簡単な数字で振り返る2023年東京六大学野球
あけましておめでとうございます。シュバルベです(๑・̑◡・̑๑)
新年一発目のnoteは東京六大学野球の昨年の振り返り記事にしようと思い立ちました。毎年、開幕前に見どころの記事を挙げていますが、振り返りの記事は週間ベースボール社刊行の『大学野球』でインタビュー含めて充足されているためそこまで厚くは書いてきませんでした。
しかし、せっかく公式サイトで一般的な数字を揃えられるということもあり、昨年の振り返りをしてみようかと思います。
年始のお暇つぶしの一助になれば幸いです。
1.今年の東京六大学野球をチーム別の数字で見る
今年の東京六大学野球を語る上で、コロナ禍がひと段落し、応援団と観客が一体となったスタジアムが戻ってきたという大きな変化はまず挙げなければなりません。
2020~2022にかけてどこか距離のあったスタンドとグラウンドに立つ選手たちという構図から、スタンドからグラウンドへ後押しをしていくシーズンへの回帰。数字よりも大きなこの変化は神宮球場に足を運ぶことでしか体感できないものでした。数字以上に大きな無形の変化を生で感じられてとても良かったです。
さて、そんな各大学の繰り広げる2シーズンの戦いで、春と秋の順位は以下のようになりました。
春のリーグ戦では明治大学が85年ぶりのリーグ戦三連覇を達成。戦績も10勝1敗1分けという圧倒的な数字です。6月に行われた全日本大学野球選手権大会では決勝戦で青山学院大学に敗れたものの準優勝。
秋のリーグ戦では慶應義塾大学が2021年秋季リーグ以来の優勝を果たし、11月に行われた神宮大会でも青山学院大学を下して優勝。夏の高校野球でも慶應高校が優勝するなど、2023年終わってみればアマチュア野球においては”Enjoy Baseball”を標榜する慶應フィーバーという1年でした。
以下、大学別に春と秋の数字を見ていきましょう。
1-1.チーム別投手成績
まずは投手の指標を春と秋で比較しましょう。
主要な指標をまとめたのがこちら。
秋季リーグ優勝の慶應義塾大学は春・秋とも防御率はほぼ同値、被弾は春7本に対し秋2本と大きく減らしました。奪三振率は決して高くありませんが、与四球率は秋に改善され、今年のリーグ戦前には不安視されていた投手陣の整備はエース外丸東眞投手を中心に1年かけて上手く行ったと考えてよさそうです。
春から秋にかけて数字を大きく良化させたのが、元プロの小宮山悟監督率いる早稲田大学。春は防御率・奪三振率がリーグ5位、与四球率はリーグ6位という散々な結果でしたが、秋は先発に定着した伊藤樹投手の好投も光り防御率は2点以上改善したリーグ2位。奪三振率・与四球率も大きく改善し、最終節の早慶戦まで首位争いを繰り広げました。
秋に法政大学戦で1勝をあげた東京大学は2季とも防御率6位に沈んだものの、東京大学の歴史の中ではこの秋の防御率4.94は2016年以降のシーズンでは最もよく、特に与四球率が2季続けて1桁%台だったことは特筆すべきでしょう。
個人的に秋の優勝候補だった法政大学は、春季リーグでは奪三振率TOPで防御率も明治大学に次ぐ2位の1.72、Wエースの尾﨑完太投手と篠木健太郎投手の奮闘の結果が出ました。しかし、秋は篠木投手の故障もあり被弾数以外のすべての数字を春に比べて落としてしまいました。
春季リーグ優勝の明治大学は春はチーム防御率が驚異の1.47をマークしましたが、秋はエース村田賢一投手の不振もあり奪三振率以外はTOPの座を慶應義塾大学に譲る形に。しかし投手の力量に依る所の大きな指標は決して悪くなく、被安打の数の増加というアンコントロールな部分の影響値が大きくなっています。
春秋ともに東大戦の2勝どまりで2季連続5位に沈んだ立教大学は、投手陣が整備できず防御率4点台。被弾は2季連続で2桁、被安打もイニング数より多く打たれてしまいました。
1-2.チーム別野手成績
続いては野手の指標を春と秋で比較しましょう。
主要な指標をまとめたのがこちら。
慶應義塾大学は春→秋にかけてすべての数値が大きく向上。唯一、2季続けてチーム2桁本塁打をマークし、秋は特にチーム出塁率.363と最も高い数字を残しました。打順別OPSでは秋に1~7番まで全打者OPS.700を超える強力打線を形成。盗塁数も春2個から秋12個と大きく増加するなどまるで別チーム化のような変容を遂げました。
