サーキュラーエコノミーの分野で、名古屋は世界No.1になれる。UNERIが考えるインパクト市場のこれから
「東海地方は、保守的だ」
私(筆者)が学生時代の頃から、よく耳にする一説。名古屋に関わったことがある人であれば、特に違和感もなく受け取れるフレーズだろう。
しかし、今年社会人になった私は、ここ数年、その通説に疑念を抱くほどの変化が東海地域で起きていることに気がついた。
名古屋市が主催するイベントでは、「ゼブラ企業」「パブリックアフェアーズ」など最先端の議論が交わされ、都内の独立系VCから資金調達を行う名古屋のスタートアップも増加しており、「名古屋」の存在はスタートアップ界隈で存在感を増しているように感じる。
私が知る限り、その仕掛け人になっているのが株式会社UENRIだ。今年で3期目を迎えたUNERIは、東海地域を起点としながら、日本・世界を股に掛けた起業家のエコシステムを構築している最中にある。
この3期目に、今までUNERIとして考えてきた事業や、そこに結びついていた仮説、そして今後具体的に何を目指していくのかについて、元インターン生の私の視点から、深めていきたいと思う。
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PROFILE
河合将樹
代表取締役
1995年愛知県生まれ。大学在学中、イギリス留学を経て、世界11ヵ国240人と共同生活をする内閣府事業に参加。地方から社会課題解決に繋がるチェンジメーカーを育む場の必要性を感じ、NPO法人ETIC.にて学生起業家向け私塾の運営に従事した後、2020年に株式会社UNERIを創業。
太田圭哉
1994年愛知県生まれ。複数社でのNPO・スタートアップでの勤務を経て、2020年に1人目の社員としてUNERIに参画。UNERIにおいては、名古屋市事業、UNERI Capital事業など、横断的に事業運営に携わる。
インパクトを生み出す鍵は「越境」にある
ーまずは創業前のことから少し伺ってもいいでしょうか。現在、UNERIではスタートアップとソーシャルが交わる「インパクト」の創出を掲げて活動しています。この構想は、創業前からあったのでしょうか。
河合:「インパクト」という言葉を使っていたわけではなかったけど、ソーシャルとスタートアップの越境という点は、創業当時から意識していることではあったかな。
もともとMAKERS UNIVERSITYや世界青年の船など、様々な考えや価値観を持つ起業家や活動家が集まる場に僕自身が身をおいていたからだと思う。
太田:つい先日、日本におけるインパクト投資の第一人者の方から「越境型のキャリアや場所が大事」ということを教えていただいたんだけど、そこの感覚はずっとありました。それはイベント事業をやっていた以前から、今も意識していることだね。
ーたしかに登記前に開催したUNERI500(*1)は、同じイベントに同席するイメージがつかないような登壇者の方が一堂に会するイベントでしたね。
河合:2019年頃は当初はスタートアップのモデルケースがようやく名古屋に現れ始めた時代だけど、スタートアップ、社内ベンチャー、NPO、名古屋の各領域の有識者達全員来ていただいたみたいなイベントだったからね。
太田:イベント事業が中心だった当初から、ただ時代の流れに乗っかるだけじゃなくて、一歩先の未来を描いて次の市場の流れを作っていこうという考えが強かったからね。だからこそのセッション・ゲスト構成だったと思う。
ーそのUNERI500から約3ヶ月後くらいから名古屋市とのスタートアップ共創促進コーディネーター事業が始まり、登記もされたんですよね。正直「いきなり名古屋市との事業!」と驚きました(笑)
市との事業というとイメージがつきづらいですが、具体的にはどのような事業内容に取り組んでいるのでしょうか?
河合:主にやっていたことは、年に3回のイベントと東海圏のインキュベーション拠点の訪問。入居している企業やその拠点のコミュニティマネージャーから課題をヒアリングしたりして各施設が連携できるようにしていったという感じだね。
訪問は2年間で611回行って、企業間のマッチングも294件生み出したという点で、多分世界一足で稼いでいる組織だと思う。
起業家エコシステムを作るのに必要なのは社会関係資本
ー地域の中で誰よりも奔走していたUNERIですが、河合さんは名古屋市との共創事業において、起業家エコシステムを作るということにどういったこだわりを持っていたのでしょうか?
