バイクのキーを失くした件...
イベント参加規模3,000人と言うだけあって帰りの送迎待ちの列は半端なかった。中には諦めてなのか賢くなのか、まだ席に座って残っている食べもの食べているグループもいた。その脇をわたしたちはバイクなので颯爽と抜け駐車場へ向かった。
わたしはガキのころからケアレスミスと言うか、注意力散漫と言うか、何かが欠けている。絶対にミスをしてはいけないとこに限ってミスをする、そんな性分だった。
多分チャックを閉めていたポケットに入れておいたはずの鍵がない……。
宿の部屋の鍵がないのも困るが、こんな遠方でバイクの鍵を失くすのは洒落になっていなかった。
すべてのポケットを見ても、バックの中をくまなく探しても、鍵は見つからない。落とした……。そうとしか考えられなかった。
さっき行った駐車場のトイレとそこまでの道をライトで照らし探したが見つからない。会場まで戻り一斉上げをした芝の上を探しても見つからない。芝の上は片づけも進んでいて探しやすい状況であるにもかかわらず、まるで手応えはなかった。駐車場に再び戻る。
バイクを停めていた隣のバイクの持ち主が日本人カップルだったのだが、心配してくれて一緒に探してくれた。親切な人たちで、落としものとして出ていないかも訊きにいってくれた。しかし成果はなかった。
彼らを随分と長いこと引きとめてしまっているし、これ以上探しても出てこないだろうと思われたので、わたしは諦めることにした。ここで鍵が見つかっているのならお礼でもとなるところなのだが、いかんせん心に余裕がない。それよりまずはここからどうやって帰るかを考えなくてはならない。
彼らには大丈夫だからと帰ってもらって現実的な問題を考えた。
田舎すぎてタクシーはいない。電波状態が非常に悪く、「grab」も使えない。仮に電波があっても車がいるようなところではない。送迎車は長い列を作っているがわ自分たちのプランに送迎はつけていないので乗ることはできない。もちろん歩いて帰れる距離じゃない。
ぱっと思いつくところだとヒッチハイクかと思うが、これも現実的に送迎車以外走っていないここでは無理だろう。
そんなことを考えながら会場と駐車場を何往復もしたが鍵は見つからない。会場の人にも手伝ってもらったし、落としものとして見つかっていないかも逐一確認したが無理だった。
その間に会場に出口まで無限に繋がっていた長蛇の列もだんだんと短くなっていった。
やはり現実的に考えてここに停まっているツアー会社にお願いして乗せていってもらうしかなさそうだ。いくら取られるだろうか……。
仮に今夜無事に街まで戻れても、明日バイク屋に行って事情を話し、スペアキーをもらってタクシーでここまで来なくてはならない。鍵代もかかるだろうし、まったく頭が痛い。
あれだけいた送迎車の数も残り少なくなってきた。いよいよなんとかしなくてはならない。
おそらく、わたしたちが申し込まなかった送迎つきプランの車と「HIS」の車がある。
「HIS」のほうは添乗員まで日本人のようだが、そっちだとまったく関係がない。乗るならもう一方のほうだろう。見たところ乗車時に何か見せている様子もないのでしらっと乗ることもできそうだが、バイクを置いていけるかなど一抹の不安が残る。
ああだこうだしている内にいよいよ本当に最後だ。会場出口にはもうスタッフしか残っていない。車もラスト一台だ。わたしたちも出口に向かった。
スタッフの中には事情を把握してくれていた人もいて、まだ鍵は見つかっていなことを伝えると、ありがたいことに車に乗って帰るように勧めてくれた。バイクは明日取りにくるように言われたのでもちろん承諾し、バイクは駐車場に一晩置かせてもらうことにした。
すっかり帰るのが遅くなってしまったが、この件に関してわたしの連れは文句ひとつ言わなかった。いつものように無関心なだけかも知れないが、ぐちぐち言われるよりはずっといい。
結局わたしたちは誰よりも早く来て、誰よりも遅く帰った。バイク借りたのに……。
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