早稲田大学は春と秋で大きく数字は変動せず、秋の方が本塁打数が4本少ない分長打率をやや落としました。打順別にみると、OPSの高い打者と低い打者が交互に並ぶ傾向が続いており、集中打による畳みかけが難しいことが分かります。
東京大学は春はチーム打率が2割を切り、OPS.446と低迷。打順別にみても1番打者のみしか期待できないという状況でしたが、秋は2017年秋季リーグ以来となるチーム打率2割越え。チームOPS.502と長打率の低さゆえにOPSは上がり切らなかったものの、3番・7番打者もOPS.600以上をマークし警戒度を上げることに成功。盗塁数は2季ともリーグ上位につけ、犠打数をともに上回っています。
法政大学は春に比べて秋に大きく数字を落としました。顕著なのは本塁打数で、春10本に対し秋はわずか2本。長打率.396→.311と大きく落ちた要因となりました。ただ、チームとしての打点数は横ばいで、打てる打者を固めた打順組みと盗塁数の増加(春7個→秋22個)による得点効率の良化が功を奏したと考えるべきでしょう。
明治大学は春は打率・出塁率・長打率いずれもリーグトップ、チームOPS.822と圧巻の成績でしたが、秋季リーグでは一転してチームOPS.618のリーグ5位。打順別にみると2番打者のOPSが春はOPS.1.038とリーグ屈指の成績から秋OPS.520と大きく減退した点が目立ちます。四球率も秋は減少し、チームとして出塁することが難しい中で盗塁の数も落ち、その一方で犠打の数は変わらなかったことで得点期待値を減らしたと言えそうです。
立教大学は秋に不祥事があったものの、野手の成績は春に比べて打率・出塁率・長打率いずれも大きく良化。春は打順別OPSのトップが9番打者という惨状でしたが、秋は3番打者と6番打者がリーグ屈指のOPSを叩き出しています。その割にチーム得点数が伸びていないのは、打てる打者を離して配置していることに起因していそうです。
2.チームごとに詳しく数字を見る
大きなチーム単位の数字を1章では確認したので、次の章では個々のチームの中身を春→秋の変化で見ていきましょう。
4年生の中にはプロ野球ドラフト会議で指名される選手もいました。今年のプロ志望届提出者についての記事も別途書いておりますので、ご参考まで。
NPB球団から指名された選手は以下の4名。
指名された選手はおめでとうございます、指名はされなかった選手も多くが名門社会人チームなどに進まれることが決まっており、新たな門出となります。
それではチーム別に春→秋の変化をより細かく選手ベースで見ていきましょう。
2-1.慶應義塾大学
個人別の投手成績は以下の通り。
「外丸無双」と一部では称された通り、外丸東眞投手(前橋育英②)が年間で123イニングを稼ぐ大奮闘。
全投球回の実に47%を外丸投手が消化しました。春の慶早戦3回戦で1-0の完封勝利、秋の法政戦3回戦で11回無失点など大事な試合での力投が印象的です。成績面でも春・秋共に防御率1点台、年間でリーグ戦9勝2敗、11月の神宮大会でも2勝をマークし優勝投手にもなりました。
4年生で登板したのは谷村然投手(桐光学園④)と森下祐樹投手(米子東④)の2人だけでしたが、先発にリリーフに与えられた場所でしっかりと結果を残し秋の優勝にも大きく貢献しました。
特に森下投手の秋の奪三振率28.9K%は圧巻で、アームアングルを再び上げたことで球速も上がり4年間の集大成のシーズンとなりました。
秋に台頭したのは1年生右腕の竹内丈投手(桐蔭学園①)。動くボールを武器に3先発含む7登板で2勝をあげ、神宮大会でも先発起用されるなど外丸投手とともに来年以降も慶應義塾大学投手陣の中心になっていきそうな新しい力となりました。
春に4試合8イニングを自責0に抑えた左腕の荒井駿也投手(慶應②)、秋に主にワンポイントとしてピンチの火消しを任された右サイドスローの木暮瞬哉投手(小山台②)の2年生コンビも今後に期待です。
大エースを中心に、春から秋にかけて使える投手を下級生から見出し、投手成績を上げることに成功した堀井監督およびスタッフの手腕は見事の一言でした。
続いては個人別の野手成績(10打席以上)。
1章のスタメン打順別OPSでも分かるように、秋に他を寄せ付けない強力打線を作り上げた慶應義塾大学。秋はほぼメンバーを固定し圧倒的な打力を誇る打順を形成しましたが、その中心には卒業を迎える4年生たちがいました。
