くふうカンパニーグループの "AX" は 1 年でどこまで進んだか
こんにちは!くふうカンパニーの閑歳です。ChatGPT-4 が世の中に出てからちょうど丸一年が経過しました。これを機に、くふうカンパニーグループにおける AI の取り組みの現在地を紹介したいと思います。
事業・組織の両面で AI を活用する「二つの AX」
くふうカンパニーグループでは、AI によりユーザー体験をより良いものにするという「AI eXperience」と、業務そのものを AI 化して効率を上げていく「AI Transformation」という二つの概念を「AX」という言葉にして打ち出しています。詳しくは以下をご覧ください。
AI eXperience を体現したトクバイチラシ比較
前者の AI eXperience のアウトプットとしては、くふうカンパニーグループの主力事業の一つである買いものサービス「トクバイ」のトクバイチラシ比較が最も分かりやすい事例となっています。
トクバイチラシ比較はトクバイに掲載がある近隣店舗のチラシから目当ての商品だけを一覧にし、お得な価格で購入できるお店を簡単に見つけられるサービスです。
トクバイでは、スーパーマーケットやドラッグストアなど小売店の方々から特売情報を提供いただき、それを生活者の方たちが閲覧して来店いただく機会を増やすというのがコアな価値提供となっています。
その特売情報は、小売店から商品名や価格をテキストデータとして受領することはあるものの、画像のチラシをそのままアップロードいただくケースの方が多いというのが現状です。このため、ユーザーが「近くにあるお店の中で、ブロッコリーはどこが安いのだろう」というようなことが分かる機能を作るには、いまいまは私たちがチラシ画像を解析する必要がありました。
以前からユーザーニーズが大きかったこの機能は、AI を取り入れることで初めて実現できたのです。
簡潔に技術要素をご紹介すると、まずチラシ画像に Facebook AI Research が開発した DETR(DEtection TRansformer)という物体検出モデルを適用し、商品領域を抽出(図の②)。それとともに Google の Vision API で OCR(図の ③)をかけテキスト化することで、チラシ画像のどの場所に何の文字が存在するかの組み合わせを取得します。
そのうえで Meta AI の固有表現抽出モデルである RoBERTa により、各テキストが表すものが「商品名」なのか「個数」なのかといったエンティティを認識させています(図の ④)。② や ④ では学習させる正解データを作ることが地道ながらも非常に重要で、そのアノテーションには Labelbox を活用しました。
今回のプロジェクトでは、広い AI 実装の知見が実務レベルで溜まりました。このノウハウをトクバイ内の別の機能やグループ会社の事業にも積極的に応用するよう、すでに動きを始めています。
例えば家計簿サービス Zaim では、上記のカテゴリ分類のモデルをほぼそのまま移植するだけでも家計簿として記録した商品名が期待通りに分類できるケースが多いことが分かりました。
またグループ内の事業としては、ウェディング総合情報サイト「みんなのウェディング」への応用も検討しています。みんなのウェディングには、ユーザーが投稿した「結婚式の費用明細」の用紙を撮影した画像が多く存在しています。今後、どんな項目にいくらかかったのかを式場を横断して比較するなど、結婚式を挙げたい人のニーズに沿った機能の拡張が見込めます。
トクバイチラシ比較自体も、現在進行系で機能アップを図っているところです。具体的には RoBERTa で商品名に対して「生鮮」や「ビール」といったカテゴリを付与することで(図の ⑤)、比較する商品を増やせるほか管理コストの削減を見込んでいます。
さらに Microsoft Research の自然言語処理アルゴリズムである LayoutLM を用いながら、どの商品がいくらであるか、産地はどこなのかというテキスト同士の関係性を抽出することにチャレンジしています(図の ⑤)。これが実現できるとエンティティの認識精度が向上するほか、例えば価格で並べ替えて見たいといったユーザーニーズに応えることも期待できます。
