§.3 S:Safety【災害医療学講座】
<CSCATTT、今回取り上げるのは、これ!>
C: Command & Control
S: Safety←今回取り上げるのは、これ!
C: Communication
A: Assessment
T: Triage
T: Treatment
T: Transport
<3つのSを守るべし>
平時の診療においては、安全を取り立てて考えることなどほとんどないだろう。しかし、様々な場所に危険が潜む災害現場の診療においては、安全を”管理”することの重要性は極めて高い。安全を考えるにあたっては、Self(自分自身)、Scene(現場)、Survivor(傷病者)の3階層で考える。
<Self(自分自身)>
感覚に反するかもしれないが、災害医療において何よりもまず確保しなければならないのは自分自身の安全である。ここには、ヘルメットや安全靴などの個人防護具の使用が含まれる。被災地で活動する以上、普段通りのスクラブや白衣では安全とは言い難い。
さて、どうして一番最初はSelf(自分自身)なのか。もしもあなた自身が災害の被災者になってしまった場合には、災害医療チームが支援しなければならない傷病者が1人増えてしまう。また、あなたが所属するチームは活動継続困難となり、本来であれば実施できたであろう支援を行うことが叶わなくなる。あなたの身の安全が第一であるのと同時に、余計な仕事を増やさず、継続して活動が行えるようにするために、まず守るべきは自分自身なのである。
<Scene(現場)>
Scene(現場)において考えることは、「ここで活動しても安全か/ここにいても安全か」である。それは、被災地の病院で活動する場合にも、被災現場に出て行って活動する場合も同様である。今にも崩れそうな病院や、今にも土砂崩れが起こりそうな山際で活動するのは安全とは言えない。
Scene(現場)について考える際に必須となるのは、ゾーニングの概念である。ここからここの範囲は危険である、一方、ここからここまでは安全性が高い、などと区分を設けた上で、できる限り安全性が高いと判断したエリアで活動を行うよう工夫する必要がある。
ちなみに、倒壊の可能性が高い病院等では、そもそもに病院内に「ここからここまでは安全性が高い」と考えられるエリアが存在しないかもしれない。こういった場合には、病院側とも相談の上、患者を全員病院から避難させるオペレーション(病院避難)が検討される。
<Survivor(傷病者)>
自分自身の安全が確保でき、活動場所の安全が確保できて初めて、傷病者の安全確保に動き出すことができる。傷病者の安全確保については、特記事項が特にない。何か挙げるとするならば、傷病者の安全確保の前に自分自身と現場の安全確保が検討・実施されている必要があるということである。
<災害現場のリスクをどう扱うか>
上記の3つのSの原則を学習した上で、実際に災害現場のリスクについて考えてみたい。
災害の起こった現場で活動を行う以上、大前提としてある程度のリスクがあることは受容しなければならない(そもそも、リスクゼロで災害現場に入ることは叶わない。)
その上で、
1)どんなリスクがあるかを想定
2)避けるリスクを決める/どこまでのリスクを受け入れるかを決める
3)受け入れるリスクをできる限り抑える
4)想定していないリスクに対応する準備をする
ことが必要となる。
<”リスク”を理解する>
「リスク」とは、「危害の程度」×「発生頻度」でとらえることができる。
すなわち、
〇発生することが稀であり、発生しても危害が少ないイベント(例えば、安全が確保された雨の降った被災地で、足元がぬかるんで滑って転ぶこと)は低リスクと言える。
〇発生する可能性が高く、発生すると危害が大きいイベント(例えば、今にも崩れそうな病院の中で長時間の作業を行い、余震での病院崩落に巻き込まれること)は高リスクと言える。
図示すると、リスクは下図のようになる。そして、受容リスクに示されるように、どこまでのリスクを許容するかを決定するのである。
<リスクを分析して対策する>
では、上図を見ながら実際にどのように検討を進めるのかを考えたい。
◇まずは「1)どんなリスクがあるかを想定」、すなわちリスクの洗い出しを行い、図上のどこに該当するのかを検討する。病院の倒壊から、夜になって暗くて活動が困難になるといったものまで、思いつく限り挙げる必要がある。
◇次に「2)避けるリスクを決める/どこまでのリスクを受け入れるかを決める」必要がある。避けるリスクを決めるとは、例えば、地震の影響で明らかに倒壊が迫っている病院の支援を行う際には、院内に入ることは高リスクと判断して院内での活動は行わず(避けるリスク)、病院前の広場で搬送調整の支援を行うことにする等である。
◇また、病院が倒壊しかかっているのだから、病院前の広場も十全に安全であるとは言えないため、「3)受け入れるリスクをできる限り抑える」方策として、消防等関係機関との連携を密にして危険性に関する情報がすぐに入手できる体制を作ったり、個人防護具の装着を徹底したりといった対応も検討する必要がある。
◇加えて、全てのリスクを事前予測できるわけではないため、「4)想定していないリスクに対応する準備をする」必要があります。例えば、衛星電話を始めとして複数の連絡手段を準備することで、連絡手段が失われにくい状態を作ったり、特にリスクが高い場所で活動する場合に定時連絡を上位本部に行うこととして、現場での以上に気付いてもらえるようにする等、不足の自体に対応するための準備も行う。
<Column>
Safetyは特に、想像力が求められる分野であるように思う。事前に想定できていないリスクに対応することは、困難を極めるからである。だからこそ、他のメディカルスタッフとディスカッションを行う機会を持って視点や気づきを共有することで、事前に想定することのできるリスクを少しずつ増やしていくことは、大変重要であろうと思う。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?