プロ入りしたキャプテンの廣瀬隆太選手(慶應④)は年間7本塁打、累計20本は岡田彰布氏に並ぶ歴代3位タイ。コロナの短縮シーズンを経験した上での数字であることを考えれば、廣瀬選手の飛ばす力は歴代の東京六大学パワーヒッターの中でも屈指のものでしょう。
今年は春・秋ともにリーグ戦では決して満足できない数字だったと思いますし、率が残らなかった点をご本人も気にされていましたが、春の早慶戦3回戦1-0での1点は廣瀬選手の一発による勝利でしたし、なんといっても神宮大会の準決勝日体大戦での逆転スリーラン含む2本塁打はここぞで試合の趨勢を決めるゲームチェンジャーとしての働きでした。プロでも求められるのは率よりも一振りで試合を変えるパワーなはずです。
春は1番打者にスタメン起用された選手は6人いましたが、同打順でのOPSは.574と低迷。空位だった1番バッターの位置を秋に射止めたのはセンターを担った吉川海斗選手(慶應④)。個人としては春・秋ともに打率3割と出塁率4割以上を記録し、強打のリードオフマンとして秋の快進撃を支えました。
2季連続のOPS.900超え、主に4番を担った栗林泰三選手(桐光学園④)は27打点と年間での最多打点を記録。三振を恐れずバットを振り続けるスラッガーとして廣瀬選手の後ろに控え打点を荒稼ぎしました。
春から秋で大きく数字を伸ばした選手が多かったのも慶應義塾大学の特徴です。
その筆頭は4年生捕手の宮崎恭輔選手(國學院久我山④)。春は打率.327を残すも長打不足でOPS.785に留まりましたが、秋は3本塁打を放ちOPS.1.108。栗林選手に次ぐ24打点を年間で記録し、リーグ屈指の中軸を構成しました。
24年度のキャプテン就任が決まった本間颯太朗選手(慶應③)も春は大不振でOPS.552、失策も6つと攻守に精彩を欠いてしまいましたが、秋は3本塁打含むOPS.962で失策0。夏の厳しい練習を超えて頼れる中軸打者に成長しました。
春はセンターとファーストの2ポジションを吉川選手と分け合った水鳥遥貴選手(慶應③)もOPS.477→.715と大きくジャンプアップ。守備位置も秋からショートを中心とし、12月の日本代表候補合宿にも参加しました。
このように多くの選手が春から秋にかけて打力を上げ、慶應らしい打ち勝つ野球が展開できたことでリーグ戦優勝、そして神宮大会優勝の栄冠を果たしました。
2-2.早稲田大学
個人別の投手成績は以下の通り。
チームのエースは加藤孝太郎投手(下妻一④)。
「下妻の星」と称され、抜群のコントロールで打者を手玉に取るピッチングは今年も健在で、春・秋共に防御率2点台でフィニッシュ。昨年は1点台だったことを思えば悔しさもあったかもしれませんが、年間で投げた全14登板はすべて先発起用という小宮山監督からの圧倒的な信頼はエースのそれでした。
春は清水大成投手(履正社④)が4試合に先発するも3敗を喫するなど2戦目の先発投手に苦しみましたが、秋は伊藤樹投手(仙台育英②)の調子が少しずつ戻りそのポジションを埋めることが出来ました。
今年の伊藤樹投手のピッチングは昨年よりも全体として低調で、特にストレートが球速も球威も出なかったのですが、それでも大きなスライダーは健在で秋は20K%を超える奪三振率をマークしました。
早稲田大学が春と秋で大きく異なる点はリリーフ陣の再整備。
春に150km/hをマークしリリーフエースに登り詰める過程にあった田和廉投手(早稲田実業②)が怪我で戦線離脱、鹿田泰生投手(早稲田実業③)と中森光希投手(明星③)の前年ブレイク組も精彩を欠いたことで再編を余儀なくされたという方が正しいかもしれません。
慶應義塾大学の4年生野手も然り、卒業する4年生が秋に活躍すると嬉しくなるものですが、早稲田大学のリリーバーも4年生が最後の秋に躍動を見せました。
ややアームアングルを上げたことで本来の制球の一端を取り戻した齋藤正貴投手(佐倉④)の復活。ともにリーグ戦未登板だった澤村栄太郎投手(早稲田佐賀④)と前田浩太郎投手(福岡工業④)の2人も早慶戦で打たれるまでは好投を続け、最終カードまで優勝の望みを繋げる役割を果たしました。
23年のリクルートはえぐいと言われていた前評判通り、越井颯一郎投手(木更津総合①)と香西一希投手(九州国際大付①)の2人も秋には戦力化に成功。24年への種まきも出来たシーズンとなりました。
続いては個人別の野手成績(10打席以上)。