業務効率化の AI Transformation 3 ステップ
もう一つの AX である「AI Transformation」は「DX」の AI 版ともいえ、グループ内のあらゆるメンバーが AI を当たり前に取り入れ、結果として業務をもっと効率化できるようになることを目指しています。
グループ外の会社の AI 推進担当の方と情報交換すると、この部分はどの会社も悩みながら地道に進めている印象です。そんな中、私たちなりに工夫しながら以下の 3 ステップで普及を図りました。
① 知る:AI に関する基礎知識をインプット
くふうカンパニーは約 20 社のグループ事業会社が存在し、社員は約 700 人にのぼります。職種もエンジニアやデザイナーから営業、事務まで多種多様。全員の業務に AI を浸透させていくには「AI を活用しよう」という号令だけではなかなか進みません。
そこで 2023 年 4 月の早い段階で、グループを横断した生成系 AI ワークショップを実施しています。参加希望者の約 100 人を 10 人ずつのチームに分け、生成系 AI の説明や質疑応答を繰り返しました。夏に開催した第二回では、職務ごとにチームを分け、具体的な業務へどう落とし込めるかをディスカッションしています。
さらに AI を推進するくふう AI スタジオの AX 推進部が音頭を取り、今現在も事業ごとに主要メンバーを集めて AI がどう活用できそうかという少人数の定例を設けています。
② 広げる:毎週の定例で AI の取り組みを共有
グループ内のエンジニア・デザイナーの大半が所属するくふう AI スタジオでは、毎週月曜の朝に全社会を実施しています。その中のコンテンツとして「AI トピック」という項目を立て、各部署が取り組んでいる AI 事例を紹介してきました。
今はくふう AI スタジオのみでの施策ですが、今後はグループ全体に波及できればと考えています。
③ 試す:50 名以上が参加するグループ合同 AI ハッカソンを開催
最後に、まさにいま開催中の AI ハッカソンについて紹介します。これは参加者自身が日々、業務などで困っていることを AI で解決するべく実際に手を動かしてみようという企画です。
50 名以上の参加者が集まり、職種はエンジニアだけではなくデザイナーや営業、バックオフィスまでさまざま。一人での参加から複数のグループ事業会社をまたいだ混合チームまで存在し、新しい交流の場にもなっています。
参加者には GPTs を使うための GPT Plus や OpenAI API の補助が出ます。発表は 4 月なので道半ばですが、実用的で面白そうな企画が進んでいるところです。
グループ全体で半数以上が業務に AI を活用
こうした取り組みの結果、2023 年 11 月にグループ横断で実施した全サーベイでは全社員の 50.9%が「業務に AI を活用している」と回答しています。グループ事業会社である「くふうしずおか」では非エンジニアである代表自らが GPTs を作り、日々の業務に活かす事例も出てきました。
またエンジニアは 91.6%と高く、入社後間もないなど事情があるメンバーを除くと 100%に迫る勢いでした。これは、グループのプロダクト開発を担当するくふう AI スタジオが全社的に GitHub Copilot を導入していることが大きく影響しています。
まとめ
この 1 年、生成系 AI・LLM の発展は目覚ましく、よりよいモデルが続々と登場するなど専門チームであってもキャッチアップが大変な状況でした。普段、営業やユーザーサポートなど AI が業務のコアにない職種のメンバーではなおさらです。
しかしながら AI を事業にも組織にも効果的に取り入れていくには、どんなことが今できるのかを知ることと、どう業務やプロダクトに落とし込めるのかをイメージしていくことが非常に重要です。くふうカンパニーグループは、今後もグループ全体で最先端の AI を実務に取り入れつつも、組織全体がボトムアップしていく仕組みづくりに取り組んでいきたいと考えています。
くふうカンパニーグループのプロダクト開発を担うくふう AI スタジオでは、AI に関わるエンジニアをはじめ、データに係る職種や技術研究を担う方を積極採用しています!