知っている。

3時になっても、眠れない。
羊を数え、山羊を数え、砂漠の砂を夜空の星を数え続けて眠れない。

3年経っても、眠れない。
だから、眠りを断念する。
いっそ、夜の底を生きる。
夜を嗜好する。思考する。

くだらない、こと。ことだけを、考えて、醒め続ける。
イメージ。深い森、薄暗く。女が独り、寝息を立てる。
眠れる森の美女。
それはイメージ。
手を伸ばし、掴まえる、眠れぬ夜のビジョン。

見る。
眠る彼女を僕は見る。それは完璧に、完全無欠に眠っている。
僕は。
均衡について考える口にする。「つまりは、バランスなんだ。」

僕が起き続けているから、彼女は眠り続けている。
或いは。
彼女が眠り続けているから、僕は起き続けている。

バランス。均衡、世界の。

だから、だけど。
いつか、彼女は目覚めるだろう。
同時に、きっと僕は眠るだろう。
選手交代。出逢えない、ふたり。

その朝、交差する一瞬の時、瞬間、開く瞼と閉じる瞼の隙間で。
僕は、君に。なんて挨拶すれば良いだろう?
「おはよう。」それとも「おやすみ。」?

そんな事を、考えながら。
僕は今も、夜に住むのだ。

(ねえ、ねえ君?君は、僕を知っている?)

□□□

きっと、疲れていたのだと思う。
だから、私は、眠り続けている。

夢を見る。見続けている。そんな軽率な、軽はずみな眠り。
羊を数え、山羊を数え、砂漠の砂を夜空の星を数え続けるような眠り。
を。経て。

私は夢で醒める。リアルな昼の世界を生きる。

電車に乗って仕事に行き、電話に出てメモを取り、キイボードを叩き、お弁当を食べて歯を磨き、電話をかけてメモを読み上げ、エンターキイを連打し、また電車に乗り、明日の朝食のパンを購うためにコンビニに寄り、新製品のプリン(濃厚カラメル!)を手に取り、睨み、棚に戻し、なんとなく店内をもう一周してからまた手に取り、ぎゅっと目をつぶってレジに差し出し、「あーやっちゃった。」と「うっふー。」のハーモニーを奏でながら早足で帰宅したりする。

そうやって、夢を、日々を、生きる。真摯に。

誰かが、私を見ている。
眠らない、青く薄い影。
夜の底で、私を見守る。

「つまりは、均衡なのさ。」と彼は云う。

そうね。そうかもね。
私が眠り続けているから、彼は起き続けている。
それとも?
彼が起き続けているから、私は眠り続けている。
どちらも本当。そして嘘。要するに、お生憎様。

見守ってるのは、どちらかしら?

(ねえ?私は貴方のこと、なんだって知っているのよ?)

/了

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