チームとしての打撃成績は春と秋で大きく変わらなかった早稲田大学ですが、個人単位では当然上下がありました。
春・秋ともに好成績を残した選手の筆頭は、副将で4年生の熊田任洋選手(東邦④)。2シーズン続けてOPS.900以上をマークし、特に春は打点王にも輝きました。
盗塁も4個ずつ決めるなど、走攻守いずれも充実した1年だったと言えそうですが、惜しむらくは秋に2打点しか挙げられなかったこと。熊田選手の前にランナーをあまり置けず、また4番の印出太一選手(中京大中京③)が不調だったことからプレッシャーも大きくなってしまいました。ドラフトで名前を呼ばれることはありませんでしたが、トヨタ自動車でも打力を武器にレギュラーを狙います。
秋に跳ねた選手が吉納翼選手(東邦③)。春も2本塁打を放ちOPS.811と好成績を残しましたが、秋は3本塁打に加えて確実性を増した打撃で三振を減らして安打と四球を増やす理想的なアプローチが実りOPS1.128。これは規定到達打者の中でリーグトップでした(2位は栗林泰三選手の1.116)。
4年春まで代打で結果を残してきた島川叶夢選手(済済黌④)が秋に一塁のレギュラーを奪取、出塁率・長打率ともに4割を超える活躍を見せたのはかつての今井脩斗選手(現トヨタ自動車)を彷彿とさせました。
また、オーバーワーク症候群の影響で春に出場無しに終わってしまいベンチからも終盤外れていた森田朝陽選手(高岡商④)が秋にカムバック。途中出場から10打席に立ち、早慶戦で2本のヒットを放つ活躍を見せたのはとても良かったです。
期待されていた2~3年生の中心選手が秋にやや調子を落としてしまった中で、早慶戦3試合でサード/ファーストの守備位置でスタメンの座を射止めたのが田村康介選手(早大学院②)でした。10打数5安打の打率5割、守備でもレギュラーだった小澤周平選手(健大高崎②)に負けない前へのチャージの速さを武器に貢献し、次年度以降に期待のかかる新星となっています。
24年チームの主将は印出選手。キャッチャーかつキャプテン、そして4番打者と重責を担いますが、印出選手が打たないとチームとしても乗っていけないことは過去4シーズンからも明らかなためどうにか打ち克って欲しいですね。
2-3.東京大学
個人別の投手成績は以下の通り。
近年の東大野球部の歴史の中で最も良質な成績を残した2023年。エースとなったのは唯一の白星も挙げた副将の松岡由機投手(駒場東邦④)です。
春は規定投球回到達者10名中6番目の防御率3.82、奪三振率が与四球率を上回り、3度のQSを達成。秋は春よりも数字は落としたものの、法政大学戦では粘りの投球で値千金の完投勝利を挙げました。年々身体を大きくし、スタミナも精神面もタフに投げ続ける右腕でした。
春は松岡投手と対になる左のエース、秋はやや調子を落としたためリリーフ起用がメインとなりましたが高いスタッツを残したのが鈴木健投手(仙台一④)。与四球率が4.5BB%と非常に好成績で、ゾーンの中で緩急を使い攻めの投球を最後の秋に見せました。
東大からは過去を振り返っても横山優一郎投手(20年度卒)や綱嶋大峰投手(22年度卒)のようにリーグ戦未登板ながらラストイヤーで輝きを放つ投手が多く出てきますが、今年度そのポジションになったのが三田村優希投手(奈良学園登美ヶ丘④)と青木麟太郎投手(筑波大駒場④)の2投手でした。
三田村投手は秋に8試合を投げて防御率2点台。三振数が与四球数を上回り、被安打も少なかったことでWHIP0.77は他大学のリリーバーと比べても遜色なく有終の美を飾りました。
青木投手はリーグ戦最終盤に3試合登板、4イニングを投げて失点はソロホームランの1点のみ。今年度手薄だった貴重な左のリリーフの一角を最後に補いました。
次年度に繋がる大きな収穫が平田康二郎投手(都立西③)です。年間で被弾は0。春はリリーフ起用で11イニング3失点、防御率2点台でフィニッシュ。秋は4試合の先発起用もあり防御率4点台。23年度のチームでエース格を担った松岡・鈴木の両投手よりも現段階の成績は上で、今年のエース候補の筆頭となります。
続いては個人別の野手成績(10打席以上)。
チームを牽引するのは12月の日本代表候補合宿にも召集された酒井捷選手(仙台二②)。1番ライトを定位置に春は1本塁打含むOPS.777を記録、秋にはマークも厳しくなる中でさらにOPS.894と春を上回る成績を残しました。
