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プラスチックをごみにしない!ユニリーバが進める「LBN-P」とは?
世界190カ国以上で400以上の日用品・食品ブランドをお届けする消費財メーカーとして、「プラスチック」とは切っても切れない関係にあるユニリーバ。以前からプラスチック問題を重くみて、プラスチックをなるべく使わないような取り組みを進めてきました。
その取り組みについて、前回の「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン」に続いて、アシスタント コミュニケーション マネジャーの新名司に聞いてみました。
日本は世界第2位の「プラスチック大国」
――まず、プラスチック使用の現状から伺えますか。
いま、世界中で年間800万トンのプラスチックごみが海に流れこんでいると言われています(※)。2050年の海は魚よりもプラスチックごみのほうが多くなる――そんな話を、テレビや新聞などで聞いたことがある方も多いと思います。
※World Economic Forum “The New Plastics Economy: Rethinking the future of plastics”
これは、世界だけではなく、日本にとっても大きな問題です。
――日本にとっても……というと?
日本人1人当たりのプラスチックごみの量は、アメリカに次いで世界2位です(※)。実は日本国内では、大量のプラスチックが使い捨てされているんです。
※国連環境計画(UNEP)「Single-use Plastics: A roadmap for Sustainability」
これまで日本は、廃プラスチックを中国や東南アジア(マレーシア・ベトナム・タイなど)に輸出していました。ところが、環境汚染への懸念から、2017年末より他国が輸入の制限にかじを切りました。かつて最大の廃プラスチック輸入国だった中国は、2020年1月より輸入の全面禁止を発表しています。
こういった他国の動きを受け、国内のプラスチックごみが行き場を失っているという深刻な問題が、いま起こっているんです。
2010年に「環境負荷を1/2に」を宣言
――日本のプラスチックをめぐる問題が深刻化していることが、よくわかりました。だからこそ、プラスチックをごみにしない取り組みが求められるのですね。
ユニリーバも、シャンプーやボディウォッシュなどの容器やパッケージにプラスチックを使用しています。地球の未来のために、いち企業として何ができるかを早い段階から考え、アクションを起こし続けてきました。
まず、2010年にユニリーバの成長戦略「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン(USLP)」を策定。「製品ライフサイクルにおける環境負荷を1/2にする」という目標を掲げ、2010年からパッケージの軽量化などを進めてきました。
※USLP記事リンク(公開したら貼る)
しかし、先ほどお話したとおり、プラスチックにかかわる問題の深刻さと緊急性が高まっていることを受けて、2017年にUSLPにプラスチックに関わる目標を新しく追加。さらに2019年10月には、プラスチックに関する目標を拡充しました。2025年までに次の3つの目標を達成することをめざしています。
1. プラスチックパッケージを100%再利用可能・リサイクル可能・堆肥化可能にする
2. 非再生プラスチックの使用量を半減する
3. 販売する量よりも多くのプラスチックパッケージの回収・再生を支援する
この目標は、USLPの次の成長戦略である「ユニリーバ・コンパス」にも受け継がれています。
キーワードは「LBN-P」
――プラスチックの問題に対して、目標のハードルをさらに上げたんですね。これらの目標の達成に向けたアクションを教えてください。
プラスチックに対する具体的なアプローチとして、ユニリーバでは「LBN-P」を掲げています。
――エルビーエヌピー……?
「LESS PLASTIC」「BETTER PLASTIC」「NO PLASTIC」の略で、「LBN-P」です。ひとつずつご説明しますね。
まず「LESS PLASTIC」。これは、製品設計の段階からプラスチックの使用量を減らしていくアプローチです。
たとえば「ダヴ ボディウォッシュ」シリーズのボトルは、製品改良の際にプラスチックの使用量を約11%減らしました。「ラックス スーパーリッチ シャイン」シリーズでも、ボトルの形状を変えることで、プラスチック使用量を約10%削減しました。
また、日本では世界的にみても「つめかえ」の習慣が浸透した市場です。シャンプーなどのつめかえ用製品は、ボトル本体に比べ、プラスチックの使用量を7~9割減らすことができます。そこで、つめかえ用の製品のラインアップを広げています。
1グラム単位の小さな努力を積み重ねることで、ユニリーバ・ジャパン全体で、プラスチックの使用量を年間で104トン削減できました(2019年実績)。下の画像の水槽約2万個分に相当する量を使わずに済んだことになります。
粉々のチョコビスケットを、チョコとビスケットに分ける?
