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トラウマの地が大好きになった話

トムとジェリーが苦手な子どもだった。
トムがローラーに引かれてペラッペラになったりピタゴラスイッチみたいに色んな痛い目に遭うのが可哀想で笑えなかった。
カートゥーン的ユーモアが理解できるようになったのはかなり大人になってからのように思う。

私が5歳で初めてディズニーランドにいった時、トゥーン・タウンはトラウマになった。
TNTと書かれたレバーを押すと、近くにある建物から爆発音がして中がごうごうと燃えている演出がある。
私のせいで建物が火事になったと思ったし、中に人が居たらどうしようと不安に思ったが、両親の「どうだ、楽しいか」という視線に負けて言い出せなかった。
牢屋に入れるフォトスポットで写真を撮ってもらったけど、さっき建物を爆破させてしまったから罪に問われたのだと思って悲しくなった。

こんなに色とりどりでポップな町並みなのに怖いことばかりで、ギャップが気持ち悪かった。
周囲の客は大人も子どももみんな楽しそうに笑っていて、こんなことを考えているのは自分だけのようだった。
トゥーン・タウンに「ロジャーラビットのカートゥーンスピン」という乗り物がある。
目と口がついた黄色いタクシーに乗ってアニメの世界を巡るアトラクションだ。
タクシーにはハンドルがついているが、自転(スピン)させられるだけで進行方向が変えられる訳ではなく、
360度ひろがる二次元すぎる世界を否応なく進んでいく。
装飾は蛍光色なのに全体的に薄暗く、ハンマーやロケット等やたらと武器が出てきて、主人公と思しきウサギはいつも何らかの被害に遭っている。
何が何やらわからない内に事件は解決しており「ほら見て!インスタント穴(あな)~!」とウサギが手を伸ばす漆黒の穴に黄色いタクシーごと飛び込んで終わる。
原作を知らずに乗るそれは無秩序の極みであり、トゥーン・タウンへの畏怖を強める体験となった。

それから30年弱。
私は、トゥーン・タウンを克服した。
ロジャーラビットは今や心の友であり、インスタント穴は混沌極める現代社会の希望の光である。
何が起きたか。
Disney+で原作の映画「ロジャーラビット」を観たのである。

~あらすじ~
人間とアニメが共存するハリウッド。アニメに弟を殺された過去を持つ探偵バリアントはアニメの美女ジェシカの身辺調査の依頼を受けるが、殺人事件に巻き込まれてしまう……。バリアントは殺人犯にたどり着き、アニメの街トゥーン・タウンを守ることはできるのか?

普通に人死ぬんかい、とか、第一被害者の名前が「アクメ」なの気まずすぎるだろ、とかいろいろツッコミどころはあるのだが、そんなことはどうでもよくなるほどアニメ表現の鮮やかさと脚本の秀逸さが素晴らしい。
後半にかけてどんどん面白くなっていくのだが、ヴィラン(悪者の敵)であるドゥーム判事がめちゃくちゃ良いので本当に観ていただきたい。
帝都物語の加藤に似た不気味さと脅威的な強さ。
悪のカリスマってなんであんな色気があるんでしょうね。
(私は怖い人にエロスを感じるたちなのでヴィランを全体的に性的に見ている節がある。)
ドゥーム判事を演じるクリストファー・ロイドさんはバック・トゥ・ザ・フューチャーのドク役でおなじみ。
ドクの目をキラキラさせて夢に向かって突っ走る姿を見て、こんな可愛いジジイって他に居ないジャン……、とときめいていたので、ドゥーム判事は似てるけど別人だと思っていた。
素晴らしい俳優さんだ。
アダムス・ファミリーの長男も彼だというから顔色が悪いのがお似合いである。
(シザーハンズとかマスクとかハリウッドのコメディで活躍する俳優さんって白塗りだろうがなんだろうが関係ないから凄すぎる)

最初の1文以外ドゥーム判事のことしか書かなかったけど、とにもかくにも映画自体が非常に良かった。
ここ1ヶ月、未視聴のDisney映画を10本以上見たが、一番良かったかもしれない。
(他に特に良かったのはバグズ・ライフとポカホンタス。)

こんなに躍起になってDisney映画を見ていたのは夫と友人とでディズニーランドに行き、翌週には夫とディスニーシーに行く予定があったからだった。
そして迎えたランド当日。
美女と野獣、ジャンボリーミッキー、ホーンテッドマンション、ハーモニー・イン・カラー、ヴィランズ・ハロウィーン"Into the Frenzy"と見たかったものを次々に制覇し、あっという間に時は20時。
パン・ギャラクティック・ピザポートで美味いサラミピザを友人から頂きながら言った。
「ロジャーラビットに乗っても良いでしょうか」
ヴィランズ目的でインパした友人をトゥーン・タウンに誘うのにはサラミ一切れほどの勇気が必要だった。
「絶対行きましょう!」
10年前に知り合って以来ずっと敬語の友人は二つ返事で乗ってくれた。

