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(後編)【水野雄介×河合将樹】ソーシャルIPOを目指す社会起業家の苦悩と成長戦略

弊社の総額約100万円の擬似ファンド設立を記念し、「ソーシャルIPO」の提唱者であり、インパクト投資も含め累計約55億円を資金調達したライフイズテック株式会社代表取締役の水野雄介氏と弊社代表の河合が「ソーシャルIPOを目指す社会起業家の苦悩と成長戦略」をテーマに対談しました。

■ライフイズテック株式会社 代表取締役CEO 水野雄介氏
1982年生まれ。慶應義塾大学理工学部物理情報工学科卒、同大学院修了。大学院在学中に、開成高等学校の物理非常勤講師を2年間務める。大学院修了後、人材コンサルティング会社を経て、2010年7月 ライフイズテック株式会社を設立。2014年、「Google RISE Awards 2014」を東アジアで初受賞。著書に『ヒーローのように働く7つの法則』(KADOKAWA)

■株式会社UNERI 代表取締役 河合将樹
学生時代にNPO法人ETIC.が主催する未来の起業家・イノベーターのための学校「MAKERS UNIVERSITY」の運営に参画。ヤングダボス会議「One Young World」や内閣府事業「世界青年の船」などでグローバルスタートアップに触れ、名古屋の社会起業家を育むエコシステムに関心を抱き、2020年5月にUNERIを創業。名古屋市共創コーディネーター。

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対談の内容を前編、後編に分けてお届けします。今回の記事は後編です。
前編からご覧になりたい方はこちら
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【社会に出ている数字を底上げすることが本当のインパクト】

河合:今後、社会的インパクト投資のように、社会性も重視しながら評価を受けることになる場合、最初に重視すべき点などはありますか?

水野:最近考えているのは、自分たちの会社が何をやったのかという数字ではなく、社会で計測されている数字を、自分たちの会社の事業を通して変えたいってことかな。

河合:社会で計測されている数字とは例えばどんなことですか?

水野:例えば、2020年にユニセフが出した子どもの幸福度に関するレポート。そのレポートでは、日本の子どもの身体的健康は38カ国中1位であるのに対し、精神的幸福度は、38カ国中37位。ライフイズテックの場合だと、ここの精神的幸福度の順位を上げなきゃいけないよね。他には、先生のICT活用率に関してのデータでは、日本は先進国最下位という結果もあり、このような社会に出ている数字をKPIにして、事業として仕組みを作って、その数字を上げることこそが本当のインパクトだと思う

ユニセフ報告書「レポートカード16」先進国の子どもの幸福度をランキング 日本の子どもに関する結果より引用

【事業の本質と実績が資金調達の鍵】

河合:今回ライフイズテックがインパクト投資で資金調達をした際や投資家を巻き込む際に、最も工夫した点や意識していた点はありますか?

水野:インパクト投資家を巻き込むためにやっているというわけじゃないんだけど、いつも株主の方とお話するときに大事にしていることは本質の話をすることかな。「私たちはもちろん利益を出して事業も成長させます。でも教育のこういう部分を変えたいです」ということをきちんと伝える。それを応援したいと思ってくれる株主の方が多いかな。何のためにこの会社があるのかということ、何を変えたいのかということ、どんな戦略やどんなプロダクトで変えることができるのかという部分をきちんと説明し、実績を生むことが大切だと思う。

河合:そこをどう自社で作りながら表現し、共感してもらうかということですよね。

水野:そう。理論で言ってもダメで、プロダクトだと思う。これを実現させるためには「このプロダクトどうですか」と言って、キャンプ見せたり、テクノロジア魔法学校などのシステムを見せたりする。『このプロダクトだったら本当に社会変わるかもな』『これは今社会にとって必要だ』と思ってもらえるかどうかだと思う。

河合Forbesの記事で、いわゆる社会的ミッションに対する株主の同意を明文化するということにこだわってきたとありました。中でも、たとえ高い収益性が見込めるとしても中高生1人1人の可能性を伸ばすことにそぐわないビジネスはやらないということを名言しながら資金調達されていたということが書いてありましたが、これはいろいろな投資家とお話するときに反発など、賛否両論あったのではないかと思ったのですが、実際のところどうでしたか?

