0705 短歌
2020年4月 - 6月の短歌、27首。
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春風にもう黙してはいられない花びらを手に握り込んでいる
アンダンテでゆく金曜日 電車だってひとつ見送るくらいの気持ち
気まぐれに購っただけの一輪の水を毎日換える横顔
軽くなったペットボトルを飲み干して思いあまってぐしゃりと潰す
あのひとに会いに行かなきゃいけなくて毒を呑んでる暇とかないの
今しがた気づいたような振りをしてスコールの打つベランダを見る
遠ざかるテールランプと落ちた呟きも篠突く雨に紛れる
雨垂れが順々に打つ鍵盤の音がいつしか穿てとうたう
ただそれを後悔と称さないのは負け惜しみめいたものかもしれない
さよならのない関係で雨音とジャズを端末越しに聴いてる
月のない晩にシェルフへ忍ばせる透明標本(私はここよ)
秒針が無音を常とすることに感謝する日が来るとは知らず
靴紐を結び直して肩の鞄を直すついでに一回転半
君の言う“君”がわたしでないことを悲しくなんか思っていない
まだ何か思い出せない気もしつつリボン結びをするりと解く
あの夏を幻視していた/喉元に熱がつかえて声も出せない
ヒマワリを目蓋の裏に閉じ込めて後先なんて知らずに走る
階の三段下の君の手を取ったすぐさま並び立ちたく
踊り場もない階段を降りてゆく誰にも披露しない足取り
溺れて、せめて腕に絡まる気泡から過ぎる何かを見つけてみせて
夜にしか息がつけない指のさきネオンテトラがぱしゃりとはねる
短針と長針が今ゼロを指し瞬きのあわい流星が降る
指を組み祈るはきみの住む街に流星群が降りますように
窓越しに薄い汽笛をききながら切符の切り込みをただなぞる
満月を腹部に抱え何もかも委ねてしまうような安寧
それだけだ/月明かりさす踊り場でただ心拍のカウントをする
まだ上手く眠れないって明かしたら君は笑ってくれるだろうか