第3章 ビジネス英語力向上のために その10) 英会話力向上のためにはリスニング中心の訓練を習慣に。既に持っている知識や経験を生かす

聴く力(リスニング能力)は基本的にはフィジカルな能力+記憶力(ボキャブラリー)ですが、知識や経験に基づく総合力でこれを高めることは可能です。
 
英語が苦手だと思っている人でも、日本人の場合は実はかなりのボキャブラリーはあるのです。
我々はだてに6年間中学校と高校で英語を勉強しているわけでは有りません。
 
ある程度のボキャブラリーと基本的な文法はすでに身についているので、その力を有効に活用するためには、既知の単語やイディオムを聴き取れるようにするトレーニングを繰り返す、つまり頭の中のカタカナ英語をネイティブの発音に書き換える作業を積み上げることが良い方法だと思います。
 
その過程、あるいは並行して会話のトレーニングでの発音の矯正や、OJTで実際にメール等で使うなどして持っているボキャブラリーを使うことも総合的なビジネス英語力の向上につながります。
 
また、学校で学んだ、あるいは仕事の中で得た自分の専門知識や経験を会話やコミュニケーションの中で活用することも有効です。
例えば、エンジニア同士の場合は専門用語(単語)を並べるだけでコミュニケーションが成立する場合がかなりあります。
 
これは、あまり良い例とは言えないお話ですが、僕が最初に勤めていたメーカーで、イタリアの同業種のメーカーをM&A(Merge and Acquisition : 吸収合併)してイタリアのエンジニアと共同開発を進めることになった時のことです。
イタリアから先方のチーフエンジニアが来日し、日本のスタッフと最初のミーティングを行ったのですが、入社して5年目くらいの後輩のソフトウェアエンジニアのマサトくんもその中にいました。
マサトくんはこう言っては失礼ですが、(当時は)あまりパッとした感じではなく、とても超一流国立大学卒とは見えない朴訥とした風貌(イニエスタ似)なのですが、ソフトウェア開発においては若輩ながら重責を担う存在だったのです。

そのミーティングはイタリアでそれまで開発を進めていたシステムの説明が中心で、僕も通訳がてら参加していたのですが、ひとしきりイタリア側からの説明が終わって質疑応答に入ってしばらくしてから、マサトくんが「Undoさん、今ンとこ質問したいんで通訳してください。」と言って口にしたのが、
「そのプリアンプティブなプログラムはコマンドですか?」
これにはボクもさすがに呆れて、
「あのなぁ…、頭にIsをつければ良いだけだろう!そのくらい自分で質問せんかい!」
とマサトに文句を言っている間にイタリア人が「Yes」と答えて説明を始めたということがありました。
もちろんマサトくんの口から出た言葉はガチガチのカタカナでしたが、それでもこんな基礎的な言葉は通じてしまうのです。
 
また以下は日経のスポーツ欄に掲載された野球の権藤元監督の悠々球論というコラムの「哲学通ずれば言葉も通ず」というタイトルで書かれていたお話です。
中日でプレーされていた頃、ドジャースから来た遊撃の名手に守備の極意を尋ねたところ、答えが「セランミロ」。
テキサス訛りがひどかったらしく、通訳の方は聴き取れなかったのですが、投手から野手に転向していた権藤さんは「センチ・アンド・ミリ」と言っているのだと解って、通訳の方から感心された由です。

権藤さんは守備は1センチ、1ミリ単位の足さばき、グラブさばきで違ってくるほど繊細なものだということを理解されているから、ちゃんと聴き取れなくても相手が何を言っているか分かったということなのです。
「共通するセンスや感情があれば言葉は通じる」と書かれています。

また、このコラムの最後は以下の言葉で締めくくられています。
「振り返れば、私は日本の監督やコーチより、米国の人たちに学んだ。
語学力は問題ではない。
要は相通ずる哲学があるかどうか。
中身のない日本人としゃべるより、カタコト・イングリッシュでも、中身のある外国人と話す方がためになるのだ」
 
この場合はかなり専門性が高いお話なので、さすがに日常的なビジネスには語学力は必要な訳ですが、ビジネスのコミュニケーションには(豊富な)経験に基づく(深い)理解力と知識が大切で、それによって言葉を超えるレベルでお互いの共通認識を築くことができる、という良い実例だと思います。

Fig 20)
リスニングのトレーニングのまとめ

 ここまで、リスニングとそのトレーニングについて書いてきたことをまとめると上記の様になります。
 
次回からはスピーキング及び英会話とそのトレーニングに関して、あくまでもビジネスのコミュニケーションのための視点から。

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