水野:JAFCOさんというVCの会社とお話したときのことですが、JAFCOさんがリードとってくれたから、JAFCOさんとまずお話しますと。VCさんだからこそちゃんと契約書の中に入れたいと思っていて。

河合:お互いの合意でできているということですね。

水野:VCさんだからこそ、そこを納得してもらうことが重要だと思う。もちろん収益は伸ばしたいけれど、目的から反うもの、つまり中高生のためにならないものをやるというのは、会社を創った理由がズレるので、「それを応援してくれるなら一緒にやりたいですし、応援してくれないなら難しいです」という話を最初にしてる。賛否両論とかではなく、そのような話を最初にしてるかな。VCのJAFCOさんのような会社がそういう意思決定をしてくれるのはすごくありがたいし、すごいと思いましたね。

河合:逆にJAFCOさんがこういう仕組みでやっていきましょうということで、ファイナンシャルリターン100%求めているVCさんからも結構同意を得られたのは大きかったですか?

水野:もともとそういうVCさんたちとも話はしていたから、基本的にはみなさんがその前提で投資するかどうかの判断してくださってる。ただ、まとめ役でJAFCOさんがいてくれるというのはとてもありがたいね。

河合:先日、はたらくファンドさんから資金調達されていましたよね。はたらくファンドさんはまさに「日本の先進事例を創る」という覚悟決めてインパクトファンドをやっている方々だなと感じていますが、はたらくファンドさんから調達した場合と、そうではない一般的なVCのファンドの場合だと、実務の面で違いなどはありましたか?

水野:はたらくファンドさんの場合は、そもそもインパクトを評価するモデルを創らなければいけませんよねというところからのスタートだったね。「私たちは、もちろん子どもたちの事業もやりますが、インパクト評価も会社として工数を掛けてやりますし、そこを一緒に創りましょう」という話をしました。私たちはもともとやろうと思っていることだし、はたらくファンドさんとしても実例が必要なので、一緒にやりましょうと。

河合:これからの日本において、ソーシャルIPOの事例などがたくさん出てくるということですね。

水野:出したいなと思っているから、はたらくファンドさん自体もそういう社会を創るために、たくさん投資をしていくんだと思う。

河合:そうなると既存のIPOとソーシャルIPOだといわゆる上場するときのフローとかで大変な面も多々あるのではないかと思ったのですが、調整がすごく大変だったりとか骨が折れるとか、そういう部分はありますか?

水野:普通にIPOするよりも、インパクト評価とかB Corp取ろうとか、いろいろあるので工数はより増えます。ですが、それは結局上場後にやりたいことなので、上場前から株主とコミュニケーション取れている状態でないと、コミュニケーションロスが起こってしまうので、いずれやらなければいけないことかなと思います。その部分が大変なことの一つですかね。

【ソーシャルIPOを満たす4条件】

河合:ソーシャルIPOという言葉は水野さんが提案をしながら、いろいろな投資家の方々とまさに一緒に創り上げていくというまさにスキーム自体を生み出していくところだと思いますが、その中で工夫したポイントはありますか?

水野ソーシャルIPOを考える時に、4つの条件を作ったんだよね。

(1)インパクト評価、(2)優先株上場、(3)ガバナンス、(4)ガバナンスを監視する第三者認証。

インパクト評価は先ほど説明した通りで、(2)が優先株。会社として何をやるかという最終的な意思決定は議決権の問題で、その問題があるから資金調達をせずにインパクトを追えないというのは違うと思うんだよね。そもそも10年前から1株持っている人と、昨日持った人の1株が同じものでいいのかという疑問があって。コミットが違うんだから。

