エリック・マコーマック「隠し部屋を査察して」 幻想文学とSFの違いってなんだろう
「共感しながら読みました」
「分かる分かるって頷きながらページをめくりました」
日本の売れ筋の大衆文学にはこんな感想がよく聞かれる。
もちろんそういう本を読みたいときもあるけれど、
SFや幻想文学で描かれるような個性的で偏った想像力の塊、日常から逸脱した歪みに浸りたいときもある。
そんなわけで数年前から心惹かれている作家エリック・マコーマックの「隠し部屋を査察して」を読んだ。
初版が2006年5月26日ですが、2020年9月11日に復刊フェアで再版されました。待ってた!
文庫自体は短編集ですが、今回は表題作について。
隠し部屋って何?誰か隠れてるの? それを査察?誰が?何のために?
もう題名からして想像力が膨らみます。加えてこの奇妙な装画。
峡谷の近くのフィヨルドに建てられた建物。そして地下にある<隠し部屋>。
地上部分には管理人が住み、地下に隠された奇妙な人々を管理している。
行政当局から派遣されたわたし<査察官>は彼らを定期的に<査察>するのが仕事だ。
・本物にしか見えない幹や葉を作り、完璧な人口の森を作り上げた男(当局に焼かれたその森からは、目や口や脚がでたらめについた動物たちが飛び出してきた)
・口からウツボや毛糸、ピストル、岩、糞、予言が描かれた羊皮紙を吐いた美しい女(そして判事を予言通り射殺した)
・本来の自分を捨てて自由に町の中の誰かと役割を交換し合うよう推奨した町長(この人も元は町長ではない誰かだったのかもしれない)
奇妙な罪を犯した彼らは皆それぞれに隠し部屋で余生を過ごしている。
具体的に何が罪になるのか、といわれると首をひねってしまうような人もいて、言うなれば「想像力の罪」ともいえるのかもしれない。
どことなく猟奇的で、グロテスクだけど、ブラックユーモアも感じさせるエリック・マコーマックの世界。
訳の分からなさを楽しむ。その奇妙さに思わずくすりと笑う。
人に誰彼かまわずすすめられるような作品ではなく、そもそも読書って自分だけの世界で楽しむものだしなと思いながら読みました。
あらすじを少し書いたとおり、マコーマックの世界は奇妙で幻想的。
SFとは少し違うからジャンル的には幻想文学?でも文庫は「創元推理文庫」
ジャンルに分けるのが不可能のような人なのかもしれない。
そもそもSFと幻想の違いって何だろう?と少し前から思うようになりました。
実は、幻想文学とファンタジーの違いに明確な答えはなく、異なるものだと唱える人もいれば、幻想文学のなかの一ジャンルとしてファンタジーがあると考えている人もいます。そんななかでひとつ違いを見つけるのであれば、ファンタジーが、驚きや好奇心、夢など空想的なテーマでメルヘン文学に近い展開をするのに対し、幻想文学は、恐怖心や怪奇などの感情が根付いた作品であることが多いです。少し嚙み砕きすぎかもしれませんが、大人の物語、といったところでしょうか。
なるほど、確かに幻想文学は大人向け、どことないグロテスク感があるものが多い気がする。
明確に線は引けない(引くことに意味もない)けれど、自分の好きなジャンルだなぁと改めて感じました。
最後に文庫版に寄せた川上弘美さんの推薦文を載せて終わりにします。
「万華鏡をくるりと回転して見せてくれたもう一つの私たちの世界……」
(やっぱり川上弘美さんもマコーマック好きなんだ。似合う。)