三振の数も少なくないですが、際どいボールの見極めによる見逃し三振は割り切っている感じがあり、出塁率は2季続けて4割越え。インコースの捌きの技術はリーグトップクラスで、元ヤクルトスワローズの真中満選手の若かりし頃を彷彿とさせます。
春から秋にかけて大きく数字を伸ばした選手の一人が大井温登選手(小松④)。
3年春に10打数4安打の打率4割を残すなどバッティングの当て勘には天才的なところのある選手でしたが、4年秋にその力は遺憾なく発揮され打率.308でフィニッシュ。バッティング以上に守備面での成長が著しく、ファースト守備も捕球・トスともに安定感が試合ごとに増していきました。
守備面で大きく伸びたと言えば、和田泰晟選手(海城④)が全試合で正捕手のスタメンマスクを被り、近年で屈指の投手陣をリードし続けたことは特筆すべきです。3年生でチーム事情を鑑みて外野手から捕手へ転向、打撃はもともと選球眼に優れていましたが捕球・送球の精度に課題を抱えていた中で、キャッチャーらしく成長する姿に拍手を送りたいです。
もう一人、数字を伸ばしたのが山口真之介選手(小山台③)。春には東大のハイライトとなる立大戦での同点満塁弾を放ち、秋は出遅れたもののスタメンに返り咲いてからはOPS.698をマーク。出塁率に優れ、最終戦では酒井選手の次の2番起用でその試合でも2つの四球を選びました。
3年生から主軸を担ってきた別府洸太朗選手(東筑④)はプレッシャーのためか春は苦しんだものの、秋はどこか吹っ切れた様子でリラックスして打席に入って数字も残しました。
秋はチームとしてスタメン2番打者のOPSが.171と酒井選手の出塁能力を活かしきれない形となってしまいましたが、主にその打順を担っていた矢追駿介選手(土浦一④)・中山太陽選手(宇都宮②)の二人とも代打~途中出場では矢追選手が7打数3安打2打点、中山選手が10打数2安打2打点と結果を残しており、スタメン出場の難しさを感じさせます。
春に主に代打で打率3割を残し、秋はシーズン途中にサードのレギュラーを掴み東大が勝った法政大学戦で打点も挙げた内田開智選手(開成③)は24年度新チームでは中軸としての期待がかかる輝きを見せました。
チームをけん引してきたキャプテンの梅林浩大選手(静岡④)が作った23年度も1勝を挙げることができ、その勝利した試合で一塁に途中出場で入った時の歓声は今年の六大学野球のハイライトの一つであり、次年度に勝利のバトンを渡す試合でもありました。
スローガンに掲げた「奪出」とはなりませんでしたが、秋の最終カードまでその希望を残し続けた印象的なシーズンでした。
2-4.法政大学
個人別の投手成績は以下の通り。
春のエースは篠木健太郎投手(木更津総合③)、秋のエースは吉鶴翔英投手(木更津総合③)と木更津総合高校出身の3年生投手2人が躍動しました。
ともにMAX150km/hを超える速球を武器としていますが、篠木投手はカットボールが冴え、吉鶴投手は長いイニングを投げられるだけの制球力を新たな武器としてそれぞれ素晴らしい成績を修めています。
下級生時から成績を残し、22年ハーレムベースボールウィーク、昨年の日米大学野球と2年連続で大学代表に選出された篠木投手ですが、春の防御率0.68での最優秀防御率賞獲得は素晴らしい活躍でした。
吉鶴投手はこの春までなかなか起用法が定まりませんでしたが、秋は先発に定着し高い奪三振率26.7K%に加えて与四球率6.9BB%も非常に優秀。球速は140km/h台中盤ですが、球速以上に差し込まれた反応が多く、緩急も有効に使えていました。
プロ志望届を提出した尾﨑完太投手(滋賀学園④)は強みである奪三振能力を発揮し春は27.5K%と先発投手としては抜きんでたスタッツを記録。しかし秋は疲労なのか故障があったのか、リリース時のフォームの乱れもあったことで制球を乱し、与四球が奪三振数を上回る厳しいシーズンとなってしまいました。
篠木投手も秋に疲労蓄積の影響からか球速が伸びず、シーズン中盤で肘の違和感で離脱。22~23シーズンの2年間で篠木・尾﨑両投手ともフル回転し続け、筆者がたびたび指摘してきた投手運用面での違和感は残念な形で現実になってしまいました。
主力投手の離脱と不調で秋の苦しい台所事情を救ったのが4年生右腕の塙雄裕投手(常総学院④)です。