河合:そうですよね。リスクが違いますからね。

水野:もちろん昔に比べたら高い額で買うわけだけど、それを、お金で買えるというのがどうなんだと思っていて。ピーター・ティールとかが今作っているロングタームストックエクスチェンジの考え方だけど、例えば10年持っている人は3倍、5年持っている人は2倍という状態を創れる上場というのがスキーム上できたらすごいなと思う。長く持ってもらえる人のほうがちゃんと会社のこと理解してるし、応援してるし、ファンであるから。

水野:でもそれをやるためには、ガバナンスが大事になりますと。

河合:(3)ですね。

水野:はい。同時に、そういうことができる取締役会や、社内のガバナンスがどういう状態なんですかという部分が(3)だね。そして、(4)がそれを監視する第三者認証。

河合:B Corpとかですね。

水野:今のところでいうと、B Corpとかだね。以上の4つの条件を、数年前にソーシャルIPOを考えたときに決めたんだよね。

河合:理想の投資とは何なんだろうとお話を聴きながら感じました。ワインも寝かせれば寝かせる分だけ価値が出てきますよね。最初に持っていた人のほうがリスクをとっているからどんどん価値が高くあるべきだなと。

水野:株主は、ファンであり、本当にしっかりと応援してくれる船のような存在だよね。一緒に仕事するということだから。そういう状態をいかに作るかが大切だと思う。

河合:お金ってある種の無体物のような形がすごくするなと思っていて、そこがある種の有体物の生き物のような形で、これから動いていくのかなと感じました。温かいお金の流れを作っていくというのを、指標のところまで落とし込むという部分が、これから21世紀でやるべきことなのだなと感じました。

河合:今まさにそこに挑んでいるところだと思いますが、ソーシャルIPOを目指すうえでの苦悩はありますか。

水野:苦悩とかはないですが、やることは増えたね。事業を成長させながら、というところが難しいかな。

河合:単純に利益を出すだけじゃなくて、インパクトの創出においても注力しなければならないので考えることも多くなるし、やるべきことが増えるという点が大変ということですね。

水野:あとは、新しいことに挑戦することかな。でもスタートアップだったらそれぐらいやっていかないといけないよね。

【私たちがソーシャルIPOを目指す人の道をつくる】

河合:ここから質疑応答に入ります。早速、1つ目の質問です。「ソーシャルIPOを考えるにあたって、インパクト指標に対して出資者と合意をとることが必要だったと思います。決定のうえで衝突や議論があったのでしょうか。」という質問です。水野さんいかがでしょうか。

水野決定の上で衝突はないね。基本的に私たちが創っているビジョンとかインパクトに対して、それを「一緒に叶えたい」と思っていただけるかどうかだと思う。もちろんそれに対して「もっとこういうやり方があるよね」とか、「こういう方法も考えたほうがいいよね」など議論をして一緒により良い方向を探すけれど、衝突とかはないね。

河合:2つ目の質問です。「株主の意見に左右されたくないからNPOの決定を選んだということを聞いたことがありますが、この話を聞いてどう思われますか。」という質問です。

水野:NPOを選ぶ理由が、特に「株式会社は株主の言うことを聞かなきゃいけないから」だとするならば、それは正しいと思う。ただ、お金の力をスケールしやすいという株式会社の良いところもあります。NPOの中でも寄付でしかできない仕事、例えばSDGsとか、絶対当事者からお金取れないけど解決しなければいけない問題もあるので、事業にもよると思いますね。

河合:僕もこれに関しては先ほどのタイプ1、2、3(出資型、融資型、寄付型)の分類で考えたときに、「現代においては当事者からお金を取れないから、寄付でやらざるを得ない。且つ社会に絶対必要」みたいな事業は寄付型でやるしかないと思っていて、そうなると寄付を受けられるようなスキームである認定NPO法人を取るための努力をする方が良いと思っています。
「株主の意見に左右されたくないから」という理由に関しては、株主は同じ船の仲間なので、慎重にそういう人たちだけ株主に入ってもらうようにすれば、コンフリクトは起きないのではないかなと思いました。水野さんはまさにその状態を体現していると思います。

水野:そうだね。そこで衝突することは一切ないし、とても応援してくれるので、とてもいい株主です。

河合:3つ目の質問です。「ガバナンスが大事だから、Bコープのような第三者認証を取ろうとされているんですか。」という質問です。ソーシャルIPOの4つの条件のうちの(4)についてですね。

