見出し画像

映画観賞後に【re:SOURCE】と【COURT SIDE】を読んで、表現の答え合わせをした話/THE FIRST SLAM DUNK

先日観た映画『THE FIRST SLAM DUNK』。
線と色、そして動きの組み合わせが、今まで見たことが無い表現で面白かったという感想をこの前書いたんですが。

余韻に浸って考えるほどに、
「この映像どうやって作ってるの???」
という疑問がふつふつと沸きまして…
買っちゃいました…『re:SOURCE』。

プロモーションに踊らされて思うツボなわけですが、映像を観て、制作の裏側に興味が出てきたので…気が付いたら平積み見つけてレジへ向かってました。(この本とても良かったので、映画観た人は全員買った方がいいよ!)

『re:SOURCE』は、井上雄彦先生のロングインタビューと、てんこ盛りの制作過程の絵の数々、単行本未収録だった『ピアス』(映画の話に関連したリョータの過去の漫画)が収録されています。

それと合わせて、公式サイトのCOURT SIDE(井上先生含む制作スタッフのインタビュー)も17回分全部読みました。映画公開されるだいぶ前からこっちのインタビューは掲載されていたのですが、映画を観る前に苦労話とか読むのは違うな〜と思ってたので、読まずに寝かせてました。

映像表現の疑問については、COURT SIDEの方のインタビューに結構答えが書いてあって、ああ、そういうことだったんだと。
でも、映画観る前だと内容がここまで響かなかったと思います。いいタイミングで読めて良かった。

前置き長くなりましたが、疑問と答えが繋がった話を書いていきます。

※本の引用、映画の内容も多少含まれるので、どっちもまだ見てない人は適宜自衛して読んでね。

線と色の表現

前回の感想に、「線の質感の多様さ」について書きました。輪郭線のかすれたような質感、強弱・タッチの違う線が場面によって色々あること。アニメの線画と言えば、黒い均一な線というのが普通かなと思ってたので、その異質さが印象に残りました。

これについては、井上先生から質感などについて指示があったようです。

小倉:監督からは「リアルな背景描き込みというよりは、マンガが動いてる感じ」という。背景が現実的な、コテコテのリアルな感じにするっていうよりも、淡い色使いにしたいと。キャラクターの線とかも綺麗に黒で描くというよりは、鉛筆で描いたふうに。

公式サイト【COURT SIDE】インタビュー #04 より

大橋:あと、紙?CGに対しても「ざらざらした感じ」とか、「汚した感じ」とかずっとおっしゃってたんですね。どうしても描画する筆とか鉛筆とかに目が行きがちだったんですけど、紙かなと思った瞬間があったんですよね。ざらっとした、マンガを描く質感みたいなものがベースにあって、じゃあそれをどういう線で描くか、塗りをどうするかという。何十年も紙と戦ってきた方じゃないですか。立脚するところはそこかもしれないなって。

公式サイト【COURT SIDE】インタビュー #02 より

「ざらざらした感じ」という質感を表現するために、ああいう少しかすれたような滲んだような輪郭線になったみたいです。

色については、背景だけでなく人物も水彩画のようなタッチの塗りでしたが、質感だけでなく「色みの強さ」についてもこだわりがあったようで。上記にもありますが、淡い色使いにしたかったようです。

―― 確かに新装再編版の表紙はジャンプコミックス版より淡い色使いの印象があります。通常、アニメーション作品は発色が良いものが多いと思いますが、今回はそうではないと。
古性:はい。もう…大変でしたよね(笑)。
小倉:監督がそういうのを。
古性:彩度を抑えて抑えて、色を抜いて抜いてって。

公式サイト【COURT SIDE】インタビュー #04 より

確かに言われてみれば、全体的に彩度(色の鮮やかさ)が低い…!
でもって、色のコントラスト(明暗の差)も弱いな…?!
(インタビューには暗い色の設定の話が細かく載っているので、興味ある人は#04のインタビューをどうぞ。色と線の話は#02〜#04にあります。)
アニメっぽくない色の違和感は、こういうところからも来てたんだなぁ…。

