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年々、嗚咽を我慢するのが難しくなってきた勇者ハヤケンです。

U-NEXT映画部の林です。

つい先日、僕の愛する「ドラクエⅢ」のオーケストラコンサートが家の近くで開催されるということで、中1と小4の息子を連れて鑑賞してきました。長男には数年前からドラクエシリーズをプレイさせて、次男にはそれを覗き見させる、という仕込みをしっかり終えての参戦です。

会場には、僕ら世代の男女を中心に、小学生の姿もチラホラと見えます。皆、期待に胸を膨らませている様子。

今回は、ドラクエの楽曲を作られたすぎやまこういち先生が亡くなって間もない開催とあり、拍手なしで楽団を迎え入れるようにアナウンスが流れました。厳粛なムードの中、オーケストラが定位置に着き、すぎやま先生に捧げる献奏として、先生自身が大事にされていたという「ドラクエⅣ」の名曲『海図を広げて』が情感たっぷりに演奏されました。

「こ、これはヤバいかも…」

初球から剛速球で涙腺を刺激してきます。

続いては、東京オリンピック開会式の入場行進で使われて話題となった『ロトのテーマ』。「パッパラッパッパッパ」とお馴染みのメロディがホルンから奏でられた瞬間鳥肌が立ち、その後の主旋律に入ると電気が走るような感動が。
すると周りの大人たちがそわそわと動き出します。
カバンからハンカチやらティッシュやらを引っ張り出し、メガネを外しては涙を拭い、マスクを外しては鼻水を拭い。それを見遣る僕の視界も次第にぼやけ始め、もはやオーケストラが見えません。

「あ、壊れた」

そうです。たった2曲で涙腺がバグってしまったのです。

その後も繰り出される名曲の数々。
『王宮のロンド』の気高く美しい旋律、癒やされる街や村の音楽、時に怖くて不安で引き返したくなるような冒険の間、ずっと勇気づけてくれた『冒険の旅』。いつもなら指揮棒を振ったり、楽しくトークをするために会場に足を運ばれていたすぎやま先生はもういない。

会場は感涙を超えた「嗚咽我慢大会」と化し、中には我慢に失敗した人の「んぬぁぁ!」「フゴッフ!」という声が複数箇所から聞こえてくる始末。

「うん、わかるよ、わかる…誰も君を責めないよ…」

「ドラクエⅢ」が発売されたのは、小学5年生の2月。
休み時間の話題はドラクエ一色。給食の時間の校内放送にも「ドラクエⅢ」の楽曲をリクエストし、男子たちは(歌詞もないのに)大合唱しながらご飯を食べて叱られた。

そうこうするうちに、ゲームをクリアするクラスメートがひとりふたりと現れて焦ってくる。うちは1日1時間ルールだから、そんなに早くクリアできないよ…。でも、ネタバレをするやつはいなくて、みんな何か「すごかったよなぁ」「スゲースゲー」「うん、すごかった」しか言わなかった。

そして僕にも、みんなから遅れてその瞬間が訪れた。
「!!!!!!!」
本当に、ただただ「すごかった」。

ドラクエⅠ、Ⅱと順番に楽しんだプレイヤーならば、あまりに完璧過ぎるロト伝説の終わらせ方に稲妻が走らない人はいないだろう。

西日が差し込む四畳半の畳の部屋。
緑色の小さいブラウン管テレビの前で、座布団にあぐらをかき、『そして伝説へ』が流れるエンディング画面を眺めながら、痺れきっている11歳。
その後、数日間なのか、数週間なのか。
しばらくボーッとしていたような気がする。

いや、あれから33年。僕はボーッとし続けながら、パーティーに息子二人を加えて(妻は「パス!」と村の自宅でお留守番)冒険の旅を続けているのかもしれない。

……とだいぶ遠い精神世界を巡っていたら、コンサート終盤、ついにきました!不死鳥ラーミアのテーマ曲にして、ゲーム史に残る名曲中の名曲とされる『おおぞらをとぶ』。会場も「キタ…」とばかりに固唾を呑む雰囲気に。

ハープの音色に乗るフルートのソロ、そして切ないオーボエのソロに繋がり、一瞬の静寂の後、オーケストラ70人が全員揺れながらの…

主旋律ジャーーーーーン!!!

と同時に、座っている列のシート全体がガタガタン!と揺れました。嗚咽を無理に抑えようとすることからくる、異常な体の揺れ。いわゆる、「嗚咽我慢痙攣」というやつですね。震源地は左隣の同世代夫婦の旦那さんの方かしら?なんて詮索は野暮というものです。

「うん、わかるよわかる…」


2時間強のコンサートが終わり、ホワイエには脱水症状でボーッとする大人たちと、静かに「よかった!」という気持ちを内に秘めて、鼻息フン!となっている子供たち。うちの息子たちも「またⅢやってみる!」と興奮気味に語っていました。実に素晴らしい光景です。


今回は完全に映画から離れてしまいましたが、そうです、映画『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』がU-NEXTでも配信開始されました。評価に色々な意見がある本作ではありますが、「ドラクエは音楽がひとつの主役」と考えれば、全編にわたってすぎやまワールドに浸れる1本ですよ。

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すぎやまこういち先生。

長い年月、素晴らしい音楽をありがとうございました。
先生の音楽はこれからも生き続け、
僕らに勇気を与え続けてくれるはずです。



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