夜のトゥーン・タウンは一層恐ろしい。下からライトが照らされて稲川淳二の怪談みたいだ。
しかし、ロジャーラビットを視聴済みの私にはキラキラと輝いて見えた。
「これがあの、トゥーン・タウン!!!」
バリアントがアニメの街に足を踏み入れた時のカオスな情景が目の前に広がっていた。
サザエさんのEDみたいに膨らんでいる建物、手が生えていて冗談を言ってきそうな信号機!

例のTNTの火事現場にも寄らせてもらう。
レバーを押す度に音が違うが、基本的には建物が家事になる仕様にはなっている。
うん、これはまだ怖いね。
こういう時に今の世界情勢を思って笑えないのが私である。
NO MORE WAR.

満を持してロジャーラビットへ。
このアトラクションの館内は嫌に暗く、ずっと物騒だ。
待機列でもゴミゴミした街の路地をすり抜けて行くようなスリルを味わう。
作中に登場したタバコを吸う赤ちゃんやアニメを融解し殺す為の液体DIPも出てきてテンションが上がる。
今ならわかる。ハードボイルドとカートゥーン的ユーモアの融合なのだ、きっと。

10分も待たずにキャストさんに案内される。
ここのキャストさんのネクタイやリボン、シワが書いてあるだけでペラペラなのが鬼のように可愛くて白目をむきそうだった。
アニメの街の住人なんだね、ありがとう。
そして表れる黄色いタクシー!!もう赤の他人じゃねえぜベニー・ザ・キャブ!!安全運転で頼むよ!!
二人乗りに大人がギチギチです。
先に乗り込んだ友人がこれでもかとスピンしており今日イチのボケをかましていた。閉園30分前の特大サービスありがとう。
割と初手でアニメ殺し液DIPに足を取られ、スピンしてしまいます。
ハンドル動作が効かないのってそういう演出だったんだ!
やべえ!俺たちあん時のバリアントだよ!!!マジでどうしよう!(大歓喜)
くびれがセクシー過ぎるジェシカを尻目にビカビカ光るナゾのトンネルや身に覚えが無い縛られてるゾウの下をくぐり抜けて行く。
(重い物を上から落とされて死ぬというのはアニメ殺人の常套手段なので原作の中でも問題になっており、私たちもその命を狙われているということなのかもしれません。普通におっかねえ。)
しばらく薬物中毒者が見る悪夢のような世界観が続き、時にビルから落っこちたりして進んでいくと、敵のイタチがDIPをぶっかけようとしてくる。
原作ではクライマックスのすげーハラハラするやつなのでこれもかなり嬉しかった。
なんやかんやあって切り抜けた先にはロジャーの姿が。
「ほら見て!インスタント穴~!」
うおおおおおおお!!!!!!!インスタント穴じゃねえか!!!!!!!!!!!!!!
30年前には全く意味がわからなかったインスタント穴がこんなにありがたく感じられる日が来るなんて。
両手を合わせて穴を抜けさせていただいた。

アトラクションを抜けてもまだトゥーン・タウンの中に居られる喜びに打ちひしがれた。
トゥーン・タウンってこんなに楽しかったんだ。
この世界(エリア)でただ一人、笑顔になれない自分を孤独に感じ、怯え続けている5才の私を心の中で抱きしめた。

大丈夫、あなたは何も悪くないよ。
お父さんもお母さんも、あなたを喜ばせようとしてくれてたけど、意味がわからなくて怖かったよね。
もう少し大人になったら、自分のペースで知ることができるよ。
そして大好きな旦那さんと最高のお友達とここに来て、とっても素敵な思い出になるからね。

こうしてトゥーン・タウンはトラウマの地から大好きなエリアになったのだった。


そんな訳で、ロジャー・ラビットを観てください。

開始5分で蒲田行進曲からのビビデバMV(もしかして元ネタこれ?)!
ディズニープラスでもAmazon primeでも観られます。
(ただ、子ども向けではないかもしれません。個人的には大人の嗜みを集めた娯楽作品と捉えています)

そしてカートゥーン・スピンで体感してください。

この薄暗さ、ハンドルの効かなさ。
人生は不条理で無秩序だと教えてくれるでしょう。

最後までお読みいただきありがとうございました。
またお会いしましょう。


2024.10.31 追記
レビュー能力の高さに定評がある友人が当記事をきっかけにロジャー・ラビットを観てレビューを書いてくれました。
令和に流行れロジャー・ラビット!!!!


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