冬村窓果

なにか文章を書くのが好き。オチなどない。過去作とか、その場の思いつきとか。概ねしり切れ…

冬村窓果

なにか文章を書くのが好き。オチなどない。過去作とか、その場の思いつきとか。概ねしり切れとんぼ。

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【短編小説】タブラ・ラサには戻れない

「波の向こうにはねこの国があるんだって」 「どこで聞いたんだそんな眉唾」 わりとマジな顔で秒で一蹴されてしまった。当たり前だが、美人の真顔は迫力がある。 「でも羨ましいでしょ、羨ましかったりするでしょ」 「まあ」 仕方のなさそうな顔で相槌を打つので、すこしむっとする。しかしまあ、 「人間の勝手だよねえ」 「傲慢なやつじゃん」 間髪入れずに答えが返ってくる。テンポがいい。やっぱりわたしにはゆきちゃんしかいない。展開が早い、我ながら。ふふふん。 「アハハ!」 「笑うな

    • 三題噺 「しもやけ」「薔薇」「雪」

       薔薇にはとげがある。  それは我々に、きれいなものにはとげがあるという言説を抱かせる代表的なものであるといえる。 「薔薇にはとげがある。そして、我々にはことばがある!」 「それって、きれいなものにはとげがあるってことでしょ。急に何です。人間がことばを持つのは搾取を防ぐためってことですか……ん、あれ、結構的を射てるな」 「おまえはまた事故献血か。まったく悪い癖だぞ、有枝」 「そういうせんぱいはまた間違えてますよ、それを言うなら自己完結です。って、自己完結野郎で悪かったですね

      • ヤギがこちらを見ている|雑談

         ヤギがこちらを見ている。  ただ、この一言に尽きる、そんな現在である。  書いていてなんだが、わたしも詳しくはわかっていない。  特には設定を弄っていないわたしのこのパソコンのデスクトップ画面。この壁紙が、勝手に定期的に変わるようになっている仕様なのだ。ほとんどが綺麗な景色で、自分では見つけられないようなものを定期的に自動で見せてくれるので嬉しい。  とにかく、壁紙が定期的に変わるが、何にいつ変わるかは把握していないという現状。  ある日、オンライン会議をこのパソコンで

        • カットレモンのような昨日の月

           ああ、空にまします月よ、夜天をあまねく照らす月よ!  ということで今回ご紹介しますのは、天の川の成り立ち……のようなものです。要はわたしの妄想であります。けっこうとれたて新鮮です。  昨晩、わたしは帰路をてくてくやっていました。それはもう、轢かれたりなんらかの事故に関わりたくなければ、前左右を気にして目線をそのままに歩くべきです、徒歩というのは。どこからだれが、なにがやってくるのかわかりませんからね。  しかし、昨晩のわたしは、というかいつもなのですが、途中で空を見上

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        【短編小説】タブラ・ラサには戻れない

          このごろ、どうも堕落に堕落を極めています。人間は堕落する生き物といっても、これは度を超えている。劣化の一方で、ふと立ち止まるたびにその情けなさに眉が下がります。

          このごろ、どうも堕落に堕落を極めています。人間は堕落する生き物といっても、これは度を超えている。劣化の一方で、ふと立ち止まるたびにその情けなさに眉が下がります。

          十二月前半集/短歌二十九首

          早まるなそこにわたしはいないしさ竜宮なんてものもないから   /拙作『タブラ・ラサには戻れない』によせて 永遠を求めたところで叶わぬとおのれの性を知ってのことです ひと月の過ぎたるを矢のはやさだと喩うは多事も怠惰も同じ 手を組んで祈りを愛と呼ぶひとも とかくこの世はみないき難し 読み物を愛して時を徒らに過ぐひと曰く、時とは字だと ひと文字に五つをつめて「恣」 あなたに咲んだ夢のあとさき あとにすぐ続く心で「恣」 ワンクッションを置いているのか アホアホと漫画のよ

          十二月前半集/短歌二十九首

          読書好きというには違和感のある人生

           読書好き、とは果たしてなんであろう。  況やわたしのことであるが、この頃よくそのことについて考える。  文章を読むのが好きだ。  わたし好みの文体の、わたし好みの展開の文章を読むのが好きだ。面白い物語が好きだ。ハッピーエンドが好きだ。暗い話や怖い話は読みたくない。  このように自分の読書傾向や好みについて挙げてみると、あたりまえといえばあたりまえだが、実に恣意的な選書傾向にある。  そして、考える。果たしてわたしはほんとうに、読書好きと言えるのだろうか?  その読書を始

          読書好きというには違和感のある人生

          かなしい0時1分過ぎ

           わたしはたいへん頑張っていた。過去作を引っ張りだしまくって「それちょっとズルじゃね?」みたいなことをしまくってでも頑張っていた。なにをやっても三日坊主、いや七日坊主がいいとこな、このわたしは、今回は続くようにと頑張っていたのである。  それというのは、このnoteの連日投稿のことだ。  昨日、いや一昨日まで連続21日まで頑張ったところであった。  21日というのは、つまりは3週間連日だ。  しかしこの記事は1日目である。甚だ落胆を禁じ得ない。  いま、とても虚しい。がん

