🔖ポエティスム/詩上主義 46、温かい深海

46、温かい深海


いよいよ深海サブウェイの開通で
ちょっとした筋に誘われたものだから
行って来た

何だろうな…
駅構内は絢爛に
人工灯やイルミネーションで眩しいぐらいなのに
どこか背中の薄ら寒い何かと
端々の物陰の黒に目が行く

生っぽい酸素の循環と放出
いや、相当に人工的な施設の中にいるな…
しかし一大イベントだ
出店だらけで賑わしい
土産物に記念品
タレントに芸人にセレブ
何とも華やかだ

まさに“地表”に穿入れて
レールを引いて
ここまで降下する巨大エレベーターを作って
ホテルも作って

竜宮城かね?
すると俺、いや?俺達は皆
浦島太郎だ
まあ、その末裔ではあるが

『竜宮城』

ここで泊まれば
ヤンヤヤンヤと楽しめて
また背徳な事でも彼方此方で
ああ、そう、もうずっと気になっていた
あの異様に黒い物陰で

そして表ではお祭り騒ぎで

『世界一』

確かにそうだな
世界一の技術の最先端に訪れているのは確かだ

しかし、こう、楽しめない
何だか俺は一匹の深海魚になった様に
このサブウェイ内を漂っている

人類も宇宙へ行ったり
地球ほじくって更に地下に進行したり
大変さ

バーガーが売ってる
バカ高い
だが食うもんがない
だから仕方なく買う

子供達がはしゃいで走り回っている
老人達がツアーコンダクターに引率されている
彼方の壇上で各会の代表者達が挨拶している
どうも深海魚の様に徘徊しているのは

俺だけらしい

天井は丸ドームで
完熟したオレンジの果肉の様な
抽象画

まあ実は俺が描いたんだがな

するとある男に捕まっちまった
曰く、何かを俺に言って欲しいらしい
そんな大層な事したくない
だったら最初に言ってくれよ

“そんな事仰らずに!”

引かれるまま
連れて来られた
何故か皆んな静かになった
そんな大層な人間でもないぞ、俺は

だからそのままそう言った

それが何故だか笑いを取った

すると司会が

“この天井に描いた作品は?”

どういう質問だ?

“判らない”

するとまた笑われた
昔からこうだったな
俺が答える事ってのは
全部調子っ外れでよぉ

でも皆んな笑ってるからいっか…

“何故オレンジで描いたんですか?”

“知らねぇよぉ…”

また笑いが起こった
列席してる御偉方も笑ってる

“しかしとても素敵な作品です。
このサブウェイに相応しい”

“そうかい”

また笑い

“本日はどうも有難う御座いました!”

拍手が起こる
偉い奴らも皆、手を叩いてる
もう下がった
とっとと下がろう

しかしそんなに良い作品か?
俺は地下のマグマのメタファーとして描いたんだぞ?
つまりは
皮肉であり冷笑であり批判なんだが

それが伝わらないのなら
それでいい
俺の描いた地下のマグマが
このどこか肌寒いサブウェイの
暖を取る明かりの一個となっている

何が元でもいいのさ
俺が本当に言葉を
言う言葉がない、と言った時は
ジョークとして受けるんだから

地下に鎮座している列車に乗った
乗務員のレディーが
豪華な重箱の弁当をくれた
初出車の記念だそうだ

これは何処に行くのか?
ハデスの待ってる黄泉の国かな…
それを空想しながら
技術の最先端の乗り物の
中々良い座り心地のレザー張りの椅子に座り

目を閉じた

そういや
お姫様が絶対にこの玉手箱は開けるなって
言ってたよなぁ
眠い、起きたら考えよう



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💻WEB文芸誌『レヴェイユ』/編集者 柳井一平
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