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メンチカツ【短編小説】

『ジューー。ジュワァーー。チリチリ・・・』

揚げ物の美味しそうな音がする。

帰って来た瞬間に、美味しそうな音と揚げ物の匂いが玄関まで届いたので若葉は、今日は揚げ物だという事を分かっていた。

『ただいま~。ママ』

『おかえりなさい。若葉』

若葉は中学生で、バスケットボール部に入っている。
顧問の監督は、今時めずらしい熱血感ある人物で根性論と精神論でへとへとになるまで練習をさせられる。
若葉は、そんな練習も嫌いではないがへとへとになるまで練習をするので練習が終わると物凄くお腹が空いてしまう。
そんなクタクタでへとへとな状況だから毎回の夕ご飯はとても楽しみにしていた。

『ねぇ、ママ今日の夕ご飯はなに?』

『今日は、メンチカツよ。』

若葉は、ビンゴ!と心の中で思った。
玄関を開けた時の音と匂いでなんとなく今日は揚げ物だと解り、ママの作るコロッケやメンチカツが好きだという事をママにもよく言っていたからだ。

『若葉、汗くさいし、汚れているから先にお風呂に入って来なさい。』
いつものようにママに言われて先にお風呂に入る事にした。
大好きなメンチカツ、そして空腹感もピークに達していた。
若葉は、お風呂も早々に入り出てきた。

食卓では先に帰ってきていたパパのシゲルがビールを飲んでいた。
『若葉、お風呂早いな~。』

『だって、お腹空いているんだもん。』
本当の事である。
猛烈にお腹が空いていた。
ママの夕ご飯の準備が出来るまで、シゲルと今日の部活であった事などをテンション高めに話して夕ご飯の準備を待っていた。

テンションが高い理由は、今日は若葉の好きなメンチカツだからである事は言うまでもない。

『ご飯できたよ~。たべよ。』とママが言った。

食卓には、ジュワァーと肉汁が溢れそうで美味しそうなメンチカツがあった。

見るからに衣もサクサクの感じがより一層美味しそうな雰囲気をかもし出していた。

『いただきま~す。』

若葉は、真っ先にメンチカツを自分の取り皿に取り、メンチカツの上にたっぷりのソースをかけた。

たっぷりとソースをかけるのが若葉の食べ方であった。

『おいしそうぉ~』

若葉は、そういいながら、箸をメンチカツに向けメンチカツを一口で食べれる大きさに切った。

若葉の予想通り箸でメンチカツを切るとそこからは溢れんばかりの肉汁が出てきた。

これは絶対に美味しいと若葉は改めて確信した。
メンチカツへの期待値が若葉にとって爆上がりの瞬間であった。

左手にご飯茶碗を持ち、真っ白なごはんの上に黒々としたソースをたっぷりとかけたメンチカツをおいてメンチカツとご飯を一気に口に運び咀嚼しだした。

『ザクっ ザクっ』

ん?

もう一口

『ザクっ ザクっ』

肉汁溢れるメンチカツを食べたのにザクザクと言う食感・・・。
若葉は愕然とした。

『ねぇ~ママ。これメンチカツ?』

ママは言った。

『そうキャベツメンチよ。』
若葉は更に愕然とした。

若葉は野菜がとても嫌いだった。

いつも殆ど食べない。

特に野菜の形があるものや食感や香りがあるものは本当に嫌いだった。

せっかく思い描いていたジュワァーとしたジューシーなメンチカツとのギャプに、ただただ心が落ちるだけだった。

そこから若葉は一言も話さずテンションがだださがりでメンチカツ以外を食べていた。

そうなってしまうと食卓には気まずさしかない。

美味しくビールを飲んでいたパパのシゲルも不穏な空気での食事では美味しくない。

シゲルは若葉にメンチカツを通して講釈をたれ始めた。

『若葉、そのメンチカツの音やママの作る揚げ物は美味しいと期待していなかった?』

若葉は無言で美味しくなさそうにご飯を食べていた。

シゲルは無言の若葉を気にせずそのまま話し続けた。
『若葉、でも実際に食べたら思っていたより美味しく無かったよね。それってなんでかと言うと若葉が勝手にママのメンチカツは美味しいものだと思いを強くしてメンチカツの期待値を上げ過ぎたからじゃない。』

相変わらず若葉は黙黙とご飯をたべていた。

『世の中にでて、仕事をしだすとよく言われる事だけど、事前評価を事後評価が上回る事が大切なんだよ。これからも人生でも、よくある状況だと思うよ。例えば、好きな彼の見た目だけを気にして勝手に若葉が妄想をしすぎて、好きな彼の事前評価が上がりすぎて、実際にデートや遊びにいったら若葉の思っていた好きな彼とはちがったり・・・。』

ビールにワインと飲んで、程よく酔って饒舌になったシゲルの講釈は続いた。

シゲルの講釈が長すぎてママも若葉も聞いているか聞いていないのか分からぬまま今日の夕食は幕を閉じた。

事前価値>事後評価よりも事前価値<事後評価の人生になってね若葉。

今日のシゲルは、いつまでもそう言っていた。

おしまい

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ぱぽこめ
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