壊滅的な和訳センスは許して)。可憐ながらも力強い意志を秘めたフレーズに感じられます。
ですが、ここに登場する「rose madder」のroseは薔薇ではなく赤系の色彩、madderは茜を指します。つまり茜から採取される染料のような、紫みを帯びた濃い赤を指すローズマダー色なのです。
もっとも茜は茜でもここで用いられるのはセイヨウアカネと呼ばれる品種で、上記の国内で発見された日本茜とは別の品種の植物となります。
セイヨウアカネの歴史は日本茜よりも遥かに古く、紀元前1500年以前から中央アジアやエジプトで染料として栽培されていました。ファラオのツタンカーメンの墓に利用されていたり、ヨーロッパでもメロヴィング朝女王のアルネグンディスの墓から出土した織物での利用がみられたりと、日本茜に比べて染色工程が容易なことから、その後数千年にも渡ってこの色は歴史の表舞台に登場することとなります。
聖なるものとして崇められ、長い歴史を生き抜いてきた色彩。そんな伝統のローズマダー色の制服に身を包んで披露されたDEEPNESS、茜色から更に果てない歴史へと「深化」していこうという夕霧綴理の理念が現れたすばらしいライブパフォーマンスで披露する度に会場が熱狂の渦へと……
「待って。なんかどっちとも色味が違わない?」
「何?……確かに」
はい。こうしてみると紫みの強いローズマダー色はボクの赤とも、蓮ノ空女学院制服の色とも若干色合いが違うんです。
上の仮説だと、綴理の「ボクの赤」がより深く染まることで落ち着いた制服の赤色に染まるというのであればまだ理屈が通ります。しかしそこからローズマダー色に移るには更なる色が必要なんですよね。
じゃあローズマダー色っていったい何を差していたんだろう……?
先日の2ndライブで披露されたDEEPNESSで、私はその答えを掴めた気がします。
参照映像はユニット甲子園のものですが、おわかりでしょうか。
濃い茜色の制服が青みがかった舞台照明に照らされて紫色を帯び、見事なローズマダー色が浮かび上がっています。
普段の学生生活を送っている場面では見られない、ステージの上だからこそ見られる特別な色です。
もともと夕霧綴理は感情や雰囲気を色味で捉える特殊なセンスの持ち主でした。徒町小鈴のがむしゃらさを頑張ってる黄色と表現したように。村野さやかのエネルギッシュなひたむきさを水色のきらめきと形容したように。
そう、きらめきなんです。
100年続く伝統の象徴である蓮ノ空女学院の制服と、今を輝くスクールアイドルの躍動がぶつかり合って生まれる刹那的で奇跡のような色、それが曲の中で歌われるローズマダー色だったんじゃないかと私は考えます。
まあメタ的にはそういう舞台照明演出によって意図的にローズマダー色が「調色」されたということなんでしょうが(キャラクターと演者で制服の色合いも違うし)、ともかくそれは私たちの前に姿を現したのです。
振り返ってみれば、はじめましての自己紹介の頃から夕霧綴理は自身を「スクールアイドル見習い」と称していました。今はまだスクールアイドルではない、故にスクールアイドルクラブの伝統を引き継ぐことはまだできないという意味にもとれます。
部員の中で唯一己の未熟さを最初から掲示していた綴理は、そんな自分に相応しいメンバーカラ―として「青い(若い)」赤色を選んだのではないかという推察はこの段階では否定できないものだと思います(いや、それすらも大変に歴史が深い色彩なのですが)。
彼女のパッションを表すような赤色がより熱く、より色濃い時を重ねることでその色味は一層落ち着いた茜色に染まっていく。その時々に発したきらめきに呼応して、その瞬間だけのカラーを刻み続けていく。そんな自身への成長と変化を期待して、夕霧綴理はDEEPNESSという楽曲を生み出したのではないでしょうか。
未来に繋がる色
そんな楽曲DEEPNESSですが、今回6人での編成へと姿を変え表舞台に戻ってきました。104期活動記録第1話を視聴された皆さまにおかれましては、既にこの大きな変化を受け入れていることだろうと思います。
2人から4人、4人から6人へと、姿は変えても変わらない曲の想いが次々に仲間たちに伝わっていく、これこそ伝統と呼べる代物です。
本来はある部員が大好きだった場所を守りたくて作った曲でした。それが分かれていた気持ちをひとつにする曲として、または誰かと共に限界を超える曲としてその存在を日に日に強く知らしめています。その意志が受け継がれ、いずれ今年加入した新入生と合わせて9人体勢で、更にはその次の、次の次の代もこの曲を継承し歌い続けてくれることを私は切に期待したい。かつてこのクラブを救おうと立ち上がった先輩の顔も名前も知らない代がこの曲を歌い継いでいる未来が待っていることを。
そもそも伝統曲と一言で言い表すのは簡単ですが、初めに歌った人の顔も名前も知らない楽曲を私たちはどれだけ知っているのでしょうか。もちろん世の中にはそんな曲がごまんと存在するのでしょう。しかしそれが私たちの耳に届くことは奇跡にも等しい確率なのではないかと思うのです。
ただでさえ、スクールアイドルの一生は短いものです。103期スクールアイドルクラブが昨年1年間で実施したライブ累計回数もせいぜい20回~30回といったものでした(いや普通に凄い量なのですが、やりたいことが全部やりきれる回数かというと……)。
私たちは実際母校のOBOGの存在の大部分を知りませんし、学生生活3年間という短い期間のなかで許される活動にも限度があります。それでも長年受け継がれる楽曲が、伝統が確かにあるということ。その重要性を改めて噛み締めなければならないのではないかと最近特に考えます。
Dream Believersが新入生に初めてフォーメーションダンスとライブの楽しさを教える伝統曲になったように。
On your markが挑戦の一歩を踏み出すものの背中を押してくれる伝統曲になったように。
永遠のEuphoriaが仲間との繋がりの大切さを教えてくれる伝統曲になったように。
Legatoが先代の想いを受け継ぎ「私たちは大丈夫」という決意表明として歌い継がれた伝統曲になったように。
伝統が生まれる瞬間を語り伝える伝統曲として、DEEPNESSはこの先もスクールアイドルクラブと共にあり続けるのではないでしょうか。
「蓮ノ空が好きだから、ボクにとって蓮ノ空が一番だから。みんなにもそう思って欲しかったんだ」
夕霧綴理の恐らくは歴代DOLLCHESTRAと比較しても特別に穏やかで慈しみに溢れていた想い、そしてどこまでも赤く染まった情熱は、彼女が卒業した後もその時々の様々なきらめきを反射しながらいつだって蓮ノ空の制服に、この楽曲の中に宿っていることでしょう。
おしまい。