映画の予告映像を見た時の第一印象が「のっぺりしていて影の色が薄い…」だったんですよ。違和感としては、最初はあまりよろしくない印象で。
アニメの配色って影の色とかはっきり濃く塗っているイメージだし、原作は色の代わりに人物に大量の斜線が入って影がつけてありますよね。旧アニメと原作で、表現は違いますが、影に関しては濃淡のメリハリが強い印象が自分の中にあったんです。

予告映像では、その影の斜線もなくて色も薄いように見えて……3DCGの描画で計算された影だと、写実的なグラデーションの影になってしまうのかな?なんて思ってました。

ただ、映画全体を通して観た時に、これは映像で表現しようとしている方向性が私の知っている何かではない、未知のものだな??と感じました。

そして、大画面で線と塗りの質感を観て、これって CG出力しただけの絵じゃ無いよね…手描きの質感が動いてる絵にのってるよね…??!?と気づいた時に、一気にぞわわわ〜〜〜としたのでした。

「絵が動いている」ような表現

インタビューに何度か出てくる「漫画(絵)が動いている」という言葉。
アニメ的な表現でもなく、リアルな CG描写だけでもなく、「絵が動く」を目指して、途方も無い試行錯誤をしていたのだと分かりました。

先ほども言ったように、手描きのような質感の絵が動いている、という点が私の一番のぞわぞわポイントです。

なんで一人でこんなにぞわぞわしたり、早口でワーワー語ったりしているかというと、私の一昔前の3DCGの知識からきている部分が大きいです。

実は10年前位に仕事で3DCGをかじってた時期がありまして(とは言っても複雑なことはやってない)。その後、仕事から離れて知識はそこで止まったまま、アニメもあまり詳しく無いので、最近の3DCGのアニメーション事情にも疎くて。

つまり、10年前からタイムスリップしてきて、知識がアップデートされないまま、『THE FIRST SLAM DUNK』の映像を観たような状態なのです。
で、「はあぁ??何この観たことない映像…意味わからん!どうやって作ってるの???」という感想になったわけです。

すごーく雑なイメージですが、制作工程は下記のように想像していました。

①人物の3Dモデル作る。

②モーションキャプチャを使って、実際の人間の動きを3Dモデルにつける。
(この辺りまでは理解できる。)

③動きをつけたものを絵として出力する。
→ここで、いくつか「?」が浮かぶ。

③の部分で、ライティングやカメラワークやら設定してレンダリング(設定した数値を計算して絵として表示させる)という流れをイメージしていて。
光源(ライト)をどこに置いて影をどう出すか、カメラをどう動かすか、、みたいな設定をつけて、絵を作っていく作業です。

知識が古いので、3DCGで出力される絵って、輪郭線の無い外形、写実的な影のイメージが強かった。ディズニーやピクサーの CGみたいな感じ。
だけど、この映画の線と色はそういう感じじゃない。
2Dと上手く組み合わせてやってるんだろうなとぼんやり思ってたものの、最近のアニメのような、セル画風の絵と3DCGを組み合わせた映像ともなんか違う………。

インタビュー諸々読んで、③の後の工程が鬼のようにあったということが分かりました。

まず、③の部分で知らなかったのが、セルルックと呼ばれる手法。
トゥーンレンダリングというレンダリング方法を使って、写実的な色と影ではなく、セル画のようなパキッとした境界線の分かれた色と影に出力できるというもの。見た目は手描き、動きは3Dっていう、手描きアニメ風の3DCGのことらしいです。
このセルルックという手法が映画化の企画の立ち上がりに結構影響したようで。

元田:まだセルルック(※2)ってあまりなかった時代で。3本目でついにセルルックの形になって、それでちゃんと作ったのが最後の試作版だったんじゃないかと思うんですけど。
―― その“セルルック”が井上雄彦監督に響き、企画が正式決定となったのでしょうか。
宮原:馴染み深いルックのほうがキャラクター性はダイレクトに響いたんじゃないかなぁとは思います。

※2:セル画(2D)で制作されたアニメ(セルアニメ)のような表現を実現する3DCGの手法

公式サイト【COURT SIDE】インタビュー #01 より

最近の3DCGアニメーションは、こういう手法で動きがリアルなセル画風のアニメーションになってるのかな?と思いつつ。
でも、映画スラムダンクはここからさらに手を加えているようで。

