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・撃たれけり村山槐多は春の雷
行きは良い良い、帰りは怖い…。
まさにその通りになった。
槐多の絵を観たくて、ローカル線に乗り、はるばる三河大浜まで来た。
全て順調に運び、碧南市藤井達吉現代美術館の美味しいランチも食べることができた。
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「顕神の夢ー幻視の表現者ー村山槐多(かいた)、関根正二から現代まで」と長いタイトルの展覧会だ。
お目当ての槐多の絵は2点。
「尿する裸僧」と「バラと少女」。
前者に圧倒された。
地面に置いた托鉢の鉢に向かって、勢いよく緑色の尿を飛ばす青年僧。
禁断の匂いがぷんぷん。
槐多の僧を見つめる、うっとりとした眼差しを強く感じる。
若さ、勢い、色気、ホモセクシャル…。
羨望にも似た欲望の対象。
薄暗いのに、性器は元気だ。
茜色の衣装に包まれた僧は、合掌している。
なんともミスマッチだが、一体何のために?
聖なるものへの冒毒?
権威主義への反抗?
いずれにしても目が離せない。
もう1点は、ピンクのバラ園に立つ着物の少女。青い素朴な普段着だ。
もちろん、素晴らしい絵だが、槐多は、同性を描いた作品の方が迫るものがある気がする。
90年代に「無言館」に行き、立ち上がれなかった。
数年後に、「信濃デッサン館」で、槐多に会った。ひと目で惹かれた。
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中学時代の一歳下の恋人、稲生を描いた骨太なデッサンだ。
彼のうなじ辺りに微かなエロスが存在する。
絵葉書を求めて、ずっと飾りっぱなし。
もう1点のお気に入り絵葉書は、カラフルな風船を被った自画像。
彼はナルシストだったのだろう。自画像が多い。
これは岡崎市美術博物館で購入した。
今回は、絵葉書の販売なし。
この展覧会は神がかりをテーマとしているので、円空〜草間弥生、岡本太郎、横尾忠則、関根正二、萬鉄五郎、内田あぐり、藤井達吉などの美術家の作品が勢揃いだ。
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はるばる足を運んでよかった。
至福とはまさにこのこと。
非常に混み合う館を後にした。
この後がいけない。
駅まで15分で行けるはずなのに、30分経っても着かない。聞く人もいないので、途方に暮れていると、青年を見つけた。
一つ手前の駅が近いので、軽トラで送ってくれるという。
地獄で仏、だ。
昔、誰かに送ってもらったことがあるので、恩返しです、と言ってくれた。
ありがたい。
これ以上歩くのは辛かったので、本当に嬉しかった。
しかし、一難去ってもう一難。
ローカル線は単線で、往復運転することを忘れていた。
咳も出て、体調がいまいち。頭がぼーっとしていた。
終点から折り返した列車に乗っていたことにやっと気づいた。
慌てて降りて、本来の列車に乗ったが、通勤時間帯なので、超満員。
もうふらふらだ。
自分が悪いので仕方がない。
この後、インフルエンザで、しばらく寝ることになってしまった。
夢のように楽しかった1日は、何処かに行ってしまった。
少年に声かけられて春の旅
槐多との三たびの邂逅春ぬくし
梅の風時の鐘の音増幅す
醸造の街を席巻紅白梅
テラス席往還しきりの梅街道
風花やカフェの会話の切りもなし
ひとり旅気ままなれども春寒し
三河路は三河人に聞け春の旅
単線にてこずり迷ふ日永かな
最寄り駅まで軽トラで春の旅
軽トラに助っ人頼み春しぐれ