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『最悪』卒業の日

「納得は全てに優先するぜッ」

漫画『スティール・ボール・ラン』でジャイロ・ツェペリが放つ印象的な言葉。私の大好きな言葉だ。

意味があるのかないのか自分でもわからない家事のこだわり、忙しい中わざわざ時間を作って受診した病院で貰う気休めの薬…でも納得することが大事だから。滅多に行けない旅行先の食事、ここでしか買えないお菓子、子の七五三の写真、「ちょっと予算オーバー?いや、ここでケチったら後悔する」…納得が大切だから。先日行ったソラマチのマックスブレナーで、チョコパフェとチョコフォンデュとチョコピザを取り4000円を超えた。納得するために子と3人で真剣にメニューを眺めた。かなり胃もたれした。財布の紐が緩い。

仕事においても、この言葉はいつも優しい。何度この言葉に慰められたことか。

特別支援学級の担任をしている。支援級の児童への指導が主だが、通常級で困っている子に対して、担任や保護者からの相談にも乗る。ほとんどの保護者は、特別支援学級のことを次のように言う。「最悪の場合、そちらへ行かなきゃいけないんですよね」

最悪。我々は最悪です。最悪の学級、最悪の担任、そこまでは許そうか。最悪の学級にいる子どもは、最悪の子どもか。そんなつもりはないとわかっているが、無意識に発せられる暴言ではないのか。

通常級から支援級に移るお子さんは、どの子も深く深く傷ついてからやってくる。通常級で、みんなと同じようにやれない自分に苛立ち、友達から何を注意されるんだろうといつも不安で、授業も集団行動も今何をすべきなのかがわからず、わからないうちに人を怒らせ、自信を失い、ついに休みがちになるのだ。

傷ついた子どもに対して、「困った癖」を厳しく矯正しながら、絶えず勇気付ける。そういう仕事をしている。彼らを明るく元気で根気強さを持つ人に育て上げるのは、大変な労力を必要とする。(誤解されやすい彼らが周りから嫌われないように、通常級では考えられないほど細かくて厳しい指導をする。苦手なことが多い彼らは、周りから助けてもらったり、大目にみてもらったりして生きていかなければならないからだ。挨拶、返事、報告、謝罪、お礼、素直さ、集中、根気強さ…誰からも可愛がられる人になって欲しいからこそ、とことん厳しく指導する。はっきり言って、オニババである)

通常級で困っているお子さんは、できれば深く傷つく前に我々のところに来て欲しい。でもそれが難しい。傷ついて、傷ついて、もうだめだ、もう限界だと子ども自身と保護者が認めない限りは、覚悟が決まらない。「仕方ないよね。納得することが重要だからね」…組んでいる先生と毎日そんな会話をして、我々自身もまた納得するのだ。

『最悪の担任』として、無意識の鋭利な差別意識に身を切られながら、ジャイロ・ツェペリの言葉に励まされて日々働いている。保護者が感じているものは担任の比ではないはずだ。当事者やその家族が受ける痛みを少しでも減らしたい、そのためにも一緒になって痛みを引き受ける必要がある。自分が担任として受けた痛みを、学年の児童に、先生方に、全校に、伝えなくてはと思う。手の届く範囲だけでも、変えていきたいと思う。

オニババでもいい、『最悪』卒業の日が来ますように。






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