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「母の日」の、はなし。#33

5/12(日)は母の日。

SNSを覗いてみれば、人さまの母の日事情はいろいろに見えてくる。
手作りケーキをつくる人、お花をわたす人、豪華なディナーをご馳走する人。

そしてもちろん、同世代の友人たちの中には、母側の視点で母の日を過ごす人もたくさんいる。息子がこんなプレゼントをくれた、旦那と一緒にこんなものを作ってくれた。などなど。

子供の頃、まだ世にSNSというものが存在していない時代には、各家庭がその日をどんなふうに過ごしているのかは会話でしか情報を得られなかったし、あまり母の日が話題になることもなかったような気がする。それゆえに、きっとみんながみんなカーネーションを1本贈る日なのだろう、くらいに思っていたが、あの頃、みんなは一体どんな形で感謝を伝えていたのだろうか。

32歳で迎えた今年の母の日。
私にとっては例年どおり、自分の母親を労うための日となった。

母の日と同じく、子育てについても、人さまのご家庭事情がわからない限り比較した物言いはできないが、私の母の子育ての歴史は、かなり辛く苦しい記憶なのではないかと思っている。

私が物心ついたときには父親が家を出ているので、私が成人するまでを一区切りとしても、15年以上もの長い間、3人兄妹をワンオペで育ててきた。兄妹それぞれが自由気ままに、やりたいことはやるし、許せないことにはとことん憤慨して不機嫌になるし、反抗期は目も当てられないほどの暴れっぷりだった。
私はその中でも、特に母の“時間”をたくさん奪ってきたと思う。習い事の人間関係がうまくいかずに、地元のチームから、片道1時間かかる他チームに移籍したりもした。もちろん、毎日のように母が運転する車で往復して。

そんな私たちの生活を見かねてか、ある日、母と同世代の方(別の習い事の先生)に、こんなことを言われた。

「あなたは自分のやりたいことをこれだけやらせてもらっていることに、もっと感謝しなさい。今こうして習い事ができるのは、お母さんの大事なお金を使わせてもらっているから。そしてお母さんにとって、何よりも大切な時間。その絶対に取り返しのつかない時間を奪っているんだということを、もっと理解しなさい。」

言い方はもう少しやわらかったと思うが、後にも先にも、これだけ母親のお金と時間のことを話してくれる大人はいなかったので、強烈に覚えている。
今、自分がある程度の年齢になって思うのは、これを赤の他人が言うには、相当な覚悟が必要だったのではないかということ。(*これを話しているとき、母も同じ場所にいた。)
でも、自分の人生のほとんどを子育てに捧げているのにも関わらず、それがどれほど大変なことなのかをまるで分かっていない子供を見て、同世代の女性として心から許せなくて、悔しかったのだと思う。
その当時には半分も理解しきれなかったかもしれないけれど、今こうして母の苦労の歴史を少しずつ慮って労わねばと思えるのは、母からは出なかったであろう言葉をまっすぐ伝えてくれた、あの先生の影響が大きいのではないかと、ひしひしと感じる。

今更ながら、その節はありがとうございました。そして、自分勝手な子供でごめんなさいでした。(私はこの方にも相当楯突いていた記憶が、、)

そんな怒涛の子育て期には、友達と出掛けたり、旅行に行ったりする母の姿は、まるで記憶に残っていない。これは本当に申し訳ないことだったなと、今になって、俯瞰で見られるようになって、やっと気がつけるようになった。

時を経て、最近の母はというと。
変わらず仕事もしながらではあるが、休みの日はかなりアクティブに過ごしているようで、身体の動くうちにとばかりに、全国津々浦々、ひとり旅であちこちを巡っている。
一度、私の体調がよくないときに母親のヘルプを求めようと電話をしたら、青森でねぷたの山車が通るのを待っている、なんてこともあった。笑

そんな母のアクティブさは、娘としては嬉しいもの。
本当は、もっと若いうちに、いろんな素敵な時間を過ごせたらどんなによかっただろうかとも思ってしまうけれど。身体が丈夫なときに毎日向き合っていたのは、まるで口を聞かず、何が不満かも言語化しないままに、過食に走り続ける娘と、荒れている兄たち。(兄たちは私のことではないので詳しくは伏せるが、そちらもそちらで大変だった。)

過ぎた時間は永遠に帰ってこないけれど、今この瞬間を、思いのままに過ごしてほしい。時々、同じ話を繰り返していたりすると、不安に駆られてちょっと胸が痛むこともあるけれど、その元気な姿のままで、やりたいことを沢山やって、見たいものを沢山見てきてほしい。今切実に願うのは、本当にそれだけ。

さて、今回の母の日に話を戻すと、今年はちょっと素敵なアフタヌーンティーをご馳走して、その後、一緒に落語を見に行くことにした。自分のやりたいことは自分で見つけてくるだろうから、私が最近出会った面白いモノを、ぜひ体験してもらおうと思ったのだ。

『鈴本演芸場』5月12日の番組

この日行った鈴本演芸場では、春風亭一之輔師匠による特別企画公演『愛すべきバカ野郎たち』をやっていた。お目当ては一之輔さんだったものの、母が子供の頃、TVで見たことがあるという紙切り・アコーディオン漫謡など、童心にかえれるプログラムが満載だった。トリで登場した一之輔さんの落語は、まさに“話す芸術”で、1時間に及ぶ超大作だったが、ひとときも飽きさせず終始笑いが途絶えない、しあわせな時間だった。
 
今は離れて暮らす母。
どうかこの寄席が、苦しかった時代をも慰める癒しの光景として、
ながく、その心に残っていきますように。

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