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盗賊団と軍隊の境 ユニコーンオーバーロード

ユニコーンオーバーロードで思い出したお話。
劇中ではちょくちょく「盗賊団」が現れる。

盗賊団は、主な敵のゼノイラ兵と区別されるが、これが歴史のお話ならそう簡単ではない。
歴史上では盗賊や山賊、海賊が雇われたり、逆に兵士が山賊らになることが良くあった。

良心的な盗賊、岩鼠団

さて、現代以前の世界では常備軍がなかった。
現代ではどの国も専業軍人がいて、日々訓練をするとともに国から給与を得ている。しかし、これは現代のように国家が大量のお金を持っているからできることである。

それゆえ、だいたい近代以前-ナポレオン以前ぐらい-では兵士は非常時に雇われ、戦争が終われば解散するぐらいの存在であった。
そこで問題になるのが、兵士の平時の職業である。

戦争が起こったので戦いに参加した農民や職人等は、戦争が終われば元の職場に戻っていく。
しかし傭兵となると厄介になっていく。彼らは戦いを生業とし、各地を転々とする。
さて、あなたが傭兵になったつもりで考えてみよう。ようやく戦争が終わったが、それはつまり失業を意味する。雇い主の王や貴族からも契約更新はないと言われている。
もちろん傭兵であるあなたは腕っぷしが自慢だ。では何をするか。
そう、盗賊が一番自分に向いているのではないか?
こうして、戦争が終われば盗賊があふれることになる。

こういう理由で、戦争において国から見れば頼もしい兵士は、平時には厄介な賊になる。雇い主側もこの辺の事情を把握していて、報酬の一部に「獲得した地域の略奪権」が含まれることも多い。
それこそ自前の兵士を用意できる貴族からすれば元兵士が盗賊になっても何ら問題ない。護衛を用意できない庶民や農民は苦しむかもしれないが、貴族は苦しまないのである。

なぜ盗賊や海賊が兵士として登用されるかは、やはり実戦経験による。
現代のように兵士を訓練させて給料を払うのは大変だ。
他方、盗賊を「泳がせて」農村等を襲わせていれば、盗賊は常に実戦経験を積んでいるような状態で平時を過ごすことになる。
現代ならミサイルで相手を見ずに人を殺せるが、近代以前は剣、槍、斧など眼の前の相手を殺せることが兵士の必要条件であった。
これが弓になっても、やはり肉眼で相手を殺すことは大変である。
常に「訓練」している盗賊や海賊は貴族たちから見ればありがたい存在でもあった。

こうした賊の華々しい戦いは二つ挙げられる。
一つはプレヴェザの海戦。
これはスペイン・ローマ教皇軍・ヴェネツィアの連合軍をオスマン・トルコが破った戦いだが、ここで活躍したのが海賊である。
オスマン・トルコには海軍と呼べる人材がなかった。そのため、地中海を普段から荒らしていた海賊を登用して連合軍にぶつけたのだ。
これで勝てたというのだから、「賊」の強さが現代とはだいぶ違う。

もう一つはアルマダ海戦。
スペイン対イギリスの戦いで、スペインは正規軍こと無敵艦隊(アルマダ)、
対するイギリス軍はスペインの略奪を生業としていた海賊達を集めて挑戦した。イギリス軍司令官にして海賊ドレイクの活躍もあり、無敵艦隊は敗れた。戦争を終えた後もこれら海賊達はスペイン船舶を襲って生計を立てたのであった。

アルマダ海戦

話をユニコーンオーバーロードに戻そう。
コルニアでは岩鼠団、黒爪団や、更に特に名前もない盗賊が活動しているようで、しばしばアレインの前に立ちふさがる。

作品の舞台は世界はゼノイラ帝国に統一された状態である。
ということは征服戦争中はこうした賊も兵士として雇われていたか、支配の術でもかけたれていた可能性がある。
しかし戦争が終わればいつもの如く解雇である。
そうして放流された盗賊団がぶらついていたという感じなのだろうか。

もしアレイン率いる解放軍に脅威を感じれば-歴史の常道なら-ガレリウスに盗賊らは雇われたかもしれない。ただガレリウスは解放軍に対し終始優位にことを運んでいるように見える。現実の世界のように盗賊を雇用する必要はないのかもしれない。

参考文献