落差の大きなフォークボールは今年ドラフト1位でNPB入りした明大の上田希由翔選手から1試合3奪三振を奪うなど冴えわたり、すべて中継ぎ登板でありながら秋25イニングと規定目前まで迫るイニング数を消化。終わってみれば14試合で12試合の登板でお疲れ様でしたすぎます。
リリーフのやり繰りが厳しくなったことでようやく3年生以下の投手も一定のイニング数を任されるようになり、山城航太郎投手(福岡大大濠③)、丸山陽太投手(成東②)、古川翼投手(仙台育英①)の3投手が複数試合で登板を重ねました。
投手陣の構造的には慶應義塾大学と似ていますが、過去のリクルートを考えると前シーズン、少なくとも春の段階から信頼して送り出せる投手の枚数を増やす手段はあったのではないかと思わざるを得ず、優勝候補の期待値の高かった分だけ物足りなさは否めませんでした。
続いては個人別の野手成績(10打席以上)。
3年生の春の開幕戦がリーグ戦初出場ながら一気に法政大学の1番バッターの座を手にしたのが武川廉選手(滋賀学園③)。春・秋共にOPS.800を大きく超え、鋭いスイングから繰り出される速い打球で野手の間を抜いていくバッティング。法政大学の右打者で安打製造機タイプはこれまであまり見なかったので新鮮でした。
4年生ではキャプテンの今泉颯太選手(中京大中京④)がしぶといバッティングでチャンスを作り、春は4番の内海貴斗選手(横浜④)が返すという線を作れました。
特に内海選手は春に3本塁打。もともとパワフルな打力が売りでしたが、タイミングを大きく外される空振りが減り、一段階怖いバッターに。4回戦まで縺れた早大戦での9回表逆転ツーランは今年の六大学野球のハイライトの一つでした。
秋は残念ながら内海選手が体調不良を発端に不調に陥ってしまいましたが、その穴を埋めたのは浦和博選手(鳴門④)。
キャリアハイとなるシーズンOPS.900をマーク、自身初のベストナインにも輝きました。22秋〜23春にかけてコンディション不良があり万全な状態で出場できなかった分の鬱憤を晴らすかのような活躍。守備でも一塁と右翼の2ポジションをほぼ同数こなすなど、チームの大きな助けとなりました。
3年生以下では中津大和選手(小松大谷③)が春・秋とも安定した成績を残し、秋は盗塁も武川選手に並ぶ6つを記録。2シーズン続けてセンターで全試合出場し、チームの核となっています。
1年生から出番を得ていましたが少し停滞の感のあった西村友哉選手(中京大中京③)が秋に打率3割。長打は少なく、四球も少ないためスタッツは伸びませんでしたし、盗塁も年間1つですが、高校時代は中京大中京高校の黄金世代で1番を担っていた選手のためまだこんなもんじゃないと思っています。
激しい二遊間争いは、春は高原侑希選手(福井工大福井④)と藤森康淳選手(天理①)が出番を分け合い、秋は松下歩叶選手(桐蔭学園②)が中盤からレギュラーの座を獲得しました。
藤森選手は1年生ながら打率3割を超え、足を活かした走塁で長打も狙える選手。松下選手は秋チームトップの9打点を挙げるなど、投手の台所事情の厳しさに対して野手は下級生の台頭もあり比較的明るい兆しが見える秋となりました。
2-5.明治大学
個人別の投手成績は以下の通り。
春と秋で明治大学は個人の成績を見ても明暗が分かれる形になりました。
エース村田賢一投手(春日部共栄④)が春は3勝無敗、防御率0点台とエースっぷりを見せつけました。マダックスの相性のとおり少ない球数でゴロを積み重ね、春のWHIPはなんと0.58。2イニングで1人走者を出すかどうかというとても優れた数字です。
しかし、秋は夏場の故障も影響したのか球速・コマンドともに本調子にほど遠く、防御率4点台でフィニッシュ。ただ1シーズンの成績で評価が揺らぐことがなく、精緻なコントロールと緩急合わせたピッチング技術でソフトバンク4位指名を勝ち取りました。
村田投手とともにドラフト会議を経てプロ入りした石原勇輝投手(広陵④)も春防御率1点台に対して秋は4点台。ただ石原投手に関しては血の明法戦で突如崩れ3.0回5失点という1試合が大きく影響し、スタッツ的には25.4K%に対して6.0BB%と変わらず優秀な成績を残しています。
秋に最も安定していたのは蒔田稔投手(九州学院④)。明治大学のプロ志望届提出者の中では唯一ドラフト会議にはかからなかったですが、3年春以来の完全復活を期するシーズンが続いていた中で最後の秋に規定到達かつ防御率0点台。内容的にもカーブ、フォーク、スライダーの変化球の精度はここ2年で最も良く、3度のQSを達成しました。