河合:UENRIとしてやっていることはすべて、地域への社会関係資本の蓄積につながっていけるようにと考えてる。社会関係資本とは、「コミュニティに内在する人と人とのネットワーク」と一般的に言われているけど、僕は「経営資本における人の拡充」だと捉えてる。
僕たちは、それらの社会関係資本を積み上げるための媒介としての役割を果たして、最終的には地域のプレイヤーそれぞれが、それぞれが持っているインセンティブや関係性、知識をもとに活動することによって、自律的に成長していけるという状態にしていきたいんだよね。
例えば、名古屋という地域に、長い時間軸で見ると必要になってくる新しい知識や考え方を持ってくるという意味で「パブリックアフェアーズ(*2)」や「ゼブラ企業(*3)」というテーマでイベントを開催したこともあった。
ーなるほど、大きく目に見える結果が出たのはどのタイミングだったのでしょうか?
太田:2021年の頭に、名古屋のスタートアップと全国のVCが繋がるオンラインピッチ「Nagoya Startup Pitch」を開催したときかな。
名古屋市でも2019年頃からイノベーション創出の機運が高まりつつあり、インキュベーション施設が次々に設立されたものの、起業家ニーズに応えた連携があまりできていなかったころなんだよね。
実はもともと要件に入っていなかったところに追加提案として実施したイベントだったから、印象に残っているな。
ーそれにはどうしてもUNERIとして実施するこだわりがあったんですか?
河合:明確にニーズがあったんだよね。実際にインキュベーション施設への訪問をする中で、東京でモデルケースとなっているスタートアップ企業のように、「独立系VCからエクイティで調達してIPOを目指す」といった起業家がいないと思った。
そういった先輩起業家は名古屋から出ていってしまうから、参考例となる先輩起業家も、そのような起業家に投資するVCとの接点を誰も持っていない。
名古屋市側もそういった現状に課題感を持ちながらも、適切な人をピックアップして紹介するということはできていなかったので、ちょうど自分たちだからこそ満たせるニーズだと思い、やることに決めたんだよね。
河合:名古屋市場に目に見えるインパクトを実現できるように、VCの招待に関しても、起業家側の事前の綿密なヒアリングを通して”誰にDMを送るか”までかなり綿密に設計したね。
太田:これは起業家だけじゃなく、VC側からもニーズがあったのが大きかったよね。都心にはVCが増加してきている一方、投資対象となる起業家のほうが足りていない。ただ、起業家の数は一朝一夕に増えるわけではないので、地域の起業家に対して目をつけ始めることになる。
そういった状況を受けて、「3時間でお互いのニーズが合致している起業家15人に会えて、その後のミーティング調整等のフォローもしっかりやりきります」という設計を打ち出した。
名古屋の起業家コミュニティに精通しながら東京の投資家ニーズも理解しているUNERIだからこそできるアプローチがしっかりささって、実際に資金調達事例が3件出て、累計資金調達額も3億円を超えたことは、大きな意味があったと思う。
ー実際に3件も生まれたのですね!今までなかなかそういったニュースに馴染みがなかった名古屋からすると、大きく変わるきっかけになったんじゃないでしょうか?
河合:東京の人から、名古屋の起業家の盛り上がりを改めて確認してもらう機会になったよね。これがきっかけとなって、このイベント後も東京のVCの方が名古屋に定期的に通ったり、県のプログラムに東京のVCが参画したりするなど、実際に変化が生まれてきてる。
結果的にVC・起業家・パブリックセクター(名古屋市)がそれぞれのインセンティブ設計に基づいて、UENRIの介在なしに回り始めたことは、自分たちの価値をより感じた瞬間かな。
社会起業家の成長には、より深い「死の谷」がある
太田:先ほど「起業家は一朝一夕で育たない」という話もあったけど、それが今やっている社会起業家のインキュベーション事業「UNERI Social Impact」とも関わっているというところもあるよね。
ーなるほど、そうつながるのですね。なぜUNERIとして社会起業家のインキュベーション事業に取り組み始めたのか、詳しく背景を教えて下さい!
