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世界遺産、ガウディのカサ・バトリョでクラシックコンサート
バルセロナのガウディの建築物と言えば、サグラダ・ファミリアやグエル公園などがありますが、カサ・バトリョも便利な立地とそのお菓子の家のようなキュートな外観から訪れる人も多いと思います。
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いつも建物の前は観光客で大混雑です。今回はそのカサ・バトリョを訪れた話。
カサ・バトリョとは
カサ・バトリョは元々あった建物を繊維産業で富をなしたジョセップ・バトリョが1903年に購入。現在もそうですが、当時もグラシア通り沿いはトレンディなエリアだったとのことで、建物自体は気に入らなかったものの立地の良さから購入したそうです。奇抜な建物にしたいということで、ガウディに改装を依頼。ガウディとその助手たちが1904年から1906年にかけて改装したそうです。700平米に及ぶ2階部分はバトリョ本人が住み、その他の階はアパートとして貸していたそうで、1950年代中頃まではバトリョ家が所有していました。
その後保険会社のオフィスやレンタル・スペースなどとして使用され、現在は博物館として公開されています。そして、2005年にガウディ建築として世界遺産に追加されました。
人気のカサ・バトリョの拝観料
ところがこのカサ・バトリョ、シーズンや時間帯によって異なりますが、一番ベーシックなチケットで29ユーロから45ユーロします(2024年11月現在)。全部見れるチケットは10ユーロは上乗せになるので、大体39ユーロから53ユーロほど(2024年11月現在)。日本円にすると驚愕の6,350円から8,700円(2024年11月現在)!丸1日楽しめるアトラクションならともかく、1時間くらいの見学で果たしてこの拝観料を払う価値があるかという疑問。
国内や市民から拝観料が高すぎるという批判が多いからか、スペイン国内在住者は二人で一人分の拝観料でOKというキャンペーンをやっていますが、それでもやはり地元の人も高い!と口を揃えて言います。
高額な拝観料の背景
現在のカサ・バトリョは世界的に有名なキャンディー、チュッパチャップスの創業者エンリク・ベルナト(故人)の子息が所有しています。オーグメンテッド・リアリティ(AR)やイマーシブ・エクスペリエンスなど比較的新しいテクノロジーを採用していることも高額な拝観料の理由の一つではあるのでしょうが、一番の理由はカサ・バトリョは利益を出すために一般公開されているということ。ベルナトの子息は5名おり、チケットの売り上げから毎年それぞれにおよそ3百万ユーロ(日本円にして5億円)づつ配分されるそうです。
利益を最大限出すために、高い拝観料を取り、混みあうほど多くの人を入れ、営業時間を延長し、特典の付いたプレミアム・チケットを販売するという構図が見えてきました。
芸術は皆のものという考え
以前住んでいたアメリカもそうですが、住民が無料でアートに触れる機会が多く設けられている欧米。スペインも例外ではなく、市営の博物館やその他施設であれば、無料の日が設定されていたりすることは通常。市営でなくても非営利団体であれば住む街の文化や遺産を市民に楽しんでもらう機会を設けているところが多いです。
ところが、このカサ・バトリョや同じくガウディによるカサ・ミラは何年か前までは年に数回無料開放の日があったのが、今ではすっかりなくなったようです。市民が無料で楽しめるのは、年に1-2回行われる外観のプロジェクション・マッピング、クリスマスライトアップやデコレーション。内部見学の機会はなかなかありません。
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ただ、無料開放の日は無くなっても、住んでいたら無料で入れるチャンスがあるだろうと待っていると、今回遂にそのチャンスが到来しました。無料コンサートシリーズの一つがカサ・バトリョで行われるとのこと。無事にチケットを入手し行ってきました。
閉館後のカサ・バトリョへ
開演は一般見学終了後のため夜9時と遅め。開演15分前に開場ということだったのでその少し前に到着しました。流石にこの時間だと外で外観の写真を撮っている人もほとんどおらず空いています。
ガウディ本人は語っていないものの、バルセロナの守護聖人である聖ジョージにちなんで、屋根は聖ジョージの剣が刺さった竜の背、1〜2階部分の柱は竜に殺された犠牲者の骨、バルコニーは仮面、ファサードのタイルは水面の波紋を表しているのではと言われています。
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玄関を入ると右手に階段。ブルーのタイルが海を彷彿させます。手すりのカーブもガウディらしいです。
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階段左手には守衛室。窓が曲線でキュートなのはやはりガウディ。
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守衛室の左手はバトリョ家の住まいへの玄関。
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竜の骨を思わせる階段。
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意外とシンプルなデザインの階段です。
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とにかくありとあらゆるところに曲線が。
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階段の手すりも。
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吹き抜けは日光がタイルに反射するように工夫されているそうです。夜なのでその効果は分かりませんでした。
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バトリョ氏の書斎にあるマッシュルームの形をした暖炉。ベンチに座って記念撮影をしました。普段は柵があるようです。
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開演前はほとんどの人が既に着席していたので、その間に廊下やホールなどを見学。ガウディ独特の曲線は見られますが意外と落ち着いた雰囲気です。
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バトリョ家のリビングルームは建物の中で一番中心の存在。大通りに面した大きな曲線を描いた窓が特徴です。
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天井もこの通り渦を巻いています。渦潮をイメージしているのでしょうか。
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奇抜なお菓子の家のような外観と比べると大分シンプルで落ち着いています。
世界遺産でコンサート
コンサートは50〜60人ほどの観客。バッハ2曲とスペインの作曲家の作品一曲でした。
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若干18歳と若いチェロ奏者。マドリードの音楽学校に通い、国内外のコンクールで数々の賞を取っているそう。
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時折バスや車の音が聞こえますが、ホール内はチェロの音色がかなり響きます。
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18歳とは思えない成熟した音色で、美しいガウディのデザインを眺めながらの束の間の1時間強でした。
実はガウディ建築で音楽を聴くのは2度目。前回はサグラダ・ファミリアの地下聖堂でクワイヤーコンサートを聴いています。
皆のための芸術とは何かを考える
度々NOTEで書いていますが、オーバーツーリズムで跳ね上がった入場料や拝観料はバルセロナに限りません。バルセロナに限って言えば、ガウディの設計によるグエル公園やグエル邸、ピカソ美術館などはバルセロナ市が所有しているため比較的入場料が抑えられています。
他方で民間の非営利団体や営利団体の拝観料は鰻上り。サグラダ・ファミリアも26〜36ユーロとそこそこの拝観料ですが、建設費に使われるということを考えると納得できる気がします。他方で、私有地なので当たり前とは言え、カサ・バトリョは合計25億円ほどのチケット収入が個人のポケットに入るという事実は衝撃でした。
今回カサ・バトリョを訪ねてみて、ガウディの曲線美のデザインにはさすが!訪れることができて良かったですが、思ったよりも随分シンプル。全部を見れた訳ではありませんが、やはり35〜55ユーロを払う価値があるとは思えませんでした。
価値観は人それぞれなので、価値があるだろうと思う人が多くいるのも事実。今回はコンサートという機会で入ったため比較的空いていて良かったですが、混雑している一般公開で入るとまた違う経験なのかもしれません。事実、グーグルマップのレビューでは、ポジティブなレビューも多いですが、「外観が一番素晴らしい」「混み過ぎで楽しめない」「拝観料が高すぎる」「部屋を移動する度に行列に並ぶ」などネガティブなレビューも多いです。
地元の人たちが訪れにくくなってしまったのはカサ・バトリョだけではなく、その他のガウディの建物も同様。利益追求だけでなく、観光客も地元の人もみんな楽しめる、そんな風になってほしいです。