(前編)【水野雄介×河合将樹】ソーシャルIPOを目指す社会起業家の苦悩と成長戦略
■ライフイズテック株式会社 代表取締役CEO 水野雄介氏
1982年生まれ。慶應義塾大学理工学部物理情報工学科卒、同大学院修了。大学院在学中に、開成高等学校の物理非常勤講師を2年間務める。大学院修了後、人材コンサルティング会社を経て、2010年7月 ライフイズテック株式会社を設立。2014年、「Google RISE Awards 2014」を東アジアで初受賞。著書に『ヒーローのように働く7つの法則』(KADOKAWA)
■株式会社UNERI 代表取締役 河合将樹
2019年に、名古屋から起業家が生まれる仕組みをつくるためUNERIを開始。2020年に法人化。創業時より名古屋市スタートアップ支援室と共に生態系づくりに取り組み、社会課題解決に繋がる起業家を育むプログラム提供やを行なっている。10月からはインパクトリターンを意図した資金提供を開始。
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対談の内容を前編、後編に分けてお届けします。今回の記事は前編です。
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河合:ソーシャルIPOという言葉の第一人者で提唱者でもある、水野さん。本日は宜しくお願い致します!
水野:お願いします。
【UNERIの100万円を社会変革の種に】
河合:まず、今回のUNERIの疑似ファンド設立についてご説明します。これは創業期の社会起業家の方々に返済不要の資金をもとに、「社会的インパクトを可視化する」ということをテーマにした実証実験です。
社会課題解決を目的としている出資、いわゆる社会的インパクト投資(以下、インパクト投資と表記)の市場は目覚ましい成長を見せています。GIINのレポートによると、世界では約80兆円の市場が、また日本では約5000億円の市場があると言われています。
しかし、必ずしも利益追求が最優先ではない創業期の社会起業家に対して出資で資金提供を行える機関が圧倒的に不足しているというのが私たちの課題認識です。また、インパクト投資で資金調達をする際に発生する追加要素が起業家に伝わっていない事も挙げられます。
エクイティで資金調達し10年以内にIPOを目指して成長する、もしくはM&AするといったEXIT戦略は、戦略的に考えて非合理的である場合があるんです。
そこで今回、
(1)創業期におけるインパクトの可視化
そしてあまり大きな金額ではないですが、
(2)30万円/人の資金提供
の2つを行うことで、早期から情報の非対称性を埋めつつ、自社が創出するインパクトの可視化と把握、今後の成長加速や仮説検証ができればと考え、今回の取り組みを開始しました。
河合:水野さん、実は今、全国からお申込みが来ていて、募集開始1日であっという間に定員オーバーしちゃいました。
水野:これ僕が創業するタイミングだったら絶対申し込むよ。
例えばライフイズテックの事業だったら、中高生向けのプログラミングキャンプを始める前に「キャンプやりたいんだけど」って応募して選考通れば30万円もらえるってことでしょ?
河合:そういうことです!
もちろんお金は返済不要で株も頂かないです。
水野:すばらしい! ライフイズテックもちょうど創業の時期に、確か国からの助成でETIC.さんからお金を提供いただいたんだけど、その当時とても助かったよ。
河合:その当時おいくらぐらいもらえたんですか?
水野:150万ぐらい提供してもらったと思う。
河合:150万も提供してもらえると嬉しいですね!
水野:でもこれって、河合くんの自己資金でやってるんでしょ?
それすごいよね! これはありがたい。
河合:ありがとうございます!また、インパクトの可視化に関しても触れたいと思っています。
我々はSIMI(社会的インパクトマネジメントイニシアチブ)の加盟団体であり、関係者と意見交換もしたのですが、個人的な問いがいくつかありました。その1つが、創業期の起業家に最適化した場合です。既存のロジックモデルではなく、脳内のビジョンをロジックモデルを応用しながら定量的に可視化することが、創業期の起業家において効果的だという事も独自に実証した時に判明したため、今回実施することになりました。
水野:理想としては、30万円あげた団体がどのような結果を出してくれると良いの?