リーグでも屈指の投手陣を誇るため多くの投手が1年間でマウンドに上がりました。3年生以下で伸びた投手を2人挙げましょう。
一人目が浅利太門投手(興国③)。150km/hに迫るストレート、落差の大きなスプリットで春・秋どちらも20.0K%を超える高い奪三振能力を発揮。24年はNPB入りを目指す大事なシーズンとなり、その起用法にも注目が集まります。
もう一人が大川慈英投手(常総学院②)。秋の奪三振率42.4K%は異次元で、登板した全試合で三振を奪いました。与えた四球は9イニングで1つと制球に優れ、
年間で13人もの投手が登板し、これはもちろんリーグで最多。四連覇は逃したものの、次年度以降も継続して強さをキープし続けるだけの土台はしっかりと作ってバトンを渡したという感が強いです。
続いては個人別の野手成績(10打席以上)。
40打席以上立った選手が全員OPS.700以上をマークした春に対して、秋は他大学の研究と主力選手の故障・疲労で成績を落とす形となりました。
その中でも気を吐いたのはキャプテンの上田希由翔選手(愛産大三河④)。秋は足の故障もあり、らしくない1試合3三振などもあったものの、春のOPS1.192、秋もOPS.867はチームの中軸として十分な成績。ともに12打点をマークするチャンスでの強さが目立ちました。一年生から中軸として試合に出続け、毎年そのスタッツを上げてきたことで掴んだ納得のドラフト一位。コンタクトにも長けた中距離ヒッターとしてプロのチームでも多くの打点を稼ぐでしょう。
正捕手の座を掴んだ小島大河選手(東海大相模②)も2シーズン続けてOPS.800を超え、特に大事なところでのホームランが非常に印象的なバッター。秋は三振0という点も素晴らしいです。リード面で秋は他大学に研究された部分も見えましたが、大きく成長した1年となりました。
既に今年のドラフト1位競合まで騒がれる宗山塁選手(広陵③)は春不調も秋にやや復調。打率.340をマークしました。しかし本塁打は年間通じて0本。守備面でも華麗な守備を多く見せてくれた一方で、年間5失策と人間宣言をしており、本来期待される姿からはやや不満の残る1年となりました。打力ではOPS.850前後は安定して残せるはずなので、さらなる進化を期待したいところです。
春にブレイクしたのは打率.426で首位打者にも輝いた飯森太慈選手(佼成学園③)。打ち損じても内野安打含めて狙える俊足を飛ばし、凡打も気にせずに積極的に振っていくアプローチが実ったのが春季リーグでした。
しかし秋は長打が少なく打球方向の割合がレフト方向に偏っていることから各大学が「飯森シフト」を敷き、打率.224に低迷。足を活かすことを鑑みても三振の多さは課題であり、二番打者としての役割や位置づけもチームとして秋に修正が必要だったのかもしれません。
副キャプテンで春の一番打者に定着した堀内裕我選手(愛工大名電④)はこのシーズンで打率.340。堀内→飯森ラインで高確率で出塁かつ得点圏を作り、宗山→上田ラインのポイントゲッターに回すという得点パターンは脅威でした。
昨年からレギュラーを掴んでいた直井宏路選手(桐光学園③)も春は打率3割を記録するも秋は打率1割台。念願だったホームランを開幕カードで放ちますが、次第に出場機会も減らしてしまいました。
例年、明治大学の外野3ポジションは競争が熾烈で、年間で見ても4年生の斉藤勇人選手(常総学院④)、水谷公省選手(花巻東③)、瀨千晧選手(天理②)、榊原七斗選手(報徳学園①)ら各学年の選手が次々と起用されました。残念ながら傑出した数字を残した選手は出なかったため、また来年度は白紙に戻って競争になりそうですね、
春に法大戦でリーグ戦初本塁打が決勝ホームラン、秋に一塁手として出場機会を増やしOPS.700を超える好結果を残したのが木本圭一選手(桐蔭学園②)です。
打率3割越え、長打率4割越えと強打の内野手として台頭の気配がある一方、打率.333に対して出塁率.280というあべこべ現象は4つの犠打に起因されるもので、勿体なさとこの秋の明治大学の戦い方を象徴するものでしょう。
盗塁数も例年各シーズンでここ3年間1位~2位に位置していたのが、秋はチームで6個と大きく数を減らしてしまい、逆に犠打数はリーグトップ。バントも多いけど、盗塁も多いチームだったのがやや方針が変わったのか歯車が嚙み合わなかったのか…。