大橋:顔とか宮原さんが全部レタッチしてましたもんね。CGのキャラクターのモデルって“表情が足りない感じ”があの当時はあったんですけど。それで線を足したりだとか、表情のシワを足したりだとかできるようにツールを開発するところからやって。

公式サイト【COURT SIDE】インタビュー #01 より

牧野:新しいツールを作る段階から試みていまして、「アニムストローク」っていうツールなんですけど、監督が描いた絵を目指すっていうところで、どうしても 3Dポリゴンだけでは表現しきれないようなものを表現するために開発したツールで。実際に3Dで動いているモデル自体そのものに描けるようなツールは、今まではやってなかったというか。

松井:原作の絵を見ていただけるとわかると思うんですけど、『SLAM DUNK』っていう作品のキャラクターたちの顔っていうのが、すごく微細な感情を含んでいるような複雑な顔。造形というよりも感情が複雑な顔。それを表現するためには、微細なアイラインの一本分の開きとか、口角のニュアンスであるとか、CGが本来得意とするところをちょっと超えたような…かゆいところに手が届くというような調整がやっぱ必要になってくるんですけど、そういったところに手を届かせるためのツールっていうのを開発して、それを実装して、挑戦している。

公式サイト【COURT SIDE】インタビュー #15 より

見た目として、CGに手描きの線を描き足しているんだろうなというのは分かるんだけど、その方法がピンときてなかった。
私が記憶してる3Dの時代は、レンダリングで出力した絵(パラパラ漫画の1枚1枚のような感じ)を並べてアニメーションとして動かしていたので(今はどうやってるか知りませんが…)、動きの少ない部分はレイヤーを重ねれば上から線を描き足したりはできるけど、今は全くそういう次元の話ではないだろうし、非現実的だよなぁと。

で、そのあたりの調整を、上記インタビューに出てきている「実際に3Dで動いているモデル自体そのものに描けるようなツール」で補っているみたいなんですよね。
これは出力された絵ではなくて、3D空間のモデルに直に線を描き足すことができるという理解でいいんだろうか、、、
写真や柄のテクスチャをモデルに貼るレベルの知識で止まってた私は、脳みそパンクしそうになります。すごい…しか言えない。

しかも、絵の直しについては、出力された3DCGをキャプチャしたものに、上から井上先生がドローイングソフトで直接絵を描いて、修正指示を出していたと。その修正作業をとんでもない量やってるということらしいです。そりゃカットごとの絵のクオリティが高いわけだ…。

話を総合すると、

①人物の3Dモデル作る。

②モーションキャプチャを使って、実際の人間の動きを3Dモデルにつける。

③動きをつけたものをセルルックで出力する。

④出力した3DCGのキャプチャに井上先生が絵を描いて修正指示を出す。

⑤指示をもとに、3Dの調整や描き足し等を行う。

④・⑤を死ぬほど繰り返してる。

こういう感じの流れなのではないかと。

『re:SOURCE』には、井上先生が直しの指示で描いた絵がたくさん載っていて、どんだけ描いたんだよって驚嘆します。作業時間と作業量がえぐい…。

前回の感想記事に、要所要所のカット絵のクオリティが高すぎて、「絵がうまい…」ってアホみたいな感想になったと書いたんですが、実際に井上先生自身が語った言葉でそれが裏付けられてました。

では、今回の挑戦でプラスになったと感じていることはあるのだろうか。
<中略>
絵がうまくなった
<中略>
「たまにモニターに映った自分の絵が下手だと感じて。”これじゃいかん。これで偉そうなことは言えないぞ”と思うわけです。で、さらに伝えようとする。加えて3Dモデルを駆使したぶん、三次元的な捉え方も上達させなければいけない。そしたら、これまで描けなかった角度の絵などが描けるようになってーーあのね、これは嬉しいですよ」

『THE FIRST SLAM DUNK re:SOURCE』井上雄彦ロングインタビューより

「絵がうまい…」の感想はあながち間違いじゃなかった…!
元々うまいのに、さらにうまくなってた!

で、何回観るべきか

前回は、映画館で1回観たから後は円盤待ちでいいかな〜なんて書いてたんだけど。
ここまでグダグダと作画への驚きを綴ってしまって5000字………

映画もう1回観るべき…?

いま、心が揺れています……


いいなと思ったら応援しよう!