次に「BETTER PLASTIC」。なるべく資源を新しく使わずに循環利用できるよう、リサイクルされた素材や、よりリサイクルしやすい素材を使うアプローチです。
ユニリーバ・ジャパンでは、2019年の下期から、ラックスやダヴ、クリアから再生プラスチックの導入を始めました。ボトル製品では90~95%、つめかえ用製品では約10%、飲み終わったペットボトルをリサイクルした再生プラスチックを使用しています。
再生プラスチックを使うメリットは、限りある資源を大切に使えることだけではありません。再生プラスチックを使うと、新しくプラスチックを作るのに比べて、CO2の排出を抑制することができます。ユニリーバ・ジャパンでも、再生プラスチックへの切り替えにより、年間約1,200トンものCO2削減につながっていると見ています。
――CO2削減のメリットもあるとは知りませんでした!実際、再生プラスチックを使った製品を店頭でもよく目にするようになりましたね。
たしかに今日、再生プラスチックを使う製品は増えていますよね。そのなかで、ユニリーバが特徴的なところを挙げると二つあります。
ひとつは、基幹ブランドに再生プラスチックを導入したこと。環境に優しいイメージを訴求しているブランドだけ、期間限定・個数限定ではなく、ラックス・ダヴ・クリアという基幹ブランドに、通年で導入しています。
もうひとつは、使用している割合の高さ。技術的に可能なギリギリの限度まで、再生プラスチックを使っています。
「BETTER PLASTIC」の分野では、よりリサイクルしやすい単一素材への切り替えもしています。具体的には、2019年9月には「リプトンキープ&チャージ」にPP(ポリプロピレン)単一素材のフィルムパッケージを、2021年の3月には「ラックスルミニークサシェセット限定デザイン」にはPET(ポリエチレンテレフタレート)単一素材のパッケージを、それぞれ採用しています。
――すみません……単一素材を使用するって、どういうメリットがあるのでしょうか?
つめかえ用パッケージは、いろんな素材を組み合わせてつくられています。破れたり漏れたりしないようにするため、中身を日光から守るため、香りが移るのを防ぐため……さまざまな理由があります。
ところが、それによってリサイクルがしにくくなるという問題が生じています。
とてもざっくりとしたイメージでいうと、チョコレートのかかったビスケットを想像してみてください。それを粉々にして、その後で「これをチョコとビスケットに分けて、元のビスケットをつくってください」と言われたら……。
――いや、そんなのムリですよね。
そうですよね(笑)。でも、チョコレートだけでできた板チョコなら、溶かして固めて元の姿に近づけることができます。
なるべく単一素材で作ることで、リサイクルしやすさが向上するんです。こうした努力も、ぱっと見では分からないのですが、けっこうすごいことなんですよ。
日本でも始まっている「シャンプーの量り売り」
最後に「NO PLASTIC」。文字どおり、プラスチックを使わないようにするアプローチです。
この「NO PLASTIC」には大きく二つの意味が込められています。ひとつは、「使わなくて済むときは使わない」こと。海外のユニリーバでは、店舗内にシャンプーなどの量り売りのサーバーを設置したり、量り売りの移動販売を行ったりしている事例があります。
もうひとつは、「プラスチック以外の素材に替える」こと。ガラスや金属など、他の素材で代替するアプローチです。海外では、タブレットタイプの歯磨き粉をガラスケースに入れた製品や、竹で作った歯ブラシなどを実際に販売しています。
日本でも今年から量り売りを始めました。
2021年2月から長野県佐久市、同年6月から宮崎県新富町で、シャンプーやボディウォッシュの量り売り「リフィルステーション」の実証実験を開始。
――プラスチックの回収・リサイクルを促す動きも進めているそうですね。
消費者の皆様や自治体、さまざまな企業と一緒になって、プラスチックの回収・リサイクルを目指す新しい取り組みもいくつか始めています。
●UMILEプログラム
2020年11月から開始。ユニリーバのつめかえ用製品を買う、または使用済みパッケージを小売店の回収ボックスに入れてリサイクルすると「UMILE(ユーマイル)」というポイントが貯まる。貯めたUMILEはLINEポイントやエコグッズ、子どもたちのための活動をしている団体への寄付に交換できる。
●みんなでボトルリサイクルプロジェクト
2021年6月から、花王株式会社との協働回収プログラムをスタート。東京都東大和市内に回収ボックスを設置し、日用品の使用済みパッケージを回収する。日用品のボトルをボトルへと再生する水平リサイクルを、企業の枠を超えて実現しようという試み。
プラスチックは「悪者」じゃない!
――「LBN-P」のアプローチが、それぞれよくわかりました。これらのアプローチを通じて、ユニリーバがめざしているのはどんな社会でしょうか?
一言で言うと、「プラスチックがごみにならない循環型社会」です。ここで大事なのは、必ずしも「プラスチックを使わない社会」ではない、ということです。
プラスチックの今後を考えるとき、「脱プラ」、つまりプラスチックを一切使わないようにすべきだとする考え方もあります。しかし、プラスチックは丈夫で軽く、衛生的な素材ですし、金属やガラスに比べると製造時や輸送時の環境負荷も少なくて済みます。
――私もなんとなく、「プラスチック=悪」のイメージを持っていましたが、かならずしも環境にいちばん悪い素材ではないのですね。
プラスチックを使うこと自体が悪いのではなく、プラスチックを使い捨てにすること、ごみとして自然に流出させてしまうことが問題なんです。
ユニリーバのパーパスは「サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”に」することです。「プラスチックはごみ」ではなく、「プラスチックは資源」。それが、私たちがめざす、新しい“あたりまえ”です。