河合:インパクトリターンをしっかり出すことができれば嬉しいと思います。
水野:インパクトリターンとは例えば?
河合:例えば環境問題が改善する商品を販売している会社が、「商品がどのくらい売れると、環境問題がどのくらい解消されるのか」という部分に数値ベースで指標つけて出てくる状態です。その部分を自分たちで認識して事業を行えているという状態が理想です。意図を持ちながら、それを説明できる状態ですね。
水野:なるほど、分かりやすい。
河合:僕自身、『創業期からこれができていたら、とても有意義だったな』とすごく感じています。こういった「投資家と起業家の情報の非対称性」を埋めていけたらと思っています。
【起業家の成長パターンとお金の色】
河合:私たちUNERIが思っている社会起業家には大きく3つのタイプがいると思っています。
河合:お金の流れで分けてみました。まず1つ目が出資型のタイプ、いわゆるVCからエクイティだったりとかエンジェル投資家から株を放出しながら成長してIPOやM&Aを遂げて成長していくというような企業ですね。まさに水野さんの会社だったり、ユーグレナの出雲さんだったり、LITALICOさんとかが該当すると僕は思っています。
タイプ2がいわゆる融資型ですね。自社事業だけでしっかり成長できる、もしくは変動的な事業ではないからこそ融資が借りやすいというような融資型の企業、例えばETIC.さんもここに該当すると思います。
タイプ3に寄付型の企業があります。これが世の中で一般的にイメージされる「社会起業家」かなと思っていて。Learning for Allさんや、D&Pさんとかが該当すると思っています。
10年前とか20年前だと、「社会起業家」というとこの寄付型の企業をイメージされる人がかなり多いと思います。今だと、水野さんのようないわゆるタイプ1の出資型が増えている。
エクイティで成長しながら会社が大きくなれば結果的に社会も良くなってくる、そういう企業が、僕たちの世代でもかなり増えているし、今後もっとスタンダードになると感じています。
河合:そこで今回は、株式会社で社会起業家としてやっていくならどんな壁にぶち当たるのか、
なぜソーシャルIPOという言葉が生まれたのか、などたくさんお伺いできればと思っています。
水野さんから自己紹介もしていただいてもよろしいですか?
水野:はい。ライフイズテック株式会社で、中学生・高校生向けのプログラミングとかデータサイエンスの教育のプラットフォームを行っている水野と申します。もともと物理の教師をやっていました。教えている中で、『子どもたち1人1人の可能性を最大限伸ばすことをもっとやりたい』と思うようになりました。当時、キッザニアを見ていて結局みんな良い教育が欲しいんだなと思ったんですよね。もちろんNPOでやるという選択肢もありましたが、やはり良いものを創り続けたいという気持ちがあったので株式会社にしました。
河合:良いものを創り続けたいという気持ちとは、例えばどんなことですか?