水野:そうだね。わかりやすく外部の認証も必要かなと思っています。

河合:4つ目の質問です。「インパクトの可視化という面でいうとソーシャルIPOを考えていない寄付型のNPOにおいてもこれから先重要になってくるという感覚があります。ソーシャルIPOは投資マネーの話だと思いますが、株式会社やNPOのインパクトの財務諸表のようなものができた先には、ガバメントマーケット(行政)など投資以外の市場からお金を事業に流していくようなことも考えられるのでしょうか。もし構想やお考えがあれば、お伺いしたいです。」とのことです。

水野:あると思います。政府や自治体の仕事はそういうことだと思うので、それが加速させられるというのは、当然ありえる流れだなと思います。その上で私たちが、IPOに絞ったわかりやすい事例になれると、それを目指す人が増えるのではないかと考えてソーシャルIPOを目指しています。

河合:ソーシャルIPOが実現された先、その過程において生まれた産物がいろいろな部分に応用できるようになりそうですね。

水野:そうだね。

【初期は、事業を伸ばすことが最優先。】

河合:僕の周りでも中高生時代にライフイズテックに参加し、大学生になってメンターをやっていて、その後起業している人も結構います。これってまさにライフイズテックが育んできた「生態系」だなと感じています。最後に今後の構想など、考えていらっしゃることがあれば、教えていただけますか?

水野:たくさんあるね。でも今の「生態系」の話でいうと、例えば最年少上場の子がインパクト系でライフイズテックの卒業生から出てきたら最高だなと思ってる。
 今日ちょうどはたらくファンドさんから株式会社Compassという会社が出資を受けたリリースが出ていたんだけど、この会社でCTOを務める渡辺正太郎君は、ライフイズテックの創業時、iPhoneアプリの作り方を教えてくれていた当時高校生のiPhoneプログラマーなんだよね。ライフイズテックと同じく、はたらくファンドさんから出資を受けていることがとてもアツいよね。

河合:それはアツいですね!

水野:だからこういう人を増やしたい。そもそも僕たち自身も、より社会的影響力を出さないといけないと思ってます。

プログラミングスクールで意見交換を楽しむ参加者(ライフイズテック公式サイトより)

水野:インパクトを計測したり、アウトカムを考えることは重要なことではあるけれど、時間をかけすぎることによって、事業が伸びないのは本質的ではないので、自社のリソースをどこに使うのかは考える必要があるよね。事業 = インパクトではあるものの、計測の方に力を入れすぎてしまうと、特に初期は工数がかかるので、そこにあまり工数かけすぎないということも大事。

河合:それに関しては、今回のUNERIからの30万円の提供にも繋がると思いました。創業期にインパクトを可視化することは優先順位は下がってしまいますが、重要なことだと思っています。今回の30万円提供する中で、その会社が出すインパクトの部分にガチガチのロジックモデルとかセオリーオブチェンジを構築することは難しいかなと思いますが、簡易的な部分から取り組み始めることが双方にとっていろいろな化学反応が起きるのではないかと楽しみに思っています。

水野:30万円で何か明確なものを出すことを重要視しすぎず、インパクト革命、インパクト投資を行う人たちのためのコミュニティを創るぐらいの感覚でいいかなと思う。

河合:将来的にも、インパクト投資を受ける人だからこそぶち当たる壁があるということですよね。

水野:そうだね。一番大事なのは成長なので。まず事業、創業期はそれだけでも大変なわけで、そこが阻害されるような状態だとダメだと思う。

河合:ありがとうございます。自分自身にも刺さるお言葉でした。
これからソーシャルIPOを目指す社会起業家の人もたくさんいると思います。自分も成長を目指しつつ、今回の30万円に採択された方々に対して自分たちができることを全力でやっていきたいと思いました。今日はお忙しい中、ありがとうございました。

水野:こちらこそ、ありがとうございました。

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最後までお読みいただきありがとうございました。
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