河合:ユニコーン企業を目指すようなスタートアップ起業家、つまり急成長を志している起業家に対しては支援は多いけど、短期間での急成長による利益創出が見込めない社会起業家に対しては、サポートがあまりされていない現状なんだよね。
特に金銭的支援の面では、VCからは急速な成長を見込めないとされて、資金調達もできない。一般的なビジネスモデルでないゆえに、融資をしてくれるような機関からも支援をうけにくい。かつ、寄付に流れるお金も少ない。そうなるとどうしても初期フェーズに必要な資金は足りなくなる。
社会課題先進国と言われながらその担い手がいないという現状が課題だと感じたからこそ、自分自身がMAKERS UNIVERSITYで培ってきた0→1の作り方をベースに独自にアレンジを加えて、そうした人を増やしていくべきだと旗を立てた事業だね。
ー先に述べたようなスタートアップ業界のようなエコシステムを社会起業家界隈でも作ろうと思うと、まず必要なのが初期フェーズの資金というわけですね。
総額100万円の擬似インパクトファンド「UNERI Capital」はなかなか攻めた取り組みだなとSNSで見ていたんですが、それは先程のお金の話に関わってきますか?
河合:「社会的インパクトを出せば元金の返済は不要」というような、インパクトリターン100%の資金提供を実験してみようという試みだったんだよね。
資金調達前の社会起業家を対象に、一人あたり30万円を提供した上で、一緒にインパクト戦略を立案するという内容のプログラムだった。全く宣伝なしで定員3名のところに2週間弱で30名以上の応募があったんだよね。
ーこの取り組みに対してどういった仮説を持っていたんでしょうか?
河合:2つの仮説があった。一つはインパクト投資を受ける対象となる企業の初期フェーズには必要とされている情報が足りていないこと。そしてもう一つは、フィランソロピー(*4)の特性をもつ資金が特に社会起業家に必要とされているということ。
太田:ほとんど広報していないにも関わらず30名以上から応募があったという事実からも、「社会起業家の創業フェーズに対する資金提供が足りない」という問題が浮き彫りになった感じもするよね。
河合:そうだね。そして成長軌道に乗るまでの「死の谷」がユニコーン型のスタートアップと比べて深い。
太田:さらに言うと、そこからはい上がる手段も本当に少ないんだよね。特に社会起業家はそもそも受益者からお金をとれないことが多い。
「受益者からお金を取る必要がなくて、一定の収益性を生み出す」ことができるような最適なビジネスモデルを見つけるために、何回もピボットする場合が多いように感じている。そうした面もあり、特にシード期にお金が足りなくなることが多い。
ディープテック領域には補助金が出始めたり、インパクト投資もある程度成長したスタートアップにはお金が出始めているけど、本当に超初期の0→1フェーズを支援する人もお金も足りていない。
だからこそUENRIが、返済不要のフィランソロピー資金の媒介となることで状況が変わるのではないかという実験をしている、ということだね。
東海地域が持つサーキュラー・エコノミーのポテンシャルと責務
ー今までソーシャルインパクト領域でのお金や起業家人材へのUNERIの捉え方について触れてきました。それらを名古屋でやっていく意義というのはどこに感じているんでしょうか?
河合:インパクトという観点でみたときに、名古屋はサーキュラー・エコノミー(*5)の分野で世界でナンバーワンになれるポテンシャルを持っていると信じているからかな。
サーキュラー・エコノミーにおけるプロダクト開発は、最終的に技術勝負になると考えられる。勿論、「技術」が主語ではなく、どんな社会を描くのか、という「社会」が主語ではないといけないけどね。
愛知県を始めとした東海圏は技術力が高い企業がとても多く存在していて、今後そのような技術力で競争優位をもつ会社は、サーキュラー・エコノミーを実現するプロダクトのコアを支えるポテンシャルを秘めているはず。
しかも、既にそうしたプロダクトを開発する責任を感じた各々のステークホルダーが動き始めているね。
ーつまり、トレンドだから進めているわけではなく、やらざるを得ないと企業が考え始めているということですね。そういった流れはどこで感じたんですか?