水野:その頃思っていたのは、「iPhone創りたい」という感じ。行列ができるものを創りたいっていうか、事業にずっと真摯に向き合えるのはサービスという形かなと思ったんです。なので、株式会社という形を選びました。でも目的は教育を良くして、できるだけ多くの子どもたちを幸せにすること。
【社会性を資本の方程式に落とし込む、ソーシャルIPO】
河合:今回テーマは「ソーシャルIPO」です。改めてソーシャルIPOが生まれた経緯を、教えていただけると嬉しいです。(ソーシャルIPOに関する詳細はこちらです)
水野:6年くらい前、今財務顧問でお世話になっている堀内さん(元森ビルのCFO)を口説きに行くときに、「ソーシャルIPOやりませんか」と口説いたのが最初のスタートだね。
河合:その時に「ソーシャルIPO」という言葉が生まれたんですね。
水野:今の時価総額というのは「PER(株価収益率) × 今の経常利益・営業利益=時価総額」という計算式で算出されて、時価総額の大きさによって出資に集まる額が変わり、できることも変わるという仕組みですが、そもそもその掛け算って合ってるの?と疑問でね。PERは期待値だけど、そこがすごく曖昧な方程式だなという認識を持っていて、次世代の社会をより良くするとか、誰かを幸せにするために僕らは仕事をしてるんだけど、それが反映される仕組みになっていないなという風に思うんだよね。
河合:社会に良いことをしながら株式会社でやっていく上で、そこに出てくる問題点に対して水野さんはメスを入れようとしているんですね。
水野:そうだね。いいことをやって且つちゃんと収益も上がっていて、そこに対してファンドとファンも増えて、っていう状態がIPOでも作れたならば、もちろん僕ら自身はそれをやっていくし、やっていけると思う。河合君も含めて次の世代の人たちも、そういう社会にいいことをやりたいと考えている人、すごい多いじゃん。
河合:多いですね。
水野:だからこそ、どうしたら事業が伸び、どういう風に株主の方とコミュニケーションをとると良いのか、という部分を仕組み化することができれば、次の世代の起業家たちも分かりやすいかなと思ってね。オレたちも本筋は教育のところでイノベーションを起こすことだけど、どうせやるならIPOでチャレンジしたいと思って、辿り着いたのが「ソーシャルIPO」。
河合:ソーシャルIPOを考え始めるきっかけは何かありましたか?
水野:ライフイズテックで中高生とキャンプをやっていたときに、キャンプに来てる子が、うちの株を買いたいって言い出したんだよね。
河合:ライフイズテックの株を買いたいと!
水野:それすごいうれしいじゃん。やっぱり株式ってファンが買ってくれるといいなぁと思い、考え始めたというのが最初だね。
河合:ライフイズテックに参加している学生がライフイズテックの株を買いたいというところから、「株主 = ある種のファン」として株式投資型クラウドファンディングを活かす発想に近いのかなと思いました。
【インパクトの本質は、社会が変わること】
水野:例えば、同じ利益1億円という会社が、CO2を出している会社なのか、CO2を無くしている会社なのかで、同じ利益1億円でも全然違うと思うんだよね。インパクトが計測できて、ちゃんとそれが時価総額に反映される状態を作りたいなと思います。
河合:インパクトって目に見えないものですし、結構バズワードになっていたりするじゃないですか。今日本がSDGsという言葉で多くの人がSDGsのバッジをつけていろいろなところでSDGsに取り組んでいますが、今のイギリスでは、インパクトという言葉で、多くの人がインパクト評価やインパクト投資に注目して取り組んでいて、「インパクトウォッシュ」という言葉も出ていますよね。その上で、水野さんが考えている「インパクト」の言葉の中にある本質、一番大切なものは何だとお考えですか?
水野:インパクトの本質は、「社会が変わる」ということだと思う。例えば、人類が飛行機を造りましたとか、ライト兄弟が最初に飛行機に乗って飛びましたというのは、ものすごくインパクト高いと思うんだよね。これと比べて、ライフイズテックのプログラミング教育のインパクトにどれくらい差があるのかということを、本当は可視化しなきゃいけないよね。
河合:インパクトの相対評価ということですね。
水野:そう。いろいろな企業が相対評価できる状態を作るということ。自動車を造ることと、プログラミング教育はどのくらいの差があるのか、オックスフォード大学を設立することと、ライフイズテックの活動はどれくらいインパクトの差があるのか。本当はそういうところまで可視化しなきゃいけないんだけど、それってかなり難しいんだよね。
河合:それは圧倒的に難しいですよね。
水野:GDPを作るのに近い話だからね。それでも、本当はそういうところまで可視化しないとインパクト評価は解決出来ないなという気がしてるんだけどね。
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後編では、社会的インパクトを可視化するために水野さんが重視している点について詳しく伺います。
(後編)【水野雄介×河合将樹】ソーシャルIPOを目指す社会起業家の苦悩と成長戦略
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