          かなしい0時1分過ぎ

          【短篇小説】ヴァイオレットフィズをのみ干して

           ズ、ザ。砂を足裏で撫ぜるようにして歩く。  小高い丘の向こうには街がある。遠目で見てもビカビカと夜を降らせているようで、どこか寂しさがあった。  イルは騎士だった。身勝手にいき苦しくなってそれなりの地位にあった家から出奔し、なんだかんだあって騎士になった。よくある話だ。嫡子がいなくなって実家はそれなり苦労しただろうな、と他人事のように考える自分がいる。悲しいことだ。帰る家が無いというのは。 (息子が産まれたって──言ってたなあ) 「ふぅん、なるほどね……」  弟か

          【短篇小説】ヴァイオレットフィズをのみ干して

          閑話 さざなみの徒然/会話文

          「バレンタインだって」 「なんだってそんなことを」 「ね」 「そもそも……」 「だよねえ。なんだってね、そんなことをねー」 「ねが多い」 「いじわる」 「どうとでも?」 「いじわる!」 「ハイハイ。じゃあなに、これはいらないわけだ」 「エッ?! ズルい! ██ちゃんずーっとズルしてた!」 「何のネタだっけそれ」 「えー、しらない。聞きかじりだもん」 「わからんのに使うなよ。あたまのわるさがバレるぞ」 「いいよどうせわたしはあたまがわるいですぅ。わかってるし」 「拗ねるなよ。事

          閑話 さざなみの徒然/会話文

          纏綿たりて可憐

           わたしは文学をやりたかった。あの時代の滔々とした語りのような文章をやりたかった。彼らはどうしてあのような文章を書きおおせたか。わたしにはわからない。それはなぜかと問えば、答えは読んでいないからという至極単純なものであるのでその堂々たる虚言には恐れ入る。況やおのれのことである。  鍵盤をたたく指は止まらぬか。その流れる音が塞き止めらるることはあるか。もちろんある。あるけれど、それは畢竟おのれのためであるから責める相手は自らのうちにしかいない。鏡に向かって責め立ててやってもた

          纏綿たりて可憐

          わたしにとっての神社を改めて考えてみた

           我が家のすぐ近くには寺がない。氏神であるという神社が一社、すこし歩いたところに在るばかりである。  「氏神である」というのは、実感はまったくなく、まあ家の近所だし初詣は生まれてこの方ここであるというくらいの認識だったが、鳥居横に置かれた金属の柱に書いてあったからそうなのだと素直に受け入れていた。それくらいの認識だった。(ちなみに、この柱は二、三年ほど前の台風かなにかで撤去されていまはもうない。たしかそう。)  とにかく大学生前にやっと外出の意思を持つまで、寺社への関わりをこ

          わたしにとっての神社を改めて考えてみた

          紙炉(SSS15篇)

          四、五年前にぽつぽつ呟いていたポエム擬きです。140字あるかないかなのでとても短い。 読み返すと当然自分の文章なので自分の好みに合っていて、好きだなあ……と思ってしまいます。 わたしはわたしを分かっていないし人間もわからない。他人も分からないし世論も正義も道徳も、そして何もかもが解らないのだ。理解はいつも遠いところにいる、星のような何かだ。 /明日の夜明けを探しにゆけ 電灯に照らされてしろく光っている。教室の中はしろく、そして眩しいのだ。片側には壁がそびえていて、どうし

          紙炉(SSS15篇)

          ぎりぎりの抵抗

          「こんな無念な状態で、彼に会うことはできないんです」  私は連続二週間が昨日の日付で終わっている画面を睨みつけて言った。時刻は零時の二分前を指している。  耳もとで、軽やかな声が笑みを含んだ。 「在原さん、それなりマジメなのにねぇ」  けらけらと、悪意をちらとも含まずに笑われる。嫌味なわけではないのはわかっている。 「ま、しょうがないですね。いまからじゃあ、間に合わないですし」 「間に合わせますよ。どんなに短文でも」 「あ~、それで後から付け足すんですか? 外道っぽい

          ぎりぎりの抵抗

          夏、あるいは(書き止し)

           もうすぐ夏が来る。来てしまう。  そうやってなんだか今から憂鬱になってしまうのは、まあ当然嫌になるほど暑いからというのもあるが、わたしが虫を嫌いだからだ。気にしていたら生きていけないくらいの、そんな小さな羽虫でさえ許せない。やたらめったらに虫全般が嫌いなのである。  わたしの自室は2階にある。  本来の役割としては一軒家の主寝室であるので、一人部屋としてはそこそこ広いのだろう。窓は二つ、南向きと西向きにそれぞれ備わっている。  太陽により近い方が暑いのだから、夏は当然1階

          夏、あるいは(書き止し)

          【掌編小説】魔性/祈りという愛

           朝焼けをのぞむとき、私たちは。 *  苦しまないように、と祈るのが愛だった。  少なくとも、私にとってはそうだった。ずっと。ずっと。  花崎ユリカという、魔性に出会うまでは。  花崎ユリカは魔性だ。  言葉の意味通り、ヒトを惑わす。すれ違っただけでひとは彼女を好きになり、心酔し、いつの間にやら道を外れている。  私は彼女を好きにならない。なぜなら、この大学で私だけが彼女の正体を知っているからだ。  花崎ユリカは魔性である。   (中略)  苦しまないように、

          【掌編小説】魔性/祈りという愛