河合:地域の大企業の方と打ち合わせをした際に、カーボンニュートラルという言葉が多く出始めるようになり、「これからはDXじゃなくてSX(サステナブルトランスフォーメーション)」といったことをおっしゃっていて。
それまでUNERIからもSXの重要性を説いてきたこともあったけど、当時はあまり納得してもらえていなかったんだよね。「どうしていきなりそういった方向性になったのか?」をお聞きすると、上層部からのお達しだと。
太田:2021年を境に、名古屋・東海圏で急速にサーキュラーエコノミーの波が生まれてきたと感じるな。
2021年には、東海エリアにおけるサーキュラーエコノミーの実装を後押しする「東海サーキュラーエコノミープロジェクト」が生まれたんだよね。その頃から、UNERIにもサステナビリティに関する依頼が届くことが増えてきたように思う。
ーいきなり風向きが変わったんですね。一方でそのようなトレンドは可視化もされていないので、キャッチアップしていくのは困難になりそうですね。
河合:まさに今ESGとか、脱炭素とかそういったワードがトップダウンで降りてきているけど、それに対して現場は何をすればいいかわからないというのがこれから顕在化してくるニーズだと思う。
そして大企業のパワーが強いがゆえに、対応に迫られるスピードは早いと考えられる。そのようなサステナブルやリジェネラティブ(*6)といった観点を持つ起業家を理解できるインキュベーターは少ないからこそ、UNERIが担える役割は大きいと思っているんだよね。
太田:サステナビリティという文脈では、今期は自治体×大企業×ソーシャルスタートアップで1つ事業をする予定なんだよね。名古屋に限らず東海地域全体で、サステナビリティに対する関心や、UNERIに対する期待感が高まっているのを感じる場面が増えてきたように思う。
インパクト志向の市場を創出するためには「言葉の定義づけ」が必要
ーUNERIが今まで担ってきた役割や名古屋に拠点を持つ意味についてお話しいただきましたが、3期目以降はそこからどう展開していくのでしょうか?
河合:先ほど話したように、インパクトセクターの需要は急激に伸びてきている。岸田首相の方針の中で、インパクト投資を推進していくと明言されて、実際に名古屋以外の様々な機関から、インパクト投資に関連した問い合わせが来ている状態という状況がその需要増加の実態を表していると思う。
だからこそ、UNERI Capitalのような実験的な取り組みを、冒頭に話したような名古屋でのVCマッチングの例のように、様々な人のインセンティブに基づいて回っていくような仕組みを設計していきたい。
太田:直近で取り組んでいくのは、「インパクト」と言う言葉の定義づけ。今はそこに向けた事業を仕込んでいるところだね。
ーどうして「インパクト」の定義づけにフォーカスするのでしょうか?
河合:インパクト志向の市場を創出するためには、言葉の発明が必要だと思っているからだね。これまで、社会課題解決の起業家というと、伝統的な事業型・寄付型NPOが第一想起される傾向にあったと感じてる。
「ソーシャル」が悪いわけではないけれど、自分自身「ソーシャル」という言葉を使ったときに、スタートアップ業界の関係者から「儲ける気がなさそう」と言われる場面も多かった。
太田:社会課題解決と言っても、上場を目指すスタートアップもいれば、上場は目指さないけど売上が数十億円ある事業型NPO、受益者以外から資金を集める寄付型のNPOもある。一緒くたにはできないんだよね。
河合:本当にそう。自分自身もそうだけど、しっかり稼ぎながら社会を良くしていきたいと思っている起業家もたくさんいるし、最近はそうした起業家が増えてきたと感じている。
上場志向の社会課題解決型スタートアップの一部には、変に誤解されることを嫌って、「ソーシャル」という言葉を使うことに、ある種の抵抗を持っている人もいるんだよね。
そうした人にとって、「インパクト」という言葉は非常にフィットすると思う。
太田:2022年の9月号のForbesでは、UNERIも協力させてもらう形で、インパクトスタートアップ100社を選出する特集が組まれたよね。社会的にもインパクトに対する関心の高さ、「インパクト」と言う言葉の引力を感じることが多くなったな。
河合:「インパクト」という言葉を定義づけすることによって、集まる人や機会の質もまた変わったものになると思うし、救われる起業家がいると思う。「定義を作ること=新しい市場を創出すること」だと思っているんだよね。
ー前提や根底が変わるような方向に向けて、UNERIは具体的なアクションをとり続けていることが伝わってきました。
あっという間にお時間となってしまいました。最後に3期目への意気込みをどうぞ!
河合:僕たちは登記時からセレンディピティに支えられていると思う。今まで撒いてきた種があったからこそ、時流や周りの人に支えられつつ、様々な事業にチャレンジをしてこれたんだと思ってるんです。
これからもUNERIは、名古屋という地のみならず、海外含め、私たちが媒介となってエコシステムを耕していくので、ぜひこの記事を読んで興味を持ってくれた人がいたら、気軽にお茶させてください!
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