また、優勝した春も上田選手の後ろを担う5番打者に苦しんでおり、チームとして秋の長打率がリーグ4位だったことは重く受け止める必要があります。1シーズンだけで取り立てて言うことでもないですが、今後に向けても少し不安を感じさせる秋となってしまいました。
2-6.立教大学
個人別の投手成績は以下の通り。
2シーズンともチーム内の最多投球回は池田陽佑投手(智弁和歌山④)。特に春は8先発含む9登板とフル回転。防御率4点台で試合によってその出来にはムラがあったものの、エースとしての矜持は見せました。
2戦目の先発投手には春は沖政宗投手(磐城③)が固定起用。東大戦では完封勝利も挙げましたが慶大戦・明大戦では打ち込まれてしまい、秋は主にリリーフに回って防御率2点台。
23年度の立教大学の投手の中で躍進した投手の一人が塩野目慎士投手(足利③)でしょう。球速こそ140km/hを下回るものの、球威に優れ高めでも空振りを取れる球質。奪三振率は秋に26.9K%とリーグでもトップクラスに位置しています。
打たれる試合もあったものの小畠一心投手(智辯学園②)が秋に先発の経験も積み球速も140km/h台半ばを安定して計測、ルーキーの佐山未来投手(聖光学院①)も6試合にリリーフ登板。
特に秋は不祥事による4年生の一時的な自粛があったことで下級生含めた多くの投手がリーグ戦のマウンドを経験し、結果的に来年度に繋がるシーズンになったという見方も出来るかもしれません。
続いては個人別の野手成績(10打席以上)。
春はスタメン打順別のOPSで9番打者が一番高いOPSを計測するということで、野手陣の不甲斐なさが目立ってしまいましたが、秋はリーグでも上位に入る打者が複数出てきました。
筆頭は大学代表候補合宿に召集された菅谷真之介選手(市立船橋③)。春からレギュラーを掴み2本塁打含むOPS.788と好成績を残しましたが、秋は春から出塁率を1割以上伸ばしホームラン0でもOPS.878を記録。一塁/右翼の2ポジションどちらもこなせる器用さもチームにとって重宝されました。
チームではあまりいないがっしりとした岩のような体格で秋にブレイクした桑垣秀野選手(中京大中京②)はOPS.864でチームトップの8打点。1番や2番といった上位で起用されたときになぜか数字が落ちてしまいましたが、下位の7・8番での出場時は13打数6安打1本塁打と非常に怖い存在となりました。
春に大不振で打率1割に満たなかった4年生の安藤碧選手(明石商業④)は秋に2本塁打。最終戦では唯一のスタメン4年生野手として出場しました。
代打出場から安打を重ね、一時は打率7割を超えた平野太陽選手(春日③)は秋にチーム2位の5打点を記録。柴田颯選手(22年度卒)を彷彿とさせる打力で、23年度はファーストでの出場がメインでしたが二塁手登録なこともあり24年はどこを守るのか楽しみです。
楽しみな要素も多いものの、やはり全体的な打力不足は否めず、特にセンターラインを守るキャッチャーの戸丸秦吾選手(健大高崎③)、齋藤大智選手(東北③)、鬼頭勇気選手(横浜③)が揃って打率2割近辺で停滞してしまったのは他大学と比較して厳しい部分となりました。
また、不祥事の前に秋の開幕戦でアクシデントにより鈴木唯斗選手(東邦②)と田中祥都選手(仙台育英③)が負傷離脱してしまったのも、チームとしては大きな痛手となりました。
打線のコアになる菅谷・桑垣の両選手を繋ぐ間の選手が不在だったためアウトカウントが進塁よりもどんどん嵩んでしまう状況で得点力が上がらなかったことを考えると、最終カードの東大戦で1番バッターに平野選手を起用したのは24年の戦い方の参考の一つになりそうです。
3.さいごに
23年度の東京六大学野球を主に数字の面から振り返ってみましたがいかがでしたでしょうか。個別の選手の話になると数字どころではなくなり思い出が溢れてしまっていましたが、楽しんで頂けていれば何よりです…。
触れられなかった選手も沢山いて申し訳なさもありますが、また24年も東京六大学野球については様々な記事で取り上げていきたいと思います。多くの卒業される4年生の皆さん、熱戦をありがとうございました。プロに行く方、社会人・独立リーグで野球を続ける方、一般企業に就職される方など進路様々ですがそれぞれの道でのご活躍を祈念いたします。
改めて